(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月21日16時12分
広島湾
(北緯34度10.6分 東経132度20.9分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船中村丸 |
総トン数 |
0.7トン |
登録長 |
5.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
3 事実の経過
中村丸は,船体後部に操舵室及び機関室囲壁,操舵室前部にいけす及び船首甲板が設置されたFRP製漁船で,A受審人(昭和54年10月三級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,刺し網漁の目的で,長さ60メートル幅40メートル重量25キログラムの網を2枚つないで1組の刺し網として2組を船首甲板に置き,船首0.1メートル船尾0.6メートルの喫水をもって,平成17年4月21日16時00分広島県大竹市阿多田漁港を発し,同港南東方2海里ばかりの白石沖の漁場に向かった。
ところで,白石沖の漁場は,高さ9メートルの水上岩である白石と,その北方100メートルばかりのところに設置された安芸白石灯標(以下「白石灯標」という。)を含む1つの磯の周辺海域で,特に白石東方は水深約30メートルから急激に浅くなっていることから,高波が発生しやすいところであった。
16時02分A受審人は,阿多田港猪ノ子東防波堤灯台から146度(真方位,以下同じ。)100メートルの地点で,針路を118度に定め,機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵によって進行した。
16時05分A受審人は,白石灯標から309度1,600メートルの地点に達したとき,風浪が高まり,漁場では危険な高波が発生するおそれがあったが,この程度の風浪であれば高波が発生することはないものと思い,漁場に向かうことを中止するなど高波に対する配慮を十分に行うことなく,10.0ノットに減速して続航した。
16時09分A受審人は,白石灯標から333度550メートルの地点で,白石東方沖漁場に向かうため徐々に右転を始め,16時11分同灯標から90度100メートルの地点に達したとき,針路を白石東方50メートルばかりに向く180度に転じ,速力を3.0ノットに減じ,船首方から1メートルばかりの風浪を受けながら進行した。
16時12分少し前A受審人は,白石の東方に達して投網するため更に減速し,船首甲板に移動するため操舵室から出たとき,16時12分白石灯標から140度140メートルの地点において,中村丸は,船首から高波を受け,船首を右に振られて右舷側に大傾斜し,復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は晴で風力4の南風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
A受審人は,転覆した中村丸の船底に上がって漂流中,17時30分ころ自衛艦に救助された。
転覆の結果,機器が濡損した。
(海難の原因)
本件転覆は,広島湾を漁場に向けて航行中,風浪が高まったのを認めた際,高波に対する配慮が不十分で,漁場に向かうことを中止せず,高波を受けて大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,広島湾を漁場に向けて航行中,風浪が高まったのを認めた場合,漁場では危険な高波が発生するおそれがあったから,漁場に向かうことを中止するなど高波に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,この程度の風浪であれば高波が発生することはないものと思い,漁場に向かうことを中止するなど高波に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により,漁場に至って投網する際に高波を受けて大傾斜し,復原力を喪失して転覆し,機器を濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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