(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年7月17日14時30分
広島湾大矢鼻沖
(北緯34度09.9分 東経132度25.4分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船第六大鵬丸 |
総トン数 |
18トン |
登録長 |
17.60メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
368キロワット |
回転数 |
毎分1,800 |
(2)設備及び性能等
第六大鵬丸(以下「大鵬丸」という。)は,昭和59年2月に進水した一層甲板型のFRP製漁船で,かき養殖漁業に従事し,主機としてB社が製造した8LAS-DT型と称するディーゼル機関を装備していた。
船体は,船首部にクレーンを備え,中央部にかきを載せる作業甲板,船尾部に機関室,燃料タンク区画及び操舵機室を配置し,機関室上の甲板に操舵室を配置していた。
主機は,V形シリンダ配置で,海水で冷却水及び潤滑油を冷却する間接冷却方式をとり,排気ガス管が左右4シリンダずつ各舷の過給機に接続されていた。
主機の排気ガスは,各舷毎に過給機を出たものが,ミキシングパイプから塩化ビニール製排気管に導かれ,燃料タンク区画と操舵機室を通過して船尾排気口から船外に排出されていた。
主機の海水系統は,主機駆動のゴムインペラ式ポンプで加圧された海水が,潤滑油,冷却水及び給気をそれぞれ冷却したのち左右舷に分岐し,各舷のミキシングパイプで排気系統に合流していた。
ミキシングパイプは,砲金製で,排気ガスが通る内管の外側に海水を導入する二重管構造になっており,呼び径50ミリメートルのエルボで海水が注入されて出口部で内管と合流し,排気ガス温度を低下させるもので,エルボへの海水接続部にゴム継手が使われていた。
主機の計器盤は,操舵室に設置され,潤滑油圧力計及び冷却水温度計のほか潤滑油圧力低下及び冷却水温度高の警報ブザーと警報スイッチが備えられていた。
3 事実の経過
大鵬丸は,10月から翌年5月までかき筏からかきを収穫し,作業甲板に積んで陸上の作業場に運び,6月から9月までかき筏の修理及び種付けに関わる移動の各作業に従事しており,複数の船長が交代して運航に携わっていた。
主機は,船主が地元の機関整備業者に依頼して,燃料こし器,Vベルトの取替えなど不具合が生じた箇所の整備が行われていたが,平成15年8月に取り替えられた海水ポンプインペラが摩耗し,リップの欠損箇所が増えて海水の吐出量が徐々に減少していた。
A受審人は,平成16年7月17日06時45分ごろ出港前に主機の潤滑油量と冷却水量を点検したのち,警報スイッチが切られていることはないものと思い,主機の同スイッチを確認することなく,操舵室で主機を始動し,その際に船尾排気口からの海水排出量を点検しなかった。
大鵬丸は,A受審人が1人で乗り組み,かき筏のえい航作業の目的で,船首0.3メートル船尾3.0メートルの喫水をもって,07時00分広島県江田島市の柿浦漁港を発し,08時30分同市西能美町三高沖の漁場に着いてかき筏のえい航作業の準備に取りかかった。
A受審人は,主機を中立回転で運転したままかき筏のえい航準備を行ったが,三高沖までの航行中に船尾から水蒸気が出ていたので海水量は問題ないものと思い,船尾排気口からの海水排出量を点検しなかった。
大鵬丸は,船尾にかき筏のロープを取り,10時00分三高沖を発し,主機を回転数毎分1,200にかけて江田島市深江漁港沖のかき養殖場に向かっていたところ,主機の海水ポンプのリップが更に欠損して海水の吐出量が急激に減少した。
A受審人は,14時ごろ機関室を上から覗(のぞ)いてビルジ量など異常がないことを視認したが,なおも船尾排気口からの海水排出量を確認しなかった。
こうして,大鵬丸は,主機の海水量が減少して冷却水温度が上昇したが,警報スイッチが切られたままで警報が作動せず,海水量が減少したまま主機の運転が続けられたところ,排気系統のミキシングパイプが過熱し,海水接続部のゴム継手が熱で軟化して外れ,海水が途絶えた両舷の塩化ビニール製排気管が過熱して発火し,14時30分鹿川港鎌木防波堤灯台から真方位208度1.84海里の地点において,機関室が火災となった。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,海上は穏やかであった。
A受審人は,船尾からの排気ガスが灰色を帯びていることに気付き,いったん主機を800回転まで減速してみたものの,排気ガスの色が変わらず,更に減速して機関室内を覗き込み,白煙が充満してプラスチックの燃える臭いがするうえ,ビルジの量が増加していることを認め,主機を停止して僚船に応援を依頼し,同船から乗り移った同僚とともに消火器を使って消火に当たった。
この結果大鵬丸は,深江漁港に引き付けられて精査され,主機の海水ポンプインペラのリップが全て欠損し,ミキシングパイプの海水接続部のホースが離脱しており,機関室,燃料タンク区画及び操舵機室の内壁各部が焼損しているのが分かり,のち焼損部が全て除去されたうえ補修が施され,主機が換装された。
(本件発生に至る事由)
1 海水ポンプインペラが摩耗し,リップの欠損箇所が増えて海水の吐出量が徐々に減少していたこと
2 主機を始動後,警報スイッチを確認しなかったこと
3 船尾排気口からの海水排出量を確認しなかったこと
(原因の考察)
本件火災は,海水による排気管の冷却が途絶えて塩化ビニール製の排気管が過熱して発火したもので,警報スイッチが入っていて冷却水温度警報が正常に作動しておれば,海水の流量不足に気付き,高負荷での運転を続けずに減速して,排気管の過熱による発火を防止することができた。また,三高沖でかき筏をえい航する準備をする間に,高負荷での運転に備えて,船尾排気口からの海水排出量を確認しておれば,海水量が減少していることが分かり,高負荷運転を取り止めて排気管の過熱を防止できたものである。
したがって,A受審人が,主機を始動後,警報スイッチを確認しなかったばかりか,船尾排気口からの海水排出量を点検しなかったことは本件発生の原因となる。
海水ポンプインペラが摩耗し,リップの欠損箇所が増えて海水の吐出量が徐々に減少していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当なる因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から早期に取り替えるよう是正されるべき事項である。
(海難の原因)
本件火災は,主機の警報スイッチを確認しなかったばかりか,船尾排気口からの海水排出量の点検が不十分で,かき筏のえい航中海水が途絶えて塩化ビニール製の排気管が過熱し,発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,主機を中立運転にかけて,かき筏のえい航を準備する場合,運転を維持するための海水が供給されているか確認できるよう,船尾排気口からの海水排出量を点検すべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾から水蒸気が出ていたので海水量は問題ないものと思い,船尾排気口からの海水排出量を点検しなかった職務上の過失により,海水の吐出量が減少したまま主機の運転を続けてミキシングパイプが過熱し,海水接続部のゴム継手が軟化して外れ,海水が途絶えて塩化ビニール製の排気管が発火する事態を招き,機関室,燃料タンク区画及び操舵機室の内壁各部を焼損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
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