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平成17年函審第41号
件名

漁船第七十八住吉丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成18年1月31日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(弓田邦雄,西山烝一,堀川康基)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第七十八住吉丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)

損害
主機のピストン及びシリンダライナ焼損並びに燃料噴射弁外筒の変形

原因
冷却水ポンプ軸継手の整備不十分

主文

 本件機関損傷は,主機直結冷却水ポンプの軸継手の整備が不十分で,主機が過熱したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月24日03時40分
 北海道茂津多岬西方沖合
 (北緯42度54.0分 東経138度39.5分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七十八住吉丸
総トン数 89トン
登録長 23.69メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 389キロワット
(2)設備及び性能等
ア 主機等  第七十八住吉丸(以下「住吉丸」という。)は,昭和55年2月に進水した,さけ・ます流し網漁業及びいか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で,主機としてB社が同54年9月に製造した6MG20AX型と呼称する,連続最大出力389キロワット同回転数毎分705(以下,回転数は毎分のものとする。)の過給機付海水冷却式4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を備え,船体中央部の操舵室から遠隔操作されるようになっており,主機の各シリンダには船首方から順番号が付されていた。
イ 主機の冷却水系統
 海水吸入弁から海水が主機直結冷却水ポンプ(以下「冷却水ポンプ」という。)に吸引加圧され,潤滑油冷却器,空気冷却器を冷却後入口主管に至り,シリンダジャケット,シリンダヘッドを冷却したのち出口集合管を経て船外に排出されるようになっており,標準の冷却水出口温度が摂氏40ないし50度(以下,温度は摂氏で示す。),同温度上昇警報の作動値が60度であった。
 なお,電動遠心式雑用水ポンプ(以下「雑用水ポンプ」という。)からも主機に送水できるようになっていた。
ウ 冷却水ポンプ
 主機後部のギヤ装置から駆動軸を経て回転される渦流式ポンプで,主機右舷側中央の床面上の高さに位置し,同軸とポンプ軸とがCG形の軸継手で結合されていた。
エ 冷却水ポンプの軸継手
 軸継手は,駆動軸及びポンプ軸にそれぞれキー止めされた,3個のボルト穴を有する三角形状のフランジの間に,六角形状で周囲に6個のボルト穴を有し,穴部両端面には鋼板が張られたゴム体を挟み,その両側からそれぞれ3個の鋼製継手ボルトを互い違いに差し込んでフランジに通し,スプリング座金を介して菊形ナットで締め付けたうえ,同ナットに回り止め割りピンを取り付けるもので,ゴム体の厚みが32ミリメートル(以下「ミリ」という。),ボルト穴中心円径が85ミリ,ボルト穴径が12.2ミリであった。
 なお,主機取扱説明書には,冷却水ポンプの軸継手の点検・整備について特に記載していなかったが,4,000ないし6,000時間ごとに主機直結各ポンプの作動部を点検するよう記載していた。
オ 主機シリンダヘッド
 吸・排気弁各2個が組み込まれ,燃料噴射弁はシリンダヘッド中央部に配置され,同弁孔の側面周囲は開口しており,同孔に長さ140ミリ外径40ミリ厚み2.3ミリのリン脱酸銅管(以下「燃料噴射弁外筒」という。)を挿入したうえ,小溝が付いたシリンダヘッド上下部との接触面をエクスパンダで拡管してかん合され,燃料噴射弁外筒の外側が冷却水と接するもので,かん合後6キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)で水圧試験が行われていた。

3 事実の経過
 住吉丸は,北海道函館港を基地とし,日本海で例年4月から6月までさけ・ます流し網漁に,7月から12月までいか一本釣り漁にそれぞれ従事し,主機の年間使用時間が約2,800時間であることから,検査工事ごとに主機のピストン抜き等の全般的な整備を行い,その間の休漁期においては潤滑油取替え等の主機の整備を行っていた。
 ところで,冷却水ポンプは,平成14年3月第一種中間検査工事において,軸継手の開放・復旧は乗組員が行い,整備業者の工場に搬入されて開放整備されたが,同12年から翌年にかけて取り替えられた同継手のゴム体は再使用された。
 A受審人は,同15年3月整備後の出漁から機関長に昇進したところ,翌16年休漁期の整備に当たり,潤滑油取替え等の主機の整備を行ったものの,冷却水ポンプの軸継手が長期間整備されておらず,照明が暗い主機付属配管の下にあって,出漁後では同継手を十分に点検できない状況にあり,同継手のゴム体が劣化して破損するおそれがあったが,同ポンプが今まで異常なく運転しているので大丈夫と思い,同継手の整備を行うことなく,長期間の使用によりゴム体が劣化し,各継手ボルト穴周囲の表面に微小亀裂等が生じていることに気付かなかった。
 同年4月上旬出漁後,A受審人は,時々冷却水ポンプ軸継手の継手ボルトの緩みの有無などを点検していたものの,ゴム体の劣化状況の点検を行わず,生じた亀裂が内部に進展していることに気付かなかった。
 住吉丸は,A受審人ほか6人が乗り組み,いか一本釣り漁の目的で,船首1.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,同年9月23日11時00分函館港を発し,主機回転数690の全速力とし,北海道北部西方沖合の漁場に向かった。
 こうして,住吉丸は,漁場向け航行中,冷却水ポンプ軸継手のゴム体が破損して同ポンプが停止し,翌24日03時40分茂津多岬灯台から真方位288度55.2海里の地点において,冷却水温度上昇警報の作動に気付いた操機長が操舵室に連絡し,船長が主機の回転を下げた。
 当時,天候は曇で風力3の東北東風が吹いていた。
 A受審人は,01時ごろ機関室当直を交替して同室後方の船員室で仮眠していたところ,主機の回転の低下に気付いて機関室に赴き,主機が過熱しているのを認め,直ちに停止した。
 A受審人は,冷却水ポンプの軸継手が破損しているのを認め,主機を冷却水出口集合管の温度計で40度ばかりまで自然冷却したのち雑用水ポンプから送水したところ,各シリンダのシリンダヘッドの燃料噴射弁孔と同弁との隙間から冷却水の漏洩を認め,同ヘッドに亀裂を生じたと判断して主機の運転を諦め,その旨船長に伝えて救助を要請し,来援した巡視船に曳航された。
 この結果,冷却不良により,3番シリンダのピストン及びシリンダライナが焼損し,冷却水の漏洩は,シリンダヘッドが過熱したことにより,燃料噴射弁外筒かん合部のかしめが緩んだためと判明し,のち同シリンダのピストン及びシリンダライナ並びに全シリンダの変形した同外筒が取り替えられた。

(本件発生に至る事由)
1 冷却水ポンプの軸継手の整備が不十分で,長期間の使用によりゴム体が劣化したこと
2 冷却水ポンプ軸継手のゴム体の劣化状況の点検を行っていなかったこと
3 冷却水ポンプ軸継手のゴム体が破損して同ポンプが停止したこと

(原因の考察)
 本件は,冷却水ポンプの軸継手の整備を十分に行っていれば,ゴム体が劣化して破損することがなく,主機が過熱することを回避できたと認められる。
 したがって,A受審人が,冷却水ポンプの軸継手の整備を休漁期に行わず,長期間の使用で劣化したゴム体が破損し,同ポンプが停止して主機が過熱したことは,本件発生の原因となる。
 冷却水ポンプ軸継手のゴム体の劣化状況を点検していなかったことは,同継手が照明が暗い狭所にあって出漁後では十分な点検ができず,また,同ポンプ駆動装置は休漁期に整備すべきものであることを勘案し,原因とするまでもない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,休漁期に主機の整備を行う際,冷却水ポンプの軸継手の整備が不十分で,長期間の使用により同継手のゴム体が劣化して破損し,同ポンプが停止して主機が過熱したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,休漁期に主機の整備を行う場合,冷却水ポンプの軸継手が長期間整備されておらず,同継手が照明が暗い狭所にあって,出漁後では同継手を十分に点検できない状況にあり,同継手のゴム体が劣化して破損するおそれがあったから,同継手の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,冷却水ポンプが今まで異常なく運転しているので大丈夫と思い,同ポンプの軸継手の整備を行わなかった職務上の過失により,長期間の使用により同継手のゴム体が劣化して微小亀裂等が生じていることに気付かず,その後の使用でゴム体が破損して同ポンプが停止し,主機が過熱する事態を招き,3番シリンダのピストン及びシリンダライナを焼損させ,全シリンダの燃料噴射弁外筒を変形させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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