(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年10月22日16時50分
岩手県綾里埼東南東方沖合
(北緯38度54分 東経142度10分)
2 船舶の要目
船種船名 |
第三十五豊幸丸 |
総トン数 |
69.91トン |
全長 |
33.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
536キロワット |
3 事実の経過
第三十五豊幸丸(以下「豊幸丸」という。)は,固定ピッチプロペラを装備し,さんま棒受網漁に従事する船尾船橋型鋼製漁船で,A受審人ほか16人が乗り組み,操業の目的で,船首1.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,平成16年10月22日07時00分岩手県大船渡港を発し,09時50分綾里埼東南東方20海里沖合の漁場に至り,日暮れまで待機するため漂泊を開始した。
ところで,豊幸丸の棒受網は,展張した寸法が縦,横とも約45メートルのナイロン漁網の4辺に1辺の長さが約30メートルの綱を付け,周囲が縮まり,中央部が垂れ下がった形となった綱の一辺に,向竹(むこうだけ)と称する長さ約35メートル強の丸棒を取り付け,向竹に相対する船側寄りの辺には等間隔に沈子を添わせてそれに7本ほどの引綱を付け,両方の側辺には引寄せロープを通した丸環を多数取り付けたもので,操業の手順は,左舷を風上側として,同舷から3本のブームに取り付けられた向竹を海面に下ろしてから漁網を投下し,風や海潮流を利用するなどして向竹を舷側から離し,引綱を延ばしながら同網を海中に張り出して敷設したのち,集魚灯を順次点滅させて魚群を左舷側中央付近に誘導し,引綱を巻き寄せるともに,引き寄せロープを縮めて,網の中央部に魚群を集めて捕獲するもので,投揚網する際には,通常,機関を中立としていた。
A受審人は,日没近くになったころ,乗組員に操業の準備に就かせ,自らは操舵室で操船にあたり,左舷正横から風を受ける態勢をとり機関を中立として漂泊し,16時45分綾里埼灯台から117.5度(真方位,以下同じ。)16.9海里の地点で,投網を開始した。
16時49分A受審人は,操舵室から投網作業を見守っていたところ,風と海潮流の兼ね合いで投入した漁網がうまく海中に敷設できずに左舷船首寄りに偏ったのを認め,再投網するため同網を一旦揚げることとし,漁網の揚収を始めたが,機関を使えば海面下の漁網の一部がプロペラに絡むおそれがあるのに,船体を少し前に移動させ取り込みやすくするのに短時間機関を使うだけなので問題ないものと思い,機関の使用を取り止めなかった。
こうして,A受審人は,16時50分わずか前機関を前進にかけた直後,16時50分前示投網地点において,豊幸丸は,315度に向首していたとき,回転したプロペラに漁網が絡まり,航行不能となった。
当時,天候は曇で風力1の南西風が吹き,日没時刻は16時44分で,付近海域には南に流れる海潮流があった。
その結果,豊幸丸は,手配した引船によって翌23日早朝大船渡港に引き付けられ,プロペラに損傷はなく,漁網の一部を破損したが,のち乗組員により補修された。
(海難の原因)
本件運航阻害は,日没直後の薄明時,岩手県綾里埼東南東方沖合において,さんま棒受網漁の投網時,うまく海中に敷設しなかった漁網を揚収する際,機関の使用を取り止めず,回転したプロペラに同網が絡まったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,日没直後の薄明時,岩手県綾里埼東南東方沖合において漂泊中,さんま棒受網漁の投網時にうまく海中に敷設せず左舷船首寄りに偏った漁網を揚収する場合,機関を使えば海面下の漁網の一部がプロペラに絡むおそれがあるから,機関の使用を取り止めるべき注意義務があった。しかるに,同人は,船体を少し前に移動させ取り込みやすくするのに短時間機関を使うだけなので問題ないものと思い,機関の使用を取り止めなかった職務上の過失により,機関を前進にかけ,回転したプロペラに漁網が絡まり,航行不能となる事態を招き,同網の一部を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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