(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月24日19時45分
静岡県初島南東方沖合
(北緯35度00.6分 東経139度11.2分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート雅丸 |
登録長 |
6.94メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
33キロワット |
3 事実の経過
雅丸は,昭和52年9月に進水した,遊漁を目的とした限定沿海区域を航行区域とするFRP製和船型モーターボートで,主機が,B社が製造したS3F-M型と呼称するディーゼル機関に同61年3月換装され,船体中央甲板下に装備されており,操舵室後部に主機遠隔操縦装置が設置されていた。
主機の燃料系統は,機関室船尾壁面に設置されていた容量100リットルの燃料タンクの軽油が,沈殿槽,油水分離器を経由して主機直結供給ポンプで吸入・加圧され,燃料こし器を経て一体型の燃料噴射ポンプに送られ,同ポンプで加圧されて各シリンダの燃料噴射弁に供給されるようになっていた。
A受審人は,平成11年4月に現有免許を取得しており,同16年12月22日静岡県沼津市の販売業者から雅丸を中古購入する際,1時間ばかり同船の試乗を行った後,同市に雅丸を上架したままとし,船体塗装などのために時折同市に赴くなどしていた。
ところで,雅丸は,主機が経年使用されていて,燃料タンク底部にはスラッジ等の異物が滞留するようになっていた。
ところが,A受審人は,機関の整備来歴が明確でなかったものの,1時間ばかり支障なく試乗できたので大丈夫と思い,燃料タンクを開放掃除するなど主機燃料系統の点検を十分に行っていなかったので,同機が使用されれば,燃料こし器が前示異物で汚損され,目詰まりし始める状況となっていたが,このことに気付かないまま,燃料タンクを満タンクとしたうえ,航行中の補給用に110リットル入りの予備燃料タンクを積み込むなど回航準備を行った。
こうして,雅丸は,A受審人1人が乗り組み,同乗者1人を乗せ,船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同17年4月24日08時30分静岡県沼津港を発し,東京都大田区の係留地に向け,主機回転数2,500(毎分,以下同じ。)にかけ,回航中,燃料こし器が汚損されて目詰まりし始め,同こし器の燃料通過量が主機の燃料消費量に追いつかなくなり,燃料系統の配管内が次第に負圧となって主機が停止したものの,しばらく放置すれば,前示配管内の負圧が解消され,再び運転ができるようになる状況を数回繰り返していたが,燃料こし器の目詰まりがさらに進展し,同日19時45分初島灯台から真方位154度1.9海里の地点において,主機が自停し,再始動できないまま,漂流し始めた。
当時,天候は晴で風力1の南南西風が吹き,海上は穏やかであった。
A受審人は,コンパス,GPS等を積んでいないために船位が分からないまま,携帯電話で海上保安庁に救助を要請し,一時交信が不通となるなどしたものの,翌25日早朝には,わずかずつ燃料が供給される状況で配管内の負圧が解消されていて,主機の再始動ができたので,回転数1,500までの低速として東京湾に向け航行することとし,これまでどおり何度か主機の停止を繰り返しながら進行中,付近を捜索していた巡視艇に発見され,係留地に到着した。
その後,雅丸は,業者により主機が精査された結果,燃料こし器の目詰まりのほか,油水分離器のホース接続金具に亀裂等が判明し,のち各損傷部品が取り替えられた。
(海難の原因)
本件運航阻害は,機関の整備来歴が明確でない中古船を購入する際,主機燃料系統の点検が不十分で,燃料こし器が汚損されて目詰まりが進展するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,機関の整備来歴が明確でない中古船を購入する場合,燃料タンク等にスラッジ等の異物が滞留していることがあるから,燃料こし器等が汚損されて目詰まりすることがないよう,同タンク等を開放掃除するなど主機燃料系統の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,1時間ばかり支障なく試乗できたので大丈夫と思い,主機燃料系統の点検を十分に行っていなかった職務上の過失により,同こし器が汚損されて目詰まりが進展している状況に気付かないまま運転を続け,主機を自停させる事態を招き,運航を阻害させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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