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平成17年広審第125号
件名

油送船せいわ丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年3月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進,米原健一,道前洋志)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:せいわ丸機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)
B 職名:せいわ丸前任機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機過給機のロータ軸折損

原因
主機過給機ロータ軸の点検不十分

主文

 本件機関損傷は,主機過給機のロータ軸の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月31日00時50分
 玄界灘
 (北緯33度34.8分 東経129度38.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 油送船せいわ丸
総トン数 1,254トン
全長 74.97メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 2,059キロワット
回転数 毎分240
(2)設備及び性能等
ア 主機
 主機は,平成3年にC社が製造した6EL38型と称するディーゼル機関で,D社が製造したNR26/R型と称する排気タービン過給機を備え,クラッチ付逆転機を通してプロペラ軸を,船首側のエアクラッチを介して軸発電機を駆動するようになっていた。また,燃料噴射ポンプの管制軸に始動・停止ハンドル,油圧ガバナ及び非常停止ピストンが接続されていた。
 潤滑油系統は,二重底内サンプタンクの潤滑油が電動潤滑油ポンプで加圧され,こし器及び冷却器を経て主軸受など主要部と,過給機に分配され,潤滑と冷却を終えて再びサンプタンクに戻るもので,潤滑油主管には油圧低下警報用及び保護装置用の各圧力スイッチが取り付けられていた。
 過給機は,排気ガスタービンのロータ軸にブロワインペラを取り付け,同軸中央部をブロワ側及びタービン側ジャーナルとスラストリングからなる浮動スリーブ式軸受で支え,軸受の潤滑油を主機の潤滑油系統から供給されていた。また,取扱説明書では,回転部の異常を生じたときはロータ軸一式のバランス確認や同軸の詳細点検を行うよう記述されていた。
 保護装置は,過回転数及び潤滑油圧力が低下したときに制御空気が非常停止ピストンを押して燃料管制軸を押し下げ,主機を停止させるようになっていた。
イ ディーゼル発電機
 ディーゼル発電機は,容量264キロボルトアンペアで,A重油を燃料とするディーゼル機関が駆動し,燃料系統にゴーズワイヤ式の一次こし器とノッチワイヤ式の二次こし器が取り付けられていた。
ウ A重油サービス系統
 A重油サービス系統は,船体付タンクから内容積1,500リットルのA重油サービスタンクに移送し,そこからディーゼル発電機,主機等に供給するもので,セットリングタンクが設置されておらず,清浄機も装備されていなかった。
エ 船内電源
 船内電源は,ディーゼル発電機又は軸発電機がそれぞれ単独で給電するもので,航海中,ディーゼル発電機が給電中に電源喪失しても軸発電機が自動バックアップするようになっていなかった。
オ 熱媒ボイラ
 熱媒ボイラは,熱媒油を重油バーナで摂氏220度に昇温して加熱箇所との間を循環させるもので,C重油など高粘度の貨物油を加熱するために,貨物油タンクの加熱コイルに熱媒油を送る循環ポンプを2基備えていた。
(3)運航状況
 せいわ丸は,普段は大阪,和歌山,徳山などの石油精製基地から水島港への片道1日以内の航海を毎月12回ほど行い,主機の運転時間が年間4,000時間ばかりであった。
 ディーゼル発電機の燃料こし器は,毎月2回の頻度で開放され,付着したスラッジや異物が掃除されていた。

3 事実の経過
 せいわ丸は,A受審人が平成15年11月15日に休暇下船し,交替機関長としてB受審人が乗船し,同月下旬に名古屋での積荷を京浜地区で揚げ荷したのち,空船で和歌山下津港に向かう航海中に荒天に遭遇し,船体付A重油タンク底部に沈殿していたスラッジが舞い上がり,A重油サービスタンクに大量に混入した。
 ディーゼル発電機は,A重油サービスタンクのスラッジを吸い込み,燃料こし器がスラッジで詰まり気味になったが,機関入口の燃料供給圧力計が装備されていなかったので,こし器の詰まり具合を一目で見ることができなかった。
 せいわ丸は,和歌山下津港で積荷をしたのち,同年12月1日08時00分同港を発し姫路港に向かい,港外でリングアップしたのち,揚げ地までの距離が短いことからディーゼル発電機で船内給電され,貨物タンクの加熱を準備するために熱媒ボイラの循環ポンプが始動されたところ,電力の急増に対して同発電機の燃料供給が追いつかず,同発電機の回転数と電圧が低下して主遮断器がトリップし,08時30分船内電源を喪失した。
 主機は,船内電源の喪失で潤滑油ポンプが停止し,潤滑油圧力が低下して保護装置の非常停止ピストンが作動したが,油圧ガバナを抑えきれなかったものか停止せず,監視室にいた当直機関士が機側に降りて始動・停止ハンドルを停止位置に下げ,08時31分過ぎようやく停止したものの,電源喪失のまま1分間以上運転が続くうちに過給機軸受が異常摩耗してブロワインペラが吸込ケーシングに激しく接触し,過給機ロータ軸に大きな曲げ応力とねじり応力が加わって,同軸のブロワ側ジャーナル部分に亀裂を生じた。
 せいわ丸は,ただちに仮泊して主機の点検が行われたところ,過給機軸受が異常摩耗し,ブロワインペラが吸込ケーシングと接触して削られているのが分かり,ディーゼル発電機については燃料こし器に大量のスラッジが付着しているのが認められた。
 B受審人は,過給機の軸受一式を予備品と取り替え,ブロワインペラの接触部分の返りを削り取るなど補修を行ったが,軸受一式を取り替えたうえ同インペラの返りも修正したのでそれまでと同様に運転できるものと思い,ダイヤルゲージを当てて振れを見たり,カラーチェックを施すなど,ロータ軸の点検を十分に行うことなく,再び過給機を組み立て,主機を無負荷運転して異常ないと判断し,船主にも運航を続けられる旨を連絡した。
 せいわ丸は,12月1日夕刻から運航を再開し,航海中の主機の出力が従前どおりで運転されるうちに過給機のロータ軸の亀裂が進展した。
 A受審人は,同月25日に休暇を終え,B受審人からディーゼル発電機の燃料こし器の詰まりで電源喪失したこと,主機の非常停止不作動の経過,過給機軸受一式の取替え等を説明されて引き継ぎ,数箇月後の入渠に際して過給機を開放点検することとした。
 こうして,せいわ丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,船首1.8メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,12月30日14時35分三池港を発し,大分県杵築湾内の錨地に向かい,主機を全速力前進の回転数毎分227にかけ,軸発電機で船内電源に給電して航行中,翌31日00時50分的山大島長崎鼻灯台から真方位046度5.6海里の地点で,主機過給機のロータ軸が折損し,主機の回転数が急激に低下した。
 当時,天候は曇で風力3の西南西風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,機関室に入ってただちにディーゼル発電機を始動して電源に投入し,当直機関士に指示して主機をハンドル操作で停止させ,付近に仮泊して主機の無過給運転の措置を行い,せいわ丸は,減速運転して博多港に入港した。
 精査の結果,過給機は,ロータ軸のブロワ側ジャーナル部でねじりによる繰返し応力が加わった破断面を呈して折損しているのが分かり,のちロータ軸仕組,軸受一式など損傷部が取り替えられた。

(本件発生に至る事由)
1 A重油サービス系統に,セットリングタンクが設置されておらず,清浄機も装備していなかったこと
2 ディーゼル発電機の燃料こし器が,詰まり気味になっていたこと
3 船内電源を喪失した際,主機が停止しなかったこと
4 B受審人が,ダイヤルゲージを当てて振れを見たり,カラーチェックを施すなど,ロータ軸の点検を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件機関損傷は,過給機ロータ軸が,軸受のブロワ側ジャーナルの当たり部で折損したもので,約1箇月前に同軸受が異常摩耗し,ブロワインペラが吸込ケーシングと激しく接触しており,その際に同軸に過熱とねじり応力が加わって亀裂を生じ,その後の運転で同亀裂が進展したと認めるのが相当である。
 B受審人が,過給機の軸受一式を取り替えて補修を行った際,回転体の各部にダイヤルゲージを当てて振れを見たり,カラーチェックを施すなど,詳細に点検しておれば,ロータ軸の異常を発見し,本件発生を防止できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,ダイヤルゲージを当てて振れを見たりカラーチェックを施すなど,ロータ軸の点検を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 A重油サービス系統に,セットリングタンクが設けられておらず,清浄機も装備されていなかったことは,スラッジが大量にディーゼル発電機に送られて燃料こし器が詰まり気味になり,熱媒ボイラの始動時に急激な負荷の増加に燃料供給が追いつかず,電源喪失につながったのであり,本件発生に至る過程で関与した背景となったものであるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,装置についてとられたコスト削減と思われる簡素化が思わぬ事態を生じさせたもので,海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 なお,船内電源を喪失した際,主機が自動停止しなかったことは,過給機が,潤滑油圧力が低下したまま運転され,軸受が異常摩耗してロータ軸に亀裂を生じることになった原因であるが,本件発生との因果関係はない。しかしながら,海難防止の観点から,油圧ガバナや管制軸リンクの摩擦など,保護装置の停止ピストンの動作を阻害する要因が取り除かれなければならない。
 A受審人は,休暇を終えて機関長の職務を引き継ぎ,運転中に過給機の周辺に振動があることに気付いたが,B受審人から軸受一式の取替え模様を聞かされ,数日の後に本件が発生しており,メーカーに依頼して開放点検の必要があると予見することは困難であった。
 したがって,A受審人の所為は原因とならない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,航海中に電源喪失し,潤滑油圧力が低下したまま主機が非常停止せず,過給機軸受が異常摩耗して軸受一式を取り替えて補修を行った際,同ロータ軸の点検が不十分で,同軸に亀裂を生じたまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,航海中に電源喪失し,潤滑油圧力が低下したまま主機が非常停止せず,過給機軸受が異常摩耗して軸受一式を取り替えて補修を行う場合,ブロワインペラが吸込ケーシングと激しく接触した痕を認めたのだから,ロータ軸に異常が生じていないか確認できるよう,ダイヤルゲージを当てて振れを見たりカラーチェックを施すなど,ロータ軸の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,軸受一式を取り替えて,ブロワインペラの返りも修正したのでそれまでと同様に運転できるものと思い,ロータ軸の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,ロータ軸に亀裂を生じたまま運転を続け,同軸が折損する事態を招き,主機が運転不能となるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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