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平成17年横審第83号
件名

貨物船ニュー美津機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年3月1日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(濱本 宏,田邉行夫,小寺俊秋)

理事官
相田尚武

受審人
A 職名:ニュー美津機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)
補佐人
a

損害
主機ピストンリングの膠着

原因
主機潤滑油の性状管理不十分

主文

 本件機関損傷は,冷却清水混入のおそれがあった主機潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月6日14時30分
 千葉港
 (北緯35度33.9分 東経140度01.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ニュー美津
総トン数 199トン
全長 58.22メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分350
(2)設備及び性能等
ア ニュー美津
 ニュー美津は,平成9年2月進水し,限定沿海を航行区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,主機として,B社が製造したML627GSC-35型と呼称する,圧縮空気で始動されるディーゼル機関が船尾甲板下の機関室に据え付けられ,各シリンダ及び主軸受には船首側から順番号が付され,架構船尾側上部には過給機が装備されており,船橋に主機遠隔操縦装置が設置されていた。
イ 主機潤滑油系統
 主機潤滑油系統は,同機油だめの200リットルの潤滑油が潤滑油清浄機で側流清浄されつつ,主機直結潤滑油ポンプにより吸入・加圧されて主機軸受入口潤滑油圧力(以下「油圧」という。)2.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)以上を確保され,250メッシュのゴーズワイヤ式複式こし器(以下「こし器」という。)及び潤滑油冷却器を経て,同油主管から各シリンダのピストンに至るほか,カム軸の軸受,駆動歯車等に送油される強制潤滑方式で,容量1,100リットルの潤滑油補助タンクにも送油され,同タンクをオーバーフローした同油を含め,いずれも主機油だめに戻るようになっていた。
 また,ピストンとシリンダライナとの摺動部(しゅうどうぶ)の潤滑は,クランクアームの回転によるはねかけで行われるようになっており,主機クランク室にはオイルミスト管が付設されていた。

3 事実の経過
 ニュー美津は,主に飼料輸送に従事し,九州から瀬戸内海を含め,関東までの太平洋沿岸を航行しながら,月に2昼夜にわたる航海を8航海行い,主機が月間350時間ばかり運転され,平成12年4月第2回定期検査工事及び同14年10月第一種中間検査工事において,主機全シリンダのピストン抜出し整備及びピストンリング新替えなどが実施され,主機潤滑油の全量更油が行われていた。
 A受審人は,機関長として機関の運転保守に当たっていて,平素,主機の油圧保持に努め,10日ごとに主機潤滑油こし器の開放掃除を実施し,3ないし4箇月ごとに潤滑油清浄機の開放掃除を行い,主機油だめに10日で50リットル程度の潤滑油を補給するなどしていた。
 ところで,ニュー美津は,同16年8月9日主機の始動時のエアランニングで,5番シリンダのインジケータ弁から水が噴出し,点検したところ,シリンダヘッド排気通路腐食破口部からの冷却清水の漏洩(ろうえい)と判明し,同シリンダヘッドが新替えされていた。
 その際,A受審人は,主機潤滑油が同機取扱説明書には運転時間2,500時間で性状分析を行うなどして,要すれば同油を交換する旨記載されていたが,潤滑油清浄機による側流清浄がなされていたとはいえ,前回の更油から7,000時間を超えて使用され,更油時期を大幅に過ぎており,前示シリンダヘッドの腐食破口部から燃焼室への漏洩が判明した冷却清水が主機油だめに混入して同油を汚損しているおそれがあったのに,クランク室内を一瞥して大丈夫と思い,潤滑油業者に同油の性状分析を依頼するなどして主機潤滑油の性状管理を十分に行わないまま,運転を続けていた。
 こうして,ニュー美津は,A受審人ほか3人が乗り組み,飼料用穀物のマイロ660トンを積載し,船首2.6メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,同年9月6日14時10分千葉県千葉港を発し,愛知県衣浦港に向け,主機回転数毎分320にかけ航行中,同機3番シリンダのピストンリングが膠着(こうちゃく)し始め,燃焼ガスの吹抜けを生じ,同日14時30分千葉港市原防波堤灯台から真方位286度2.5海里の地点において,オイルミスト管から多量の白煙が噴出し始めた。
 当時,天候は曇で,風力3の南西風が吹き,海上は穏やかであった。
 その後,A受審人は,主機の潤滑油消費量が増大するなどしていて,オイルミスト管からの白煙噴出量が次第に増加したものの,連絡を取った機関製造業者の指示どおり,主軸受には目立った温度変化がないことを確かめたうえ,こし器の切替え掃除を頻繁に行うなど油圧保持に努め,定期検査受検時期を4箇月早めることとし,ニュー美津は,同年12月の入渠までの3箇月間を無難に運航され,同入渠工事において,全シリンダのピストン抜出し整備及び損耗していたピストンリング,クランクピン軸受メタル等は取り替えられ,主軸受メタル,ピストン及びシリンダライナ等はすべて再使用されて,復旧されていた。

(本件発生に至る事由)
1 潤滑油業者に性状分析を依頼するなど主機潤滑油の性状管理を十分に行っていなかったこと

(原因の考察)
 本件は,主機シリンダヘッドに腐食破口を生じた際,冷却清水混入のおそれがあった主機潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。
 機関長が,潤滑油業者に性状分析を依頼するなどして主機潤滑油の性状管理を十分に行っていたなら,更油時期を大幅に超えて使用されていたうえ,当該シリンダヘッド排気口の腐食破口部からの漏洩した冷却清水が燃焼室経由で主機油だめの潤滑油に混入し,汚損が進行しているおそれがあった同油の継続使用の可否等に対する適切な判断がなされ,主機3番シリンダのピストンリングが膠着し始め,燃焼ガスの吹抜けが発生したことによるオイルミスト管からの白煙噴出には至らなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,主機潤滑油の性状管理を十分に行っていなかったことは,オイルミスト管からの白煙噴出の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機シリンダヘッドに腐食破口を生じた際,冷却清水混入のおそれがあった主機潤滑油の性状管理が不十分であったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,主機シリンダヘッドに腐食破口を生じた場合,潤滑油業者に性状分析を依頼するなど冷却清水混入のおそれがあった主機潤滑油の性状管理を十分に行わなかったことは,3番シリンダのピストンリングが膠着し始め,燃焼ガスの吹抜けが発生し,オイルミスト管から白煙が噴出した原因となる。しかしながら,同人は,その後,機関製造業者からの指示に従って主機主軸受部の点検を実施し,主機潤滑油清浄機及び頻繁にこし器等の開放掃除を行うなど主機の油圧保持に努め,オイルミスト管から白煙の噴出が次第に増加したものの,定期検査受検を早めることとした入渠までの3箇月間同機が無難に運転された点に徴し,職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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