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平成17年長審第29号
件名

モーターボート太奈転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年3月16日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:太奈船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船外機の濡損

原因
船体傾斜の防止措置不十分

裁決主文

 本件転覆は,船体傾斜の防止措置がとられなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月28日14時00分
 長崎県長与港
 (北緯32度51.1分 東経129度52.1分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート太奈
登録長 4.44メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 51キロワット

3 事実の経過
 太奈は,船体ほぼ中央までが船首キャビン,その船尾側がオープンデッキになっていて同デッキ前部右舷側に操縦席を備える,最大搭載人員が6人のFRP製モーターボートで,A受審人(平成14年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が船長として乗り組み,友人1人とその知人4人を同乗させ,ウェイクボードの目的で,船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって,平成16年10月28日13時00分長崎県長与港の港奥に当たる長与川河口の係留地を発し,同時05分港内の沖合海域に出て,同乗者を乗せたウェイクボードを曳いて遊走を開始した。
 ところで,A受審人は,同年6月に中古の太奈を入手し,船体塗装などの整備を施したうえ,10月に入ってからウェイクボードの目的で使用を開始し,今回が3度目の運転となるもので,操縦席前に立って手動操舵に当たり,同乗者を同席後方に座らせ,約15分間隔でウェイクボーダー(以下「ボーダー」という。)を順に交代させ,適宜港内を移動しながら遊走を繰り返した。
 13時59分A受審人は,ボーダーを曳航したまま馬込ノ鼻から191度(真方位,以下同じ。)550メートルの地点で大きく反転し,針路を180度に定め,機関を半速力に掛け,20ノットの対地速力で直進したのち,14時00分少し前ボーダー交代のため停止し,機関を停止回転とした。
 A受審人は,ウェイクボードに不慣れな様子のボーダーが船尾右舷側のトランサムステップから船内に這い上がろうと苦労し,これを手助けしようと同乗者の1人が船尾側に移動したとき,船体が大きく傾斜するのを認めたが,まさか転覆することはあるまいと思い,ほかの同乗者を一時船首キャビンの左舷側に移動させるなど,船体傾斜の防止措置をとらなかった。
 太奈は,同乗者の1人が右舷船尾端に立ち,ボーダーに片手を差し伸べ,勢いを付けて船内に引き上げたとき,大人2人の重量が一挙に船尾右舷側に掛かって船体が大傾斜し,右舷船尾が水面下まで沈下して多量の海水が船内に浸入し,14時00分馬込ノ鼻から185度950メートルの地点において,180度に向首した状態で復原力を喪失して転覆した。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,港内は穏やかであった。
 転覆の結果,太奈は船外機が濡損し,A受審人と同乗者全員が海中に投げ出されたが,各自ウェットスーツを着用したまま負傷者もなく陸岸に泳ぎ着いた。

(海難の原因)
 本件転覆は,長崎県長与港内において,ウェイクボーダーを曳いて遊走したのち,同人を手助けして右舷船尾端から船内に引き上げる際,船体傾斜の防止措置がとられず,船体が船尾右舷側に大傾斜して多量の海水が船内に浸入し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県長与港内において,ウェイクボーダーを曳いて遊走したのち,同乗者の1人が同ボーダーの手助けをして右舷船尾端から船内に引き上げようとするのを認めた場合,船体が大傾斜して多量の海水が船内に浸入することのないよう,ほかの同乗者を一時船首キャビンの左舷側に移動させるなど,船体傾斜の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同受審人は,まさか転覆することはあるまいと思い,船体傾斜の防止措置をとらなかった職務上の過失により,同乗者の1人が右舷船尾端に立ち,同ボーダーに片手を差し伸べ,勢いを付けて船内に引き上げたとき,船体が船尾右舷側に大傾斜し,多量の海水が船内に浸入して転覆する事態を招き,船外機を濡損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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