(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年1月22日11時45分
大阪府泉州港
(北緯34度26.3分 東経135度14.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
旅客船おおぞら |
総トン数 |
16トン |
登録長 |
11.99メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
286キロワット |
(2)設備及び性能等
おおぞらは,平成3年4月に進水した2機2軸のFRP製グラスボートで,操舵室が船体前部に,その後部に客室が設けられ,操舵室内の左舷側に操舵輪と操縦席があり,その右前面にレーダーと魚群探知機が装備され,船首端から約1.5メートル後方の両舷端に高さ約20センチメートル(以下「センチ」という。)幅約20センチのクロスビットが設置されていた。
(3)運航模様
おおぞらは,関西国際空港2期空港島(以下「空港島」という。)の見学客に,同空港周囲護岸に設けられている海中藻場に集まる魚などを見せる目的で,毎週火,木及び土曜日並びに毎月第1,第3及び第5日曜日に就航する観光船で,大阪府阪南港地蔵浜を定係地とし,関空泉州港海上アクセス基地西防波堤灯台から真方位244度2,100メートルの地点の空港島東側護岸に設けられた専用桟橋を基地として,第1便が10時15分,第2便が11時45分,第3便が13時45分及び第4便が15時15分就航の1日4便の運航に従事していた。
(4)係留模様
おおぞらは,専用桟橋のビットから,直径約20ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製係留ロープを船首左舷のクロスビットに1本,船尾左舷角のビットに2本それぞれとり,出船左舷付けで係留していた。
3 事実の経過
おおぞらは,A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み,海中藻場見学ツアーに従事する目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成17年1月22日08時00分定係地を発し,同時45分空港島東側護岸の専用桟橋に到着した。
B指定海難関係人は,第1便の就航を終え,11時45分就航予定の第2便に備えて待機中,以前に乗っていた警戒船と同じように,取外し作業の簡単なアイ付き係留ロープを1本追加してクロスビットにとることをA受審人に提案した。
A受審人は,まだもやい結びなどができないB指定海難関係人のために直径約10ミリの合成繊維製ロープを使用して,両端に直径30センチのアイをもやい結びで設けた長さ約2メートルの係留ロープを試作し,左舷船首クロスビット用として渡したが,簡単な係留作業なので大丈夫だと思い,B指定海難関係人に対し,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行わなかった。
こうして,B指定海難関係人は,第2便の見学者15人の乗船が完了したので,タラップを外して出入口の上下式のドアを閉め,船首クロスビットの係留ロープの解らん作業に向かい,A受審人は,操舵室内の操舵輪後方の操縦席に腰をかけ,機関を始動し,クラッチは中立のまま出港準備にとりかかった。
11時45分少し前B指定海難関係人は,軍手の上にゴム手袋を着用して,まず左舷側船首クロスビットに八の字にとっていた係留ロープを解き,次にアイ付き係留ロープを取り外そうとしたものの,アイの直径が小さくなっておりすぐに外せなかったことから,結び目を緩めてアイの直径を大きくすることとしたが,係留ロープ取扱作業における安全確保に留意せず,不用意に結び目に指を入れて緩めていたところ,11時45分前示専用桟橋において,風か波で船が揺れ係留ロープが緊張して結び目が強く締まり,右手中指指先が着用していた軍手とゴム手袋とともに挟まれた。
当時,天候は晴で風力2の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,海上は穏やかであった。
B指定海難関係人は,思わず手を引っ込めたところ,軍手とゴム手袋が結び目に挟まれたまま脱げたものの,約2週間の加療を要する右手中指指先を切断する傷を負うに至った。
A受審人は,第2便の運航が終了して見学者が下船したのち,B指定海難関係人から負傷したとの報告を受け,直ちに救急車の手配をし,事後の措置に当たった。
(本件発生に至る事由)
1 アイ付き係留ロープを作製したこと
2 A受審人がB指定海難関係人に対し,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行っていなかったこと
3 アイがクロスビットから抜けなかったこと
4 B指定海難関係人が,係留ロープの結び目に指先を入れて挟まれたこと
(原因の考察)
本件乗組員負傷は,おおぞらが,大阪府泉州港において,離岸作業中,乗組員が係留ロープの結び目に指先を挟まれて発生したものである。
A受審人が,B指定海難関係人に対し,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行っておれば,同指定海難関係人が係留ロープの結び目に指先を入れたまま作業を行うなど不適切な行動をとらず,本件発生を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,B指定海難関係人に対し,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行っていなかったことは,本件発生の原因となる。
また,B指定海難関係人が,係留ロープ取扱作業における安全確保に留意しておれば,係留ロープの結び目に指先を入れないで,同結び目に指先を挟まれることはなかったものと認められる。
したがって,B指定海難関係人が係留ロープ取扱作業における安全確保に留意せず,同ロープの結び目に指先を入れて挟まれたことは,本件発生の原因となる。
アイ付き係留ロープを試作したこと及び同アイがクロスビットから抜けなかったことは本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
(海難の原因)
本件乗組員負傷は,大阪府泉州港において,離岸作業時の安全措置が不十分で,乗組員が係留ロープの結び目に指先を入れて挟まれたことによって発生したものである。
安全措置が十分でなかったのは,船長が乗組員に対し,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行っていなかったことと,乗組員が係留ロープ取扱作業における安全確保に留意しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は,大阪府泉州港において,乗組員を離岸作業に従事させる場合,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,簡単な係留作業なので大丈夫と思い,係留ロープ取扱作業における安全確保についての指導を十分に行わなかった職務上の過失により,乗組員が緩めていた係留ロープの結び目に指先を入れて挟まれ,約2週間の加療を要する右手中指指先を切断する傷を負うに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,大阪府泉州港において,離岸作業に従事する際,係留ロープ取扱作業における安全確保に留意せず,緩めていた係留ロープの結び目に指を入れて挟まれたことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,十分に反省している点に徴し,勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。
|