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平成17年長審第81号
件名

漁船第十八光洋丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年1月30日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
千葉 廣

受審人
A 職名:第十八光洋丸機関長 海技免許:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機過給機ロータ軸,タービン翼及びケーシングなどの損傷

原因
主機の過負荷運転回避措置不十分

裁決主文

 本件機関損傷は,主機の過負荷運転の回避措置が不十分で,過給機に過大な応力が作用したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月17日19時35分
 東シナ海
 (北緯32度46.1分 東経126度34.8分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八光洋丸
総トン数 135トン
登録長 36.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分610

3 事実の経過
 第十八光洋丸(以下「光洋丸」という。)は,平成2年1月に進水した可変ピッチプロペラ装備の鋼製漁船で,長期間係船されていたところ,鳥取県を本拠地とする水産会社に用船され,船体及び機関を整備したうえ,平成15年8月から船団の網船として広く東シナ海の漁場で大中型まき網漁業に従事していた。
 主機は,B社が製造した6MG28HX型と称する連続最大出力1,765キロワット同回転数750(毎分回転数,以下同じ。)の機関で,進水時に燃料制限装置を付設して出力が登録出力まで制限されていたが,いつしか,同装置が取り外されており,船橋に備えた主機遠隔操縦スタンドには,主機回転計,プロペラ翼角計,各種警報ランプ等のほか,各シリンダ燃料噴射ポンプのラック目盛平均値を示す負荷指示計が組み込まれていた。
 主機の過給機(以下「過給機」という。)は,単段ラジアル式のタービン翼車と遠心式のブロア翼車を備える,B社製のNR24/R型排気ガスタービン式過給機で,平成15年の稼働前に主機とともに開放整備されていた。
 なお,主機燃料噴射ポンプのラック目盛平均値は,連続最大出力時が約20であったのに対し,陸上試運転成績表によれば,プロペラ翼角が23度で主機回転数が610に相当する登録出力全負荷時が約14であった。
 ところで,主機は,船体汚損や荒天遭遇などで船体抵抗が増加したときは,設定回転数を維持しようとガバナが作用し,燃料油が多量に投入されて回転数に相応した出力を超えるいわゆるトルクリッチ運転となり,特に高負荷域で運転中は過負荷運転となるおそれがあるので,排気温度や負荷指示計の示度等を目安に,連続最大出力時の値を超えないよう設定回転数を低めに定める必要があった。
 A受審人は,平成15年8月から機関長として乗り組み,一等機関士及び機関部員4人を指揮して機関の運転管理に当たり,全速力前進時の主機回転数及びプロペラ翼角については,負荷指示計の示度20を目処に主機の連続最大出力付近に定めたうえ,主機の運転操作については操船者に任せていた。
 光洋丸は,A受審人ほか21人が乗り組み,船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって,平成16年1月9日12時00分船団の僚船とともに山口県下関漁港を発し,翌10日06時ごろ済州島南東方の海域に至り,日中は機関を停止して漂泊しながら日没から夜明けまで操業を繰り返していたところ,15日から天候が悪化して船体の動揺が大きくなった。
 A受審人は,船体の動揺に伴い,空転はなかったものの主機回転数が大きく変動するようになったことを認め,操業中は一等機関士と2時間交替で機関室当直に就く体制をとったが,主機の負荷については,回転数の変動域を全速力前進時の設定回転数以下に抑えておけば過負荷運転になることはないと思い,操船者にその旨を指示しただけで,負荷指示計の示度が20を超えないように設定回転数を十分に下げるなど,過負荷運転の回避措置をとらなかった。
 こうして,光洋丸は,同月17日16時ごろから主機を全速力前進にかけて魚群探索に掛かったところ,折からの向かい風を受けて船体抵抗が増加し,主機回転数はある程度抑えられていたものの,負荷指示計の示度が20を超えて変動する状況となり,排気温度が上昇して過給機のタービン翼に過大な変動応力が繰り返し作用するまま運転が続けられ,船橋で操船中の船長が減速しようと主機回転数を下げ始めたとき,19時35分北緯32度46.1分東経126度34.8分の地点において,同翼背面に生じた微小亀裂が一挙に進行して折損し,過給機が爆発音を発するとともに主機回転数が低下した。
 当時,天候は曇で風力7の北風が吹き,海上は波が高かった。
 A受審人は,機関監視室で爆発音を聞き,同時に主機の回転数が低下したことから,過給機が損傷したものと判断して主機を停止し,過給機を開放してタービン翼などの異状を認め,僚船に救援を依頼した。
 光洋丸は,僚船に曳航されて長崎県長崎港内の造船所に引き付けられ,修理業者によって過給機を開放点検したところ,タービン翼のほか,ロータ軸,タービン側及びブロア側の両ケーシングなどの損傷が判明し,のち過給機は完備品と取り替えられた。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,荒天下,向かい風を受けながら魚群探索中,主機の過負荷運転の回避措置が不十分で,過給機タービン翼に過大な変動応力が繰り返し作用したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機の運転管理に当たり,荒天下,向かい風を受けながら魚群探索中,主機回転数が大きく変動することを認めた場合,主機がトルクリッチ運転となっているおそれがあったから,過負荷運転とならないよう,負荷指示計の示度等を目安に設定回転数を十分に下げるなど,主機の過負荷運転回避措置をとるべき注意義務があった。しかしながら同人は,主機回転数の変動域を全速力前進時の設定回転数以下に抑えているので過負荷運転になることはないと思い,主機の過負荷運転回避措置をとらなかった職務上の過失により,排気温度が上昇して過給機タービン翼が折損する事態を招き,正常運航を不能とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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