(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月4日11時20分
兵庫県津名港沖合
(北緯34度24.5分 東経134度54.0分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
モーターボートヨシコ号 |
登録長 |
3.29メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
3キロワット |
(2)設備及び性能等
ヨシコ号(以下「ヨ号」という。)は,船殻及び船体内部補強材が,それぞれ厚さ5ミリメートル及び12ミリメートルの弾力性のあるプラスチック系板状素材で作られた組立式の和船型プレジャーボートで,同じ素材の板を重ね合わせて厚さ30ミリメートルまで補強した船尾トランサムの中央部分に船外機を取り付け,釣り用のモーターボートとして使用されていたが,磁気コンパスなどの航海計器類は全く装備されていなかった。
また,定員が3人と定められた同船の取扱説明書には,操船時の注意事項として,他船の航走波などによる横波を受けると転覆する危険性があり,船体のバランス保持については十分な注意を要すると明記されているうえ,船内で不用意に立ち上がったりすると,負荷荷重の変化によって船殻及び内部補強材が歪み,船体全体がよじれるように変形する構造であったことや,船底部には安定性を増加させるためのバラスト類が一切取り付けられていなかったことなどから,特に天候が悪い状況下でなくとも簡単にバランスを崩し,船内に海水の流入を招いて転覆する危険性があった。
3 事実の経過
ヨ号は,A受審人が船長として1人で乗り組み,娘婿とその子供の計2人を乗せ,釣りの目的で,船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年5月4日10時40分兵庫県津名港塩田大橋直下を発し,同県橘埼南方800メートル付近の陸岸から100ないし200メートル沖合にある釣り場へ向かった。
ところで,当時,ヨ号は,横に渡した船首部の前示補強材に体重20キログラムの子供が後方を向いて腰を掛け,同じく中央部及び船尾部の補強材には,それぞれ90キログラムの娘婿及び75キログラムのA受審人が前方を向いて腰掛けた態勢で,計185キログラムの荷重となる3人が乗っていたうえ,船尾トランサム部分には約20キログラムの船外機が取り付けられていたことなどにより,船体中央部及び船尾部の乾舷が,それぞれ約25センチメートル及び約10センチメートルと非常に少なくなった状態であった。
そして,A受審人は,津名港の塩田南防波堤の出口付近に至ったところ,防波堤の外の海域では波高50センチメートルの東寄りの波浪が発生しているのを認めたが,これまでも同じような状況下で無難に釣りをしたことがあったので,今回も大丈夫と思い,自船の前示性能及び乾舷等を考慮すれば,船内に海水が流入して転覆する危険性があることを容易に予見できる状況であったにもかかわらず,防波堤の中へ引き返すことなく進行した。
こうして,A受審人は,11時10分前示釣り場に到着したのち,全員救命胴衣を着用して釣りを始め,船首をほぼ南東方に向けた態勢で,機関を中立運転として漂泊中,同時20分わずか前東寄りの横波を受けて船体が大きく動揺したとき,左舷側から大量の海水が船内に流入し,11時20分津名港塩田外防波堤北灯台から194度(真方位,以下同じ。)1,370メートルの地点において,ヨ号は復原力を喪失して転覆した。
当時,天候は晴で風力3の東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
転覆の結果,ヨ号は船外機に濡損を生じ,A受審人及び同乗者2人が船外に投げ出されたが,自力で海岸に泳ぎ着いて難を逃れた。
(本件発生に至る事由)
1 防波堤の外では波高50センチメートルの波浪が発生していたこと
2 防波堤の外での釣りを中止しなかったこと
3 横波を受けて大量の海水が船内に流入し,復原力を喪失したこと
(原因の考察)
ヨ号は,釣り場へ向かおうとして防波堤の出口付近に至った際,既に波高50センチメートルの波浪が生じていたのであるから,船長が自船の性能及び乾舷等を考慮すれば,横波を受けたとき海水が船内に流入して転覆する危険性があることを容易に予見でき,防波堤の外での釣りを中止することは可能であったものと認められる。
したがって,A受審人が,堪航性を超える波浪発生のおそれがある状況下,防波堤の外での釣りを中止せず,機関を中立運転として漂泊中,横波を受けて大量の海水が船内に流入し,復原力を喪失したことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件転覆は,兵庫県津名港南方において,堪航性を超える波浪発生のおそれがある状況下,防波堤の外での釣りを中止せず,機関を中立運転として漂泊中,横波を受けて大量の海水が船内に流入し,復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,兵庫県津名港南方の釣り場へ向かう際,防波堤の外に波高50センチメートルの波浪が発生しているのを認めた場合,当該海域においては船内に海水が流入して転覆する危険性があったのであるから,そのような危険な事態に陥らないよう,防波堤の外での釣りを中止すべき注意義務があった。ところが,同人は,これまでも同じような状況下で無難に釣りをしたことがあったので,今回も大丈夫と思い,防波堤の外での釣りを中止しなかった職務上の過失により,釣り場に到着したのち,機関を中立運転として漂泊中,横波を受けて大量の海水が船内に流入し,復原力を喪失して転覆を招き,船外機に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して,同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。
|