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平成16年仙審第69号
件名

漁船第六わかば丸訪船者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成18年2月16日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第六わかば丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第六わかば丸一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:第六わかば丸次席一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
補佐人
a(A,B及びC各受審人選任)

損害
訪船者が右前頭部裂傷及び全身打撲傷

原因
船内立入り制限措置不十分,揚荷物周囲の安全確認不十分

主文

 本件訪船者負傷は,船内立入り制限措置が不十分であったことと,揚荷物周囲の安全確認が不十分で,訪船した給食業者従業員が移動した揚荷物に押されて魚倉内に転落したこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年7月16日15時00分
 宮城県石巻漁港
 (北緯38度24.7分 東経141度20.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第六わかば丸
総トン数 349トン
全長 63.24メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
(2)設備及び性能等
ア 第六わかば丸
 第六わかば丸(以下「わかば丸」という。)は,平成4年8月に進水した,大中型まき網漁業に従事する全通二層甲板型鋼製漁船で,第2甲板下には船首方から順に機関室下段,1番魚倉ないし6番魚倉及び燃料油タンクが配置され,上甲板下には船首方から順に甲板長倉庫,機関室上段,7番魚倉ないし10番魚倉及び操舵機室が配置され,各甲板の魚倉が船首尾方中央の通路を挟んで左右に区画されており,上甲板には,中央部から船首寄りにかけて船橋楼が設けられ,船橋楼の後方が長さ15.0メートル幅12.0メートルの漁労作業甲板,その後方が網置き場になっていた。
 なお,各魚倉の深さは3.0メートルであった。
イ 漁労作業甲板下方の魚倉及び魚倉ハッチ
 漁労作業甲板下は,8番魚倉,9番魚倉及び10番魚倉が配置され,8番魚倉の下方に3番魚倉と4番魚倉の前半分,9番魚倉の下方に4番魚倉の後半分と5番魚倉,10番魚倉の下方に6番魚倉が配置していた。
 各魚倉には,1.75メートル四方のハッチが1個設けられていたが,9番魚倉にはこのハッチのほかに,船首側に同じ大きさの4番魚倉用ハッチが設けられていた。
 なお,漁労作業甲板には漁獲物積み込等の作業を円滑にするため高さ30センチメートル(以下「センチ」という。)の魚倉ハッチコーミングと同じ高さの木製グレーチングが張られていた。
ウ 揚荷装置等
 主マストは,船橋楼後部中央に設けられ,1本の主ブームと2本の補助ブームを備え,これらのブームは,主ブーム右舷側の端艇甲板の操作スタンドから油圧ウインチにより遠隔操作されるようになっており,漁労作業甲板の中央前部寄りには,パースウインチが設置されていた。
 主ブームは,各所に滑車が取り付けられていて作業に応じて使い分け,補助ブームは,基部にカーゴウインチが取り付けられ,同ウインチのカーゴワイヤロープが同ブーム突端の滑車を通し,同ワイヤロープの先端には滑車が取り付けられていた。
 また,電動ホイストが主マストの右舷側に2台,左舷側に3台設置され,各ホイストにはワイヤロープ(以下「ホイストワイヤロープ」という。)が1本巻いてあり,ホイスト操作を延長コードスイッチで行うようになっていた。
エ 水揚げ及びブライン塩の積込み
 水揚げ及びブライン塩の積込みは,主ブームを船体中心線上に,補助ブームを舷外に少し振り出してそれぞれワイヤで固定し,カーゴワイヤロープ先端の滑車と主ブームの滑車にそれぞれホイストワイヤロープを通して,両ワイヤロープの接続部に揚荷用フックを取り付け,ホイスト2台によるけんか巻きで行うようになっていた。

3 停泊中の給食
 わかば丸は,石巻漁港停泊中,乗組員の食事を数年前から石巻市内の給食業者からとり,今回も停泊中の給食を発注し,1日3食とも同業者がその都度わかば丸へ運ぶことになっていた。

4 事実の経過
 わかば丸は,A,B及びC受審人のほか18人が乗り組み,金華山沖合で漁獲したかつお350トンを積載し,水揚げとブライン塩の積込み目的で,船首3.7メートル船尾5.1メートルの喫水をもって,同16年7月15日22時30分石巻漁港に入港して魚市場岸壁に左舷付け係留し,交通のため網置き場に岸壁からタラップをかけた。
 停泊中の作業は,乗組員が2組に分かれて交代で行っており,今回の水揚げとブライン塩の積込み作業は,B受審人を作業責任者としてC受審人,安全担当者の二等航海士D,甲板員6人,機関長,機関員2人,司厨長と陸上から応援の作業員3人が従事し,A受審人ほか残りの乗組員は休暇をとり,翌16日06時00分作業に従事する乗組員が,安全帽を着用して水揚げを始めた。
 ところで,揚貨装置を使用して,貨物の巻上げまたは巻下ろしそのほか貨物を移動する作業を行っているとき,貨物などが落下したり,人と接触したりするおそれのある場所へは,立入りを制限しなければならなかったが,A受審人は,これまで関係者以外の人が船内に入っても事故がなかったことから大丈夫と思い,タラップに関係者以外の立入禁止の警告板を掲示するなど,立入り制限措置をとらなかったので,給食業者従業員は,漁労作業甲板を通って船橋楼の賄い室に給食を直接運んでいた。
 B受審人は,同日10時30分午前中の作業終了を指示して昼食をとり,12時00分から午前中に引き続き3番,4番及び6番の各魚倉の水揚げ作業にかかり,各航海士がホイストの延長コードを持ちながら,担当魚倉内や岸壁側を見たりして作業指揮をとり,他の乗組員が魚倉内の作業などに従事した。
 13時00分B受審人は,4番両舷魚倉の水揚げが終わり,空倉となった同魚倉の水洗いを指示し,14時00分水洗いが終わったことから,自らホイスト操作して同魚倉へブライン塩84トンを積み込むこととし,最初に左舷側魚倉へ積み込むため同魚倉内に2人配置し,機関員Eをフック掛けに当たらせ,両魚倉ともハッチを開け放したままとした。
 一方,漁獲物が残っていた魚倉は,3番右舷側魚倉の3トンと6番両舷魚倉の合計10トンのみで,C受審人が3番右舷側魚倉の,D二等航海士が6番魚倉の水揚げをそれぞれホイスト操作して行っており,水揚げ作業を行っていない魚倉ハッチは閉鎖していた。
 ところで,ブライン塩は,同塩が入った状態で,高さ1.3メートル直径1.2メートルの円筒形状となるビニール製袋に入れられ,1袋の重さが1トンあり,袋の頂部にはフックを掛けるための穴が3個開けてあった。ブライン塩入り袋の積込みは,岸壁のクレーンで漁労作業甲板に10数袋揚げたのち,ホイストで1袋ずつ魚倉に降ろし,倉内の作業員が袋の底を開いて中のブライン塩を抜き出し,空の袋を引き揚げるものであった。
 B受審人は,4番左舷側魚倉にブライン塩を10袋投入した14時50分ころ,主ブームの固定ワイヤロープとホイストワイヤロープが,甲板からの高さが約4メートルのところで擦れ合っていることに気付き,両ワイヤロープの上下の間隔を広げて擦れないようにするため,カーゴワイヤロープ先端の滑車の引揚げによりホイストワイヤロープを引き揚げることとし,一旦,フックを掛けたブライン塩入り袋を4番左舷側魚倉用ハッチから斜め右後方に50センチ離して甲板上に置き,自らは同ハッチの船首側でワイヤの擦れ具合が見やすかったことからその位置にいることとし,14時57分C受審人にカーゴウインチを操作させるため3番右舷側魚倉の水揚げを中断させた。
 そのころ,Tシャツズボン姿で長靴を履いた給食業者従業員Fが,夕食のおかず入りダンボール箱を左肩に載せ,右手にご飯入りの買い物手提げかごを持ち,タラップを昇っていた。
 B受審人は,ワイヤロープの擦れを直すに当たり,C受審人にカーゴウインチの操作を指示する作業指揮者の立場にあったが,フックを掛けたブライン塩入り袋の周囲に人がいることはあるまいと思い,同袋周囲の安全を確認せず,船首方を向いて真上のワイヤロープの擦れ具合を見ていたので,F従業員が同袋に向かって歩いていることに気付かず,また,操作スタンドにいたC受審人も船尾方を向き,斜め上方のワイヤロープの擦れ具合を注視し,B受審人の指示を待っていて同袋周囲の安全を確認しなかったので,同従業員に気付かなかった。
 こうして,B受審人は,カーゴワイヤロープの引揚げを指示し,C受審人がカーゴウインチで同ワイヤロープを引き揚げたところ,ブライン塩入り袋が20センチばかり4番左舷側魚倉用ハッチの方にずれ動き,ちょうどブライン塩入り袋と同ハッチの間を歩いていたF従業員が同袋に背部を押され,15時00分石巻漁港東防波堤灯台から真方位307度560メートルの地点において,4番左舷側魚倉に積まれたブライン塩の上に転落した。
 当時,天候は曇で風力2の南南東風が吹き,海上は穏やかであった。
 この結果,F従業員は,石巻市内の病院に搬送されたが,入院加療2週間及びその後長期の通院を要する右前頭部裂傷及び全身打撲傷を負った。
 本件後,わかば丸は,停泊中,タラップに関係者以外立入禁止と表示した警告板を掲示し,給食をタラップのところで乗組員が受け取るように改善した。

(本件発生に至る事由)
1 上甲板にはハッチコーミングと同じ高さに木製グレーチングが張られていたこと
2 A受審人がこれまで関係者以外の人が船内に入っても事故がなかったことから大丈夫と思い,船内立入り制限措置をとらなかったこと
3 主ブーム固定ワイヤロープとホイストワイヤロープが擦れたこと
4 C受審人がブライン塩入り袋周囲の安全を確認しなかったこと
5 B受審人がブライン塩入り袋の周囲に人がいることはあるまいと思い,同袋周囲の安全確認をしなかったこと
6 F従業員が4番魚倉用ハッチとブライン塩入り袋との間を通ったこと

(原因の考察)
 本件は,船員安全衛生規則に従い,船内立入り制限措置をとっていたなら,給食業者従業員が漁労作業甲板を通ることもなく,また,ワイヤロープの擦れを直す際,ブライン塩入り袋周囲の安全確認をしていたなら,同従業員に気付き,同従業員の転落が防止できたものである。
 したがって,A受審人がこれまで関係者以外の人が船内に入っても事故がなかったことから大丈夫と思い,船内立入り制限措置をとらなかったこと,及びワイヤロープの擦れを直す際,B受審人がブライン塩入り袋の周囲に人がいることはあるまいと思い,同袋の周囲の安全確認をしなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 C受審人がブライン塩入り袋周囲の安全を確認しなかったこと,及びF従業員が4番魚倉用ハッチとブライン塩入り袋との間を通ったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 漁労作業甲板にはハッチコーミングと同じ高さに木製グレーチングが張られていたこと,及び主ブーム固定ワイヤロープとホイストワイヤロープが擦れたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件訪船者負傷は,石巻漁港の岸壁に係留中,船内の揚荷装置を使用して水揚げとブライン塩の積込み作業を行うに当たり,船内立入り制限措置が不十分であったことと,揚荷装置のワイヤロープの擦れを直すためウインチ操作をする際,同ロープに吊されたブライン塩入り袋周囲の安全確認が不十分で,同ロープを引き揚げたとき,給食を搬入中の給食業者従業員が,移動した同袋に押されて魚倉内に転落したこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,石巻漁港の岸壁に係留中,船内の揚荷装置を使用して水揚げとブライン塩の積込み作業を行う場合,巻上げまたは巻下ろし中の貨物が落下または移動するおそれのある場所へ立入ることのないよう,タラップに立入禁止の警告板を掲示するなど,船内立入り制限措置をとるべきで注意義務があった。ところが,同人は,これまで関係者以外の人が船内に入っても事故がなかったことから大丈夫と思い,船内立入り制限措置をとらなかった職務上の過失により,擦れ合うワイヤロープを引き離すためウインチを操作中,同ロープで吊っていたブライン塩入り袋が移動し,給食を搬入中の給食業者従業員に接触して同人が魚倉内に転落する事態を招き,入院加療約2週間及びその後長期の通院を要する右前頭部切創及び全身打撲を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,船内の揚荷装置を使用して水揚げとブライン塩入り袋の積込み中,作業指揮者として擦れ合うワイヤロープの引き離しのためウインチ操作を次席一等航海士に指示する場合,同ロープで吊していたブライン塩入り袋が移動するおそれがあったから,同袋周囲の安全を確認すべき注意義務があった。ところが,同人は,ブライン塩入り袋の周囲に人がいることはあるまいと思い,同塩入り袋周囲の安全を確認しなかった職務上の過失により,真上のワイヤロープの擦れ合う箇所を見ていて,給食を搬入中の給食業者従業員が同袋近くを歩いていることに気付かないまま,同航海士にウインチ操作を指示し,同従業員が移動した同袋に押されて魚倉内に転落する事態を招き,前示の負傷をさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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