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平成17年神審第115号
件名

モーターボートタカヤマ被引ウエイクボーダー死亡事件
第二審請求者〔理事官黒田敏幸〕

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,村松雅史)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:タカヤマ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
ウエイクボーダーが頭部外傷を負い死亡

原因
針路選定不適切

主文

 本件ウエイクボーダー死亡は,タカヤマの針路の選定が不適切で,ウエイクボーダーが桟橋を固定する鉄柱に激突したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月25日09時40分
 兵庫県姫路港
 (北緯34度46.3分 東経134度35.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートタカヤマ
全長 7.83メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 128キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体
 タカヤマは,昭和63年2月に第1回定期検査を受けた船外機付きFRP製プレジャーボートで,姫路港西汐入川水門付近に係留していた。
 船体中央部の右舷側に操縦席が設けられ,同席前面には風防ガラスがあり,その中央にバックミラーが装備されていた。また,操縦席後方には左右舷にそれぞれ2人掛けの座席が中央に向いて配置され,その上方には両舷端を逆U字型に架けたステンレス製のタワーと称するやぐら状の構造物があり,タワー中央の頂上にはウエイクボーダーを曳くための曳航ラインを係止する金具が付属していた。
イ ウエイクボーディング及びタカヤマの操縦
 ウエイクボーディングは,ウエイクボーダーが,長さ1.35メートル幅0.42メートルのFRP製ボード上に固定してある靴を履き,タカヤマのタワー中央に係止した直径3ミリメートル長さ19.70メートルの曳航ラインの端に取り付けた三角形のハンドルを握り,同船に曳かれて滑走するものであった。
 ウエイクボーダーは,曳航ラインの長さの範囲で左右に滑走したり,空中で回転したり,ボードをつかむ等の技を行い,その技のひとつにツーウエイクジャンプと称し,タカヤマの船尾方向にできる波高約50センチメートルの八の字に分かれた航走波を利用し,大きく振り出した状態で一方の航走波の外側から内側に向けて2つの航走波を飛び越し,着水するものがあった。
 タカヤマの操縦は,ウエイクボーダーが技を繰り出しやすいよう,できるだけ直進距離を長くして,安定した航走波を維持するとともに,ウエイクボーダーの安全な滑走水域を確保することが求められた。

3 本件発生水域
 本件発生水域は,姫路港内にある港則法が適用される水域で,姫路市網干区なぎさ公園と網干ボートパーク北側とに挟まれた幅100メートル,東西600メートルの水路になっていた。
 そして,網干ボートパークは,網干地区埋立地の北側に設けられた小型船舶係留施設で,T字型の浮き桟橋が陸岸から水路に向けて北に延び,横並びに3基配置されており,西側から順にC桟橋,G桟橋,K桟橋と呼ばれ,C桟橋は,幅2.5メートル,南北80メートル,東西80メートル,G桟橋及びK桟橋は,それぞれ幅2.5メートル,南北80メートル,東西126メートルで,浮き桟橋を固定するため,桟橋北側に約5メートル間隔に直径0.5メートル水面上の高さ4.4メートルの鉄柱が設置されていた。
 この水域の西端には,南北に網干海浜大橋が架かり,橋脚の間隔60メートル,橋脚中央の桁下が3メートルで,その西側は漁港の船だまりが隣接し,他方,なぎさ公園の東側は,問屋川の河口を挟んで東に600メートル延びたダイセル化学岸壁が隣接し,その南側は幅300メートルの水路となっていた。

4 事実の経過
 タカヤマは,A受審人ほか1人が乗り組み,友人2人とともに,ウエイクボーディングの目的で,船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年9月25日08時35分姫路港西汐入川水門北部の係留地を発し,同港網干地区埋立地北側の水域に向かった。
 08時40分タカヤマは,ダイセル化学岸壁の南東方水域に至り,ウエイクボーディング初心者である友人に練習をさせたあと,09時10分からA受審人がB所有者の操縦で問屋川南方から漁港の船だまりの水域を往復し,ジャンプや回転技等の練習を行い09時25分終了した。
 09時30分A受審人は,B所有者と交代して操縦にあたって,問屋川南方に至り,Cウエイクボーダーを船だまりに向かって曳きながら左右に滑走する等の練習を開始し,網干海浜大橋手前で転倒したので問屋川南方に戻り,再び船だまりに向けて150メートル進行したとき,K桟橋北東方40メートル付近で同人が転倒した。
 A受審人は,Cウエイクボーダーの周りを時計回りにゆっくり回って曳航ラインを渡し,曳航を開始する際,桟橋に著しく接近する針路とすると,左右に滑走するウエイクボーダーが桟橋を固定する鉄柱と衝突する恐れがあったが,これまで,何度も桟橋に接近して曳航したことがあるので大丈夫と思い,桟橋との正横距離を十分に確保した針路とすることなく,09時39分わずか過ぎ,網干防波堤灯台から290度(真方位,以下同じ。)830メートルの地点において,針路を251度に定めて15.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし,曳航を開始した。
 09時39分半過ぎA受審人は,操縦席の前に立って同じ針路を保持しながら同じ速力で進行中,左右に滑走していたCウエイクボーダーが,右側の航走波の外側に振り出してツーウエイクジャンプを行う態勢になり,その後,一気に2つの航走波を越えて左側に着水し,高い速力を維持したまま,ボードを制御できずに左に滑走し,09時40分網干防波堤灯台から277度1,150メートルに設置してあるC桟橋を固定する鉄柱に激突した。
 当時,天候は曇で風力3の北西風が吹き,海上は平穏で視界は良く,潮候は上げ潮の初期であった。
 その結果,Cウエイクボーダーは,頭部外傷を負い1時間後に死亡した。

(本件発生に至る事由)
1 狭隘な水域でウエイクボーディングをしたこと
2 15.0ノットの速力で曳航したこと
3 針路の選定が不適切で,桟橋との正横距離を十分に確保しなかったこと
4 ウエイクボーダーが着水後,ボードを制御できずに鉄柱に向かって滑走したこと

(原因の考察)
 本件は,網干ボートパークの桟橋北側の水域において,タカヤマの曳航ラインをつかんで滑走するウエイクボーダーが,右方に大きく振り出し航走波2つを飛び越して着水したあと,桟橋を固定する鉄柱に激突したことによって発生したもので,ウエイクボーダーが桟橋に著しく接近しないよう,タカヤマと桟橋との正横距離を十分に確保する等適切な針路を選定していれば,ウエイクボーダーが着水後,ボードを制御できなくとも桟橋を固定する鉄柱に衝突する事態は避けられ,本件発生に至らなかったものと認められる。
 したがって,タカヤマが,針路の選定が不適切で,桟橋との正横距離を十分に確保しなかったことは,本件発生の原因となる。
 また,タカヤマが,網干ボートパークとなぎさ公園に挟まれた狭隘な水域において,ウエイクボーディングをしたこと,15.0ノットの速力で曳航したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,この水域は港則法の適用区域で,小型船が出入航する水路でもあり,タカヤマが高速で曳航すれば,その波により,桟橋や係留している船舶が動揺して危険であるので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 ウエイクボーダーが着水後,ボードを制御できずに鉄柱に向かって滑走したことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件ウエイクボーダー死亡は,桟橋との正横距離を十分に確保する等タカヤマの針路の選定が不適切で,ウエイクボーダーが桟橋を固定する鉄柱に激突したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,網干ボートパーク北側の狭隘な水域でウエイクボーダーの曳航を開始する場合,桟橋に著しく接近して航走すると,左右に滑走するウエイクボーダーが桟橋に衝突する恐れがあったから,桟橋に著しく接近しないよう,桟橋との正横距離を十分に確保した適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまで何度も桟橋に接近する針路で,曳航したことがあるので大丈夫と思い,桟橋との正横距離を十分に確保した適切な針路を選定しなかった職務上の過失により,Cウエイクボーダーがツーウエイクジャンプをして着水したあと,高い速力のまま左方に滑走して桟橋を固定する鉄柱に激突する事態を招き,頭部外傷を負って死亡するに至らしめた。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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