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平成17年長審第55号
件名

モーターボート美代丸転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成18年1月31日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:美代丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関,船内機器等に濡損

原因
捨錨の措置がとられなかったこと

裁決主文

 本件転覆は,機関が運転不能の状況下,僚船に曳航される態勢で揚錨中,錨が根掛かりした際,捨錨する措置がとられず,錨索に横引きされる状態となって船体が大傾斜したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月6日13時10分
 鹿児島県黒之瀬戸
 (北緯32度06.5分 東経130度10.4分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート美代丸
総トン数 1.44トン
登録長 6.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 11

3 事実の経過
 美代丸は,昭和56年8月に進水した,船体中央部やや後方に機関室を備えた一層甲板型のFRP製モーターボートで,A受審人(平成14年11月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,同人の妻及び親族3人を乗せ,釣りの目的で,船首0.20メートル船尾0.25メートルの喫水をもって,平成16年8月6日09時00分鹿児島県長島東岸の加世堂にある係留地を発し,黒之瀬戸の釣り場に向かった。
 A受審人は,09時15分黒之瀬戸大橋北方約1海里の長島東岸の釣り場に到着して釣りを開始し,約15分間潮に流された後に機関を前進にかけて潮上りする操船を繰り返し,12時35分黒之浜港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から006度(真方位,以下同じ。)2,500メートルの地点で,機関をアイドリング状態としていたところ,機関の燃料タンクの底にたまっていたドレン等が影響したものか,突然,機関が停止した。
 A受審人は,直ぐに始動スイッチを操作して起動を数回試みたが再起動できなかったので,船尾から重さ約10キログラムの唐人型錨を水深約10メートルの海中に投入し,直径18ミリメートルの合成繊維製錨索を約30メートル延出して右舷船尾のたつに係止したところ,強い下げ潮流の影響で錨が効かないまま,南西方に向かって約700メートル流されたところでようやく錨が効いて12時45分南防波堤灯台から357度1,900メートルの地点で,船尾が潮流に立った状態で錨泊し,電話でA受審人の義兄に曳航を依頼した。
 13時00分A受審人は,義兄の船(以下「僚船」という。)が到着して間もなく,曳航準備と揚錨作業のため,同乗者の従兄弟1人を残して他の3人を僚船に移乗させ,曳航索を美代丸の船首たつと僚船の右舷船尾たつに係止させ,2人で錨索を手繰り寄せて錨を引き揚げることを何度も試みたが根掛かりのため果たせずにこれを断念した。
 A受審人は,強潮流時で機関が運転不能の状況下,人力で根掛かりを外すことは困難であり,僚船に引かせて揚錨しようとすると,緊張した錨索に横引きされる状態となって船体が大傾斜し,舷側から多量の海水が流入して転覆するおそれがあったが,機関が正常なときに行っていたように錨索を緊張させながら,引く方向を変えれば何とかなるものと思い,錨索を解き放して捨錨する措置をとることなく,曳航索を約10メートルまで延出して再度揚錨作業を試みることにした。
 13時10分少し前A受審人は,船尾に従兄弟をつけ,自身は船首に立って曳航索を見ながら,右回頭して根掛かりした錨を外すつもりで僚船に右舷前方に引かせたところ,美代丸は,徐々に船首が右に向いて折からの強潮流を船体右舷側に受けるようになり,錨が外れないまま錨索が緊張して船体が横引きされる状態となり,船内に海水が流入して右舷側に大傾斜し,13時10分前示錨泊地点において,復原力を喪失し,西方に向首して転覆した。
 当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,黒之瀬戸大橋付近の同瀬戸中央部には約3ノットの南流があった。
 転覆の結果,美代丸は,機関,船内機器等に濡損を生じ,僚船により鹿児島県黒之浜港に曳航され,同港で沈没したがのち引き揚げられて修理された。また,A受審人ほか1人は,美代丸の船底にはい上がり,僚船に救助された。

(海難の原因)
 本件転覆は,強潮流時の鹿児島県黒之瀬戸において,機関が運転不能の状況下,僚船に曳航される態勢で揚錨中,錨が根掛かりした際,捨錨する措置がとられず,錨が外れないまま僚船に引かせて右回頭中,錨索に横引きされる状態となって船体が大傾斜し,復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,強潮流時の鹿児島県黒之瀬戸において,機関が運転不能の状況下,僚船に曳航される態勢で揚錨中,錨が根掛かりした場合,僚船に引かせて揚錨しようとすると,緊張した錨索に横引きされる状態となって船体が大傾斜し,舷側から多量の海水が流入して転覆するおそれがあったから,錨索を解き放して捨錨する措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,機関が正常なときに行っていたように錨索を緊張させながら,引く方向を変えれば何とかなるものと思い,捨錨する措置をとらなかった職務上の過失により,僚船に引かせて船体が横引きされる状態となり,船体を大傾斜させて転覆を招き,美代丸の機関,船内機器等に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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