(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月11日04時00分
日本海大和堆
(北緯39度52分 東経134度20分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十八吉丸 |
総トン数 |
122トン |
登録長 |
28.81メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
500キロワット |
回転数 |
毎分380 |
3 事実の経過
第三十八吉丸(以下「吉丸」という。)は,昭和58年3月に進水した鋼製漁船で,境港を基地として7日ないし10日の操業航海でかにかご漁に従事し,主機としてB社が製造した6M24FT型と称するディーゼル機関を装備し,主機にはNHP20A型と称する排気ガスタービン過給機が備えられていた。
主機は,各シリンダヘッドの排気ガス出口と過給機タービンとの間を1番から3番シリンダと4番から6番シリンダの2群の排気マニフォルドで接続され,各群に2箇所ずつ伸縮継手が取り付けられていた。
伸縮継手は,呼び径100Aの鋼製フランジにSUS304製の厚さ0.6ミリメートル(mm)のベローズ式外管と厚さ1.5mmの内管を取り付けて面間距離95mmとし,内管の出口側が自由端となっていた。
過給機は,軸流排気ガスタービンが遠心ブロワを駆動するもので,タービンロータ軸にブロワインペラを取り付け,同軸を両端の玉軸受で支持し,全体をタービン車室,排気入口囲,渦巻室及びブロワ覆と呼ばれる各ケーシングに収めていた。
過給機のタービンノズルは,4群のノズルが全周のノズルリングとして組み立てられ,排気入口囲に取り付けられていた。
主機は,部品や仕組などの項目毎に取扱説明書に点検頻度が記載され,高温にさらされる排気マニフォルドについては,20,000時間ないし25,000時間毎に,あるいは4年毎に亀裂や変形がないか点検するよう明示されていた。
吉丸は,毎年9月1日から翌年の7月2日までを漁期とし,主機の年間の運転時間が7,000時間ばかりで,毎年7月以降の休漁期間中に上架され,主機のピストン抜き整備が行われた。
主機は,船舶件名表抜粋写中の陸上試験成績記録によると,毎分回転数380(以下,回転数は毎分のものとする。)での排気温度が摂氏340度(以下,温度は摂氏で示す。)ばかりであったところ,経年変化で同温度が上昇しており,かにかご縄を投入するときの同回転数での運転時には,同温度が400度を超え,過給機入口の排気マニフォルドでは450度にも達するようになっていた。
A受審人は,平成9年から吉丸の機関長を務めており,主機の排気マニフォルドの伸縮継手が,ガスケットの当たり部やベローズに破孔を生じて取り替えたことがあり,休漁期に主機を整備するときには,毎年開放する主要部以外に,数年置きに点検する事項についても整備業者に点検を指示することができたが,運転中にその都度対処して部品を取り替えれば問題ないものと思い,平成16年8月に定期検査で主機が開放整備された際に,伸縮継手の内管端部を目視点検するなど,排気マニフォルドを十分に点検させることなく,同部に熱疲労で亀裂が生じていることに気付かず,同継手を取り替えないまま整備を終えた。
主機は,同年9月2日から再び操業が開始され,運転が行われるうち,1番シリンダから3番シリンダまでの排気マニフォルドに取り付けられた伸縮継手の内管端部に生じていた亀裂が,高温の排気による過熱にさらされて進展した。
こうして,吉丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,かにかご漁の目的で,船首1.2メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成16年11月7日09時40分境港を発し,翌8日漁場に至って操業を開始し,同月11日03時45分から主機を380回転にかけてかにかご縄を投入していたところ,主機の前示排気マニフォルドに取り付けられた伸縮継手の内管端部が破損し,04時00分北緯39度52分東経134度20分の地点において,破片が過給機に侵入してノズルリングとタービン翼に激突し,大音を発した。
当時,天候は曇で風力6の南風が吹いていた。
A受審人は,機関室に赴き,主機の排気温度が異常に上昇していたので回転数を下げさせ,かにかご縄の投入を終えたのち主機を停止し,過給機の軸受が破損していることを認め,主機が運転不能と判断した。
吉丸は,僚船にえい航されて境港に引き付けられ,過給機が開放され,精査の結果,ノズルリング及びタービン翼が欠損したうえロータ軸が曲がっていることが分かり,のちノズルリングが取り替えられ,タービン翼の植替えとロータ軸曲がりを修正するなどそれぞれ修理された。
(海難の原因)
本件機関損傷は,主機の整備管理に当たり,排気マニフォルドの点検が不十分で,同マニフォルドの伸縮継手の内管端部に熱疲労で亀裂を生じたまま運転が続けられ,同部が破損してその破片が過給機に侵入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機の整備管理に当たり,上架して整備業者に主機の開放整備を行わせる場合,主機が経年変化で排気温度が上昇しており,度々破孔を生じるなどして排気マニフォルドの部品取替えを要したのであるから,伸縮継手の内管端部を目視確認するなど,排気マニフォルドを十分に点検させるべき注意義務があった。しかるに,同人は,運転中にその都度対処して部品を取り替えれば問題ないものと思い,伸縮継手の内管端部を目視確認するなど,排気マニフォルドを十分に点検させなかった職務上の過失により,同部に熱疲労で亀裂を生じたまま運転を続け,同端部が破損して過給機に侵入する事態を招き,過給機のノズルリング及びタービン翼に欠損とロータ軸に曲損とを生じさせ,主機の運転が不能となるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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