日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  死傷事件一覧 >  事件





平成17年広審第110号
件名

水上オートバイ小野幸丸遊泳者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年3月27日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島 友二郎,吉川 進,米原健一)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:小野幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
遊泳者が右鎖骨開放骨折及び右大腿骨骨折

原因
飲酒運航防止措置不十分

主文

 本件遊泳者負傷は,飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月3日12時55分
 岡山県倉敷市高梁川「高梁川大橋」下流西岸
 (北緯34度34.1分 東経133度41.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ小野幸丸
全長 2.43メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 46キロワット
(2)設備及び性能等
 小野幸丸は,B社が製造して平成5年8月に第1回定期検査を受けたウォータージェット推進装置を有するFRP製の2人乗り水上オートバイで,ステアリングハンドルの右グリップに備えられたアクセルレバーの引き具合で速力を毎時約60キロメートルまで調整でき,ステアリングハンドルを右,または左に切ると,船体後部にあるジェットノズルから出るジェット噴流の向きが変わることにより旋回するものであった。

3 遊走水域付近の状況
 遊走水域は,岡山県高梁川の「高梁川大橋」から約600メートル(m)下流の川幅約600mの水域で,同川西岸の岡山県浅口郡船穂町にある福島山35.9m三角点(以下「三角点」という。)から050度(真方位,以下同じ。)1,240m付近及びその上流66m付近の2箇所に,川岸から水面下まで達する,上辺の幅が約15mで下方に行くに従って徐々に広がった扇形状の階段(以下,それぞれ「下流側階段」及び「上流側階段」という。)が設置されており,A受審人は下流側階段を小野幸丸の発着地点として使用していた。

4 事実の経過
 A受審人は,友人10人ばかりと共に,水上オートバイの遊走などを楽しむ目的で,平成16年10月3日09時30分岡山県高梁川の前示下流側階段近くの川岸に到着し,友人たちと交替で,付近水域で遊走を繰り返した。
 A受審人は,11時ごろから川岸でバーベキューの準備を始め,缶酎ハイ(350ミリリットル)1本を飲み,更に食事をしながら缶酎ハイ2本を飲んだのち,そのまま遊走を再開すると,飲酒運航になるおそれがあったが,これぐらいの酒量なら大丈夫と思い,遊走を中止するなど飲酒運航の防止措置をとることなく,救命胴衣を着用して1人で小野幸丸に乗艇し,12時55分少し前下流側階段から上流に向けて発進した。
 発進したときA受審人は,上流側階段に,膝下まで水に入って立っている遊泳者を認め,その至近で急旋回し,そのときに生じる水しぶきを浴びせて驚かそうと考え,対地速力を徐々に上げて時速35キロメートルとし,遊泳者に向け,川岸に沿って進行した。
 A受審人は,遊泳者を艇首少し左に見る態勢で続航し,12時55分わずか前,同人に約3mまで接近したとき接触の危険を感じ,ステアリングハンドルを右一杯に切ったが,旋回することができず,12時55分三角点から049度1,310mの地点において,艇首を北東に向け,原速力のまま,艇の左側前部が遊泳者に接触した。
 当時,天候は曇で風力2の北北東風が吹き,水面は平穏であった。
 その結果,遊泳者は,3箇月の加療を要する右鎖骨開放骨折,右大腿骨骨折及び前頭骨骨折を負った。
 なお,A受審人は,平成17年1月8日社団法人中国船舶職員養成協会が実施した船舶職員及び小型船舶操縦者法第23条の31第1項の規定による再教育講習を受講した。

(本件発生に至る事由)
1 昼食時に飲酒したこと
2 飲酒運航を行い,遊泳者に向け進行したこと

(原因の考察)
 本件は,昼食時に飲酒したのち,遊走を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとっていれば,遊泳者に向け進行することはなく,発生は回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,これぐらいの酒量なら大丈夫と思い,遊走を中止するなど,飲酒運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 昼食時飲酒したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件遊泳者負傷は,岡山県高梁川で遊走を楽しむにあたり,昼食時に飲酒した際,飲酒運航の防止措置が不十分で,遊走を再開して遊泳者に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,岡山県高梁川で遊走を楽しむにあたり,昼食時に飲酒した場合,飲酒運航とならないよう,遊走を中止するなど飲酒運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,これぐらいの酒量なら大丈夫と思い,飲酒運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,遊走を再開して遊泳者に向かって進行し,同人と接触する事態を招き,遊泳者に右鎖骨開放骨折,右大腿骨骨折及び前頭骨骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を2箇月停止する。これは,同人が国土交通大臣の指定する再教育講習を受講したことを酌量したものである。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION