日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  火災事件一覧 >  事件





平成17年門審第89号
件名

貨物船第五大黒丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成18年1月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,西林 眞,片山哲三)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:第五大黒丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第五大黒丸次席一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)

損害
調理室及び食堂全焼,船員室一部及び操舵室航海計器類など焼損

原因
電気コンロの通電状態の確認不十分

主文

 本件火災は,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて調理室を無人とするにあたり,同コンロの通電状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年5月30日11時30分
 福岡県苅田港
 (北緯33度46.3分 東経131度00.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第五大黒丸
総トン数 496トン
全長 74.97メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
ア 船体及び設備
 第五大黒丸(以下「大黒丸」という。)は,平成8年8月に進水し,主として鋼材の国内輸送に従事する全通二層甲板船尾船橋型の鋼製貨物船で,船首部に船首タンク及び甲板部倉庫を,船体中央部に長さ40.30メートル(m)幅9.50mの貨物倉1個を,船体後部に機関室及びその上部に船尾楼をそれぞれ設けていた。
 船尾楼は,上甲板,ボート甲板及び航海船橋甲板の3層からなり,上甲板には,船首側に3個の船員室が船横方向に並び,その船尾方に通路を隔てて左舷側に食堂及びその船尾方に隣接して調理室が,中央部の機関室囲壁を挟んで,右舷側に洗面所,便所,浴室及び倉庫が,ボート甲板には,空調機室及び船横方向に並んだ3個の船員室が,航海船橋甲板には操舵室がそれぞれ配置されていた。
イ 調理室
 調理室は,長さ2.80m高さ2.15mで,幅は船尾方に少し狭まり船首側が2.20m船尾側が1.80mで,同室には左舷側壁に沿って船首方から順に奥行きがいずれも55センチメートル(cm)で,幅105cm高さ80cmのシンク付き調理台,幅71cm高さ62cmの配膳台及び幅60cm高さ62cmコンロ台を接して配置し,同台には電気コンロが置かれていた。
 一方,機関室囲壁となる右舷側壁に沿って電気冷蔵庫2台が接して並べられ,その船首側に米などの乾物の収納庫,電子レンジ及び電気ホットプレートなどが,船尾側に食器棚がそれぞれ置かれ,床にはタイルが,左舷側壁の一部にはステンレス鋼板が,天井には内張りとして化粧合板がそれぞれ張られていた。また,船尾側に上甲板船尾部へ通じるアルミニウム製扉が設けられていた。
ウ 電気コンロ
 電気コンロは,C社製造のNK-2251Aと称する幅59.8cm奥行き43.0cm高さ14.9cmの電気クッキングテーブルで,熱源として直径15cmの渦巻状とした交流200ボルト最大消費電力1,500ワットのシーズヒーター2個がテーブル上面左右に並べて組み込まれており,テーブル前面に各ヒーターの熱量調節つまみが設けられていた。
 熱量調節つまみは,同つまみ表面周囲に,時計回りに切,弱及び強の文字目盛りと,弱と強との間に2から6までの数値目盛りが均等な間隔で印されており,通電及び熱量調節方法は,同つまみを切の文字目盛り近くに取り付けられたロックボタンを押しながら左右どちらかに押し回すことによるもので,通電状態になると同つまみの直上にある通電表示ランプが点灯して同状態であることを表示するようになっていた。
 なお,C社の測定結果によれば,通電開始からのヒーター表面温度は,熱量調節つまみが4の目盛り位置で,約6分後に摂氏約410度(℃)に,強の位置で,約7分後に最高温度である約700℃に達する状況であった。

3 事実の経過
 大黒丸は,A受審人及びB受審人ほか2人が乗り組み,鋼製コイル1,307トンを積載し,船首3.14m船尾4.20mの喫水をもって,平成17年5月28日18時15分福山港を発し,翌29日08時30分福岡県苅田港に入港し,南港5号岸壁に右舷付けで係留した。
 翌30日08時30分A受審人は,乗組員全員による揚荷役の準備作業を終えて荷役作業員の到着を待っていたところ,同作業員が到着したので揚荷役を開始し,苅田港で370トンの揚荷を行い,荷役終了次第,次の揚地である関門港小倉区に向かう予定として,操舵室で荷役作業の監視に当たった。
 B受審人は,到着した荷役作業員と荷役作業について打合せを行ったのち,時折ハッチ周囲を見回るほかは食堂などで待機して過ごし,予定の揚荷が残り20トンばかりとなったころ,荷役作業員に尋ねて同作業の終了予定時刻を確認し,11時00分昇橋してA受審人に11時30分ごろ荷役が終了し,12時ごろには出港可能となる旨を報告した。
 ところで,A受審人は,調理を航海中は機関部に,停泊中は甲板部にそれぞれ担当させ,甲板部の担当者を専らB受審人に当たらせていたものの,同人がほかに荷役終了時の後仕舞いなども担当しており,荷役が終わるころは調理室に常時在室できない状況であったが,これまで調理機器の使用に不都合なことがなかったので任せておけば大丈夫と思い,B受審人に対し,調理室を無人とするときには電気コンロの電源を切っておくなど,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底していなかった。
 B受審人は,A受審人に報告したのち,操舵室から荷役状況を見ていたところ,残りの揚荷分に相当する積載量の2台のトラックが到着したので,防水シートかけやハッチカバー閉鎖などの荷役終了後の作業にかかるため降橋し,上甲板船尾部を通りかかったとき,出港後に予定の昼食に備え,揚げ物料理の準備をしておくことを思い立ち,船尾側出入口から調理室に入り,11時10分ごろ電気コンロの右側ヒーターに直径約20cm深さ約11cmの鍋をかけ,右手に油容器を持って同鍋に天ぷら油を約1リットル注ぎながら,出港後に加熱するつもりでいたものの,普段の習慣から無意識のうちに左手で熱量調節つまみを操作して強の位置とし,同コンロを通電状態とした。
 11時10分少し過ぎB受審人は,貨物倉ハッチ口に赴くため,しばらく調理室を無人とすることにしたものの,電気コンロが通電状態となっていれば,天ぷら油が過熱して発火するおそれがあったが,鍋に油を入れて準備するだけで加熱するつもりはなかったことから,まさか熱量調節つまみには触っていないだろうと思い,荷役終了後の作業と引き続く船首配置での出港作業などの段取りが気になっていたこともあり,通電表示ランプなどによって同コンロの通電状態の確認を十分に行うことなく,同つまみが強の位置で通電状態になっていることに気付かないまま,ハッチ口の荷役現場に向かった。
 こうして,大黒丸は,無人となった調理室で,天ぷら油の入った鍋がかけられた電気コンロが通電状態のまま放置され,表面温度が約700℃となったヒーターで加熱されて天ぷら油の温度が360℃ないし380℃である発火点に達し,11時30分苅田港南防波堤灯台から201度(真方位,以下同じ。)1,700mの地点にあたる前示係留地において,同油が発火して炎が上がり,天井の化粧合板など周辺の可燃物に燃え移り,調理室から火災が発生した。
 当時,天候は晴で風力2の北東風が吹き,喫水は船首2.10m船尾3.20mであった。
 A受審人は,操舵室前面で荷役作業を監視していたところ,同室後部の階段開口部から漂ってきた黒煙に気付き,同階段を降りてボート甲板に至ったが,付近に充満した黒煙に行く手を阻まれ,同室に戻って左舷側出入口から暴露部の階段を経て上甲板に降り,調理室から出火していることを認め,途中ハッチ右舷後部付近に見かけた一等機関士に火災の発生を告げ,消火作業に当たるよう指示した。
 このころ,B受審人は,上甲板左舷中央部で荷役作業の進捗状況を監視していたところ,近くの荷役作業員から煙が発生している旨を告げられ,操舵室左舷側出入口から噴出している黒煙を認め,船尾方に急行したところ,火災が発生していることを知った。
 A受審人は,機関長及び一等機関士に持ち運び式泡消火器による消火作業に当たらせたが,火勢が衰えないので初期消火を断念して退船を指示し,乗組員全員とともに岸壁に避難して代理店に消防署などへの通報を依頼した。
 大黒丸は,出動した消防車や巡視船艇による消火活動により,12時30分ごろ鎮火し,火災の結果,調理室及び食堂が全焼したほか,船尾楼構造物内に延焼して船員室の一部及び操舵室の航海計器類などを焼損したが,のち換装,修理された。

(本件発生に至る事由)
1 A受審人が,B受審人がこれまでに調理機器の使用に不都合なことがなかったので,任せておけば大丈夫と思っていたこと
2 A受審人が,B受審人に対し,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底していなかったこと
3 B受審人が,電気コンロにかけた鍋に天ぷら油を注ぎながら,普段の習慣から無意識のうちに同コンロを熱量調節つまみが強の位置で通電状態としたこと
4 B受審人が,鍋に油を入れて準備するだけで加熱するつもりはなかったことから,まさか熱量調節つまみには触っていないだろうと思ったこと
5 B受審人が,荷役終了後の作業と引き続く出港作業などの段取りが気になっていたこと
6 B受審人が,調理室を無人とする際,電気コンロの通電状態の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件火災は,電気コンロの通電状態を十分に確認していれば,このことに気付いて同コンロの電源が切られ,天ぷら油が過熱して発火することなく,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて調理室を無人とする際,鍋に油を入れて準備するだけで加熱するつもりはなかったことから,まさか熱量調節つまみには触っていないだろうと思い,荷役終了後の作業と引き続く出港作業などの段取りが気になっていたこともあり,同コンロの通電状況の確認を十分に行わず,同コンロを熱量調節つまみが強の位置で通電状態のまま放置し,天ぷら油が過熱して発火したことは,本件発生の原因となる。
 また,A受審人が,B受審人がこれまで調理機器の使用で不都合なことがなかったので任せておけば大丈夫と思い,同人に対し,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底していなかったことは,B受審人が,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて調理室を無人とする際,同コンロの通電状態を十分に確認しなかったことにつながったものと認められ,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件火災は,福岡県苅田港において,揚荷役を行いながら係留中,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて調理室を無人とするにあたり,同コンロの通電状態の確認が不十分で,熱量調節つまみが強の位置のまま同油が過熱して発火したことによって発生したものである。
 電気コンロの通電状態の確認が十分でなかったのは,船長が,次席一等航海士に対し,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底していなかったことと,同航海士が,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて調理室を無人とする際,同コンロの電源を切っているかの確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,福岡県苅田港において,揚荷役を行いながら係留中,調理室で出港後に予定していた昼食の準備に当たり,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけて同室を無人とする場合,同油が過熱して発火することのないよう,同コンロの通電状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,鍋に油を入れて準備するだけのつもりであったことから,まさか熱量調節つまみには触っていないだろうと思い,荷役作業の片付けと引き続く出港作業などの段取りが気になっていたこともあり,同コンロの通電状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,同コンロの熱量調節つまみを強の位置で通電状態としていることに気付かず,そのまま放置し,天ぷら油が過熱して発火し,周辺の可燃物に燃え移って火災を招き,調理室及び食堂を全焼したほか,船尾楼構造物内に延焼して船員室の一部及び操舵室の航海計器類などに焼損を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,福岡県苅田港において,揚荷役を行いながら係留中,B受審人に調理を担当させる場合,同人がほかに荷役終了後の後仕舞いなどを担当しており,荷役が終了するころは調理室に常時在室できない状況であったから,調理室を無人とするときには電気コンロの通電状態の確認を十分に行うなど,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底すべき注意義務があった。ところが,同人は,B受審人がこれまで調理機器の使用に不都合がなかったので任せておけば大丈夫と思い,同人に対し,調理室における火気の取扱いについての注意を徹底していなかった職務上の過失により,調理を担当するB受審人が,天ぷら油の入った鍋を電気コンロにかけた状態で,同コンロの通電状態の確認を十分に行わないまま,同室を無人とし,前示の火災を招き,各焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION