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平成17年神審第129号
件名

モーターボートセンチュリー運航阻害事件(簡易)

事件区分
安全・運航阻害事件
言渡年月日
平成18年3月14日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
岸 良彬

受審人
A 職名:センチュリー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
損傷ない

原因
燃料油の残量確認不十分

裁決主文

 本件運航阻害は,船外機用燃料油の残量の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月4日13時00分
 兵庫県神戸港六甲アイランド沖合
 (北緯34度39.3分 東経135度16.3分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボートセンチュリー
全長 7.64メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット
回転数 毎分5,500

3 事実の経過
 センチュリーは,FRP製モーターボートで,船体中央部にキャビン及び操縦席,後部甲板下にさぶた付の格納庫が設けられ,船尾端中央部に船外機が取り付けられており,平成8年8月にA受審人が四級小型船舶操縦士免許を取得して新造船で購入し,専ら週末の釣りに利用していたが,同人の体調が悪化したことから,同14年11月に仕事仲間であったBに売却された。
 船外機は,C社が製造したDT115TC型と称する2サイクル4気筒の機関で,ガソリンと潤滑油の容積比を300対4とした混合油を燃料とし,回転数を毎分5,000として運転したときの標準的な燃料消費量及び速力が,それぞれ毎時34.0リットル及び毎時約50キロメートルとなるが,船底外板の汚損状態などによりこれらの値がそれぞれ増減する旨が同社作成のカタログに記載されていた。
 燃料油タンクは,容量123リットルのステンレス鋼製で,固定配管で船外機に連絡し,航行中に同油が不足する事態に備えた容量24リットルの予備燃料油缶2個と共に格納庫内に設置されていた。
 操縦席は,キャビン内の上部に設けられ,操舵及び船外機の遠隔操縦が行えるようになっており,前面に設けられた計器盤には,回転計及び潤滑油圧力計のほか,燃料油タンクの残量を指示する6本の目盛りが刻まれたアナログ式燃料油量計などの計器が組み込まれていた。
 A受審人は,体調が回復してきたので久しく遠ざかっていた釣りに出ることとし,B所有者からセンチュリーを借り受け,平成17年5月4日07時00分に係留されていた兵庫県尼崎西宮芦屋港第2区の西宮浜に所在するマリーナに,一緒に海に出る約束をしていた釣り仲間3人と共に到着した。
 到着後,A受審人は,燃料油量計の指針が下から2目盛りの位置にあったのを認め,近くでガソリン約80リットルを購入し,同指針が最高位を示す6番目の目盛りになるまで補給して燃料油タンクの油量を約120リットルとし,予備燃料油缶2個を空の状態のまま,08時00分同受審人が1人で乗り組み,釣り仲間3人を同乗させ,船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,釣りの目的で往路の航程が約36キロメートルとなる明石海峡に向けマリーナを発した。
 ところで,A受審人は,これまで明石海峡で釣りを行った経験がなく,マリーナを発航するにあたり,センチュリーの船体外板にふじつぼなど多くの海洋生物が付着していることを認めたものの,以前センチュリーを所有していたとき,船外機の操縦ハンドルを前進一杯に上げ,回転数を毎分約5,000として運転すると,1時間あたりの燃料消費量が約30リットルとなることを記憶しており,その際の速力の感覚から,明石海峡までの距離を勘案すると40分程度で到着し,さらに,到着後に漁場を移動するわずかな時間を含めても復航のための燃料油量を十分に保有していると考えていた。
 発航後,センチュリーは,船外機が操縦ハンドルを前進一杯として運転されていたものの,船底外板の汚損などによる抵抗の増加により,対地速力が毎時約30キロメートルまでしか上がらなかったことから,単位距離あたりの燃料消費量が大幅に増えている状況のもと,神戸港を経て,北側の陸岸近くに沿う進路で西行を続けた。
 09時12分センチュリーは,江埼灯台から085度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点に達し,燃料油の残量が約60リットルとなった状態で船外機を停止してA受審人が同乗者と共に流し釣りを始め,その後,明石海峡大橋付近の兵庫県淡路島側海岸近くに場所を変えながら,折からの東流に乗じて釣りを続けていた間,潮上りなどのため適宜船外機の運転が繰り返されていた。
 11時58分A受審人は,大した釣果を得られないようであったので,釣りを切り上げてマリーナに向け帰航することとし,江埼灯台から080度3.3海里の地点を発進したとき,燃料油量が約45リットルまで減少しており,同油量計の指針が発航地で補給する前とほぼ同じ位置である下から2目盛り付近にあったが,過去の燃料消費量についての記憶から,まだ十分に余裕があるものと思い,同油量計を見て残量を確認しなかったので,思いの外消費量が多くなっていることに気づくことなく,まもなく操縦を希望した同乗者と操縦を交代した。
 こうして,センチュリーは,A受審人がキャビン後方の甲板上に出て同乗者に対する操縦の指導と見張りに就いたものの,依然として燃料油量計を見ていなかったので,兵庫県岩屋港や同県垂水漁港などに立ち寄って補給する措置をとることができず,操縦ハンドルを前進一杯とし,往航時の進路を逆に辿って東行していたところ,13時00分神戸港第7防波堤西灯台から131度1.27海里の地点において,燃料油が欠乏して船外機が停止した。
 当時,天候は晴で風力3の南南西風が吹き,海上は平穏であった。
 その結果,センチュリーは,A受審人からの依頼を受けて来援した巡視艇により,兵庫県六甲アイランド沖まで曳航されたところ,マリーナが差し向けた救援船から燃料油の補給を受けることができたので,船外機の運転を再開し,自力航行でマリーナに帰着した。

(海難の原因)
 本件運航阻害は,明石海峡での釣りを終え,発航地に向け釣り場を発進するとき,燃料油の残量の確認が不十分で,帰航に要する十分な量を保有しないまま航行中,同油が欠乏し,船外機の運転が不能となったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,海洋生物などの付着で船底外板が著しく汚損した状態で明石海峡の釣り場に至り,釣りを終えて往航時の進路を逆に辿って東行する予定で発航地に向け発進する場合,往航に予想を大きく超える時間を要したのであるから,発航地までに必要な燃料油の有無を判断できるよう,操縦席の計器盤に組み込まれた燃料油量計を見るなどして,同油の残量の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,過去の燃料消費量についての記憶から,まだ十分に余裕があるものと思い,燃料油の残量の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,思いの外消費していることに気づくことなく航行を続けているうち,同油の欠乏を招き,航行を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1号第3項を適用して同人を戒告する。





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