(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月16日09時00分
宮城県宮戸島東方沖合
(北緯38度20.63分 東経141度10.75分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボート三徳屋丸 |
登録長 |
5.37メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
三徳屋丸は,FRP製モーターボートで,平成5年12月7日に取得し,平成15年6月4日に更新した二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の免許を所有するA受審人と,平成4年11月6日に取得し,平成14年10月29日に更新した四級小型船舶操縦士免許を所有するB受審人の2人が乗り組み,釣りの目的で,船首0.30メートル船尾0.40メートルの喫水をもって,平成17年4月16日07時00分宮城県塩竈市の係留地を発し,宮城県宮戸島東方沖合の釣り場に向かった。
ところで,宮戸島東方沖合は,鎧根や高島など大小の干出岩や暗岩が存在する水域で,同水域の一部では複雑な暗岩が存在するため,大きな磯波が立ちやすい地形となっており,地元漁業者の間では高島の南側沖合が特に危険な場所として知られており,A受審人は,このことを知っていた。
A受審人は,係留地を発して松島湾を東行し,宮戸島北側の水路を経て野蒜湾に至り,07時45分鎧根の北方約100メートルの,陸前大浜港南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から018度(真方位,以下同じ。)1.7海里の予定の釣り場に着き,同釣り場付近から高島北端付近にかけての根回りをしながら,自ら操船して南下したり,北上したりしてB受審人とともにルアー釣りを始めた。
08時30分ごろA受審人は,釣りを続けていたところ,急に気分が悪くなってきたので,帰港時の操船に備えて少しばかり仮眠をとるため,B受審人に操船を任せることとし,同人がこの水域の磯波の状況についての知識が乏しいことを承知していたが,風も弱く,海面も穏やかであったので大丈夫と思い,自らが仮眠をとるにあたり,高島の南側沖合の磯波の立つ危険な場所などに接近しないよう,B受審人に指示することなく,防波堤灯台から023度1.4海里の地点で,前部甲板で横になって仮眠を始めた。
B受審人は,A受審人から同人が仮眠をとっている間操船をしてくれるように頼まれ,操船を引き受けることにしたが,同人が操船していた同じ場所で,操船しながら魚釣りをしていれば大丈夫と思い,操船を引き受けるにあたって,同人から付近水域の特異な状況についての情報を十分に収集することなく,自ら操船しながら再び釣りを始めた。
B受審人は,しばらくの間,A受審人と同じ場所で釣りをしていたものの,なかなか釣果が得られなかったので,他の場所に釣り場を移動することにし,A受審人の同意を得ないまま,東風が吹くときには危険な水域とされる,高島の南側沖合の水域に移動した。
こうして,三徳屋丸は,船首を340度に向けた態勢でB受審人が釣りを続行中,09時00分防波堤灯台から030度1.2海里の地点において,高起した磯波を左舷船尾方から受けて船尾が大きく持ち上げられ,一瞬のうちに前方に回転して転覆した。
当時,天候は晴で風力3の東南東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
転覆の結果,A,B両受審人は,ともに落水したが,付近にいた他船によって救助された。また,船体は,陸岸に引きつけられたが,廃船処分とされた。
(海難の原因)
本件転覆は,宮城県宮戸島東方沖合で魚釣りを行う際,磯波が発生しやすい高島南側沖合の特定水域についての情報収集が不十分で,高起した磯波によって船尾が大きく持ち上げられ,一瞬のうちに前方に回転したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県宮戸島東方沖合において,魚釣りをしていた際,気分が悪くなってB受審人に一時操船を委ねて仮眠をとる場合,同人が付近水域の磯波の状況についての知識が乏しかったから,高起した磯波に遭遇することのないよう,高島の南側沖合などの磯波の立つ危険な場所に接近しないよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同人は,風も弱く,海面も穏やかであったので大丈夫と思い,磯波の立つ危険な場所に接近しないように指示しなかった職務上の過失により,B受審人が釣果がなかったことから,高島の南側沖合に移動し,左舷船尾方から高起した磯波を受けて船尾を大きく持ち上げられ,一瞬のうちに前方に回転して転覆を招き,自らとB受審人がともに落水し,三徳屋丸を廃船させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,宮城県宮戸島東方沖合において,A受審人と魚釣り中,同人が気分が悪くなったので,仮眠をとっている間,同人から操船を引き継ぐ場合,付近水域の磯波の状況についての知識が乏しかったのであるから,危険な場所に接近することのないよう,A受審人から付近水域の磯波などの情報を十分に得ておくべき注意義務があった。しかるに,同人は,A受審人と同じ場所で釣りをしていれば大丈夫と思い,情報を十分に得ておかなかった職務上の過失により,なかなか釣果が得られなかったので場所を移動しようと思い,A受審人の同意を得ないまま,高島の南側沖合に移動して転覆を招き,前示損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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