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平成17年長審第52号
件名

貨物船第十七鯛盛丸沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成18年1月31日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(山本哲也,藤江哲三,稲木秀邦)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第十七鯛盛丸船長 海技免許:四級海技士(航海)

損害
機関,航海機器等濡損,燃料油流出,引き揚げられ,のち廃船

原因
防舷材の使用方法不適切

主文

 本件沈没は,係留地の岸壁に係留するに当たり,防舷材の使用方法が不適切で,ビルジキールが岸壁の段差に乗り上げたことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月3日04時00分
 熊本県御所浦漁港本郷地区
 (北緯32度20.3分 東経130度20.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第十七鯛盛丸
総トン数 55.82トン
登録長 21.27メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 213キロワット
(2)設備等
 第十七鯛盛丸(以下「鯛盛丸」という。)は,昭和48年に漁船として建造された長船尾楼付1層甲板型鋼船で,同63年に現所有者が購入し,一部改造が加えられて同年末からし尿運搬船として運航されており,長さ約9メートル(m)の上甲板の前後に船首楼及び船尾楼を備え,船首楼内部が船首倉庫,船尾楼内部が船首側から機関室囲壁,倉庫,食堂等に区画され,同囲壁の前部上方が船橋に,上甲板下が合計容量約54立方mの貨物タンク4倉になっていた。
 また,上甲板上に貨物倉用の水密蓋付円筒形ハッチ4個が,同甲板船尾部の両舷ブルワークに2箇所ずつ排水口がそれぞれ設けられ,機関室囲壁前面左舷側に水密戸(以下「機関室入口戸」という。)があって同甲板から機関室に出入りできるようになっており,船底近くの湾曲部両舷に,斜め下方に向けて船体側面垂線下の位置まで張り出したビルジキールを備えていた。
 なお,貨物倉用ハッチは4個とも直径及び高さがいずれも約60センチメートル(cm),機関室入口戸は高さ及び幅が約1.2m及び0.6mで上甲板から下辺までの高さが約20cm,平均喫水線及び上甲板から船底までの深さはそれぞれ約2m及び2.2mで,ビルジキールは長さ約10m幅が約30cmであった。

3 事実の経過
(1)運航状況
 鯛盛丸は,普段は熊本県御所浦島(以下に記載の島の所在は全て熊本県である。)北西岸の御所浦漁港本郷地区(以下,旧港名の「本郷漁港」という。)に係留され,この間に同島及び同島と中瀬戸を挟み,架橋によって結ばれた牧島において回収されたし尿が積み込まれ,適宜,隣の横浦島に寄港してし尿を積み込み,約10日に1度の割合で係留地から天草下島の鬼池港に係留されている投棄船まで運搬する業務に従事していた。
 本郷漁港に係留中,鯛盛丸は,週日の日中にタンクローリー車の運転手によってし尿積込みが日に1ないし2度行われていて,その際,同運転手が係留索の状況,船橋や機関室入口戸の戸締まりなどの安全確認を行うことになっている以外は無人とされていた。
 A受審人は,週日は自宅から,架橋を利用して天草上島経由で大矢野島に所在するB社に出勤し,倉庫の整理や機材の片付け等の作業に当たっており,鯛盛丸運航日には機関長とともに同社から車で天草上島の宮田漁港まで送られて通船で御所浦島に渡り,鯛盛丸に乗り組んで,鬼池港まで荷役時間を含めて往復約6時間の運航に従事していたが,荷役は揚げ積みとも陸上の作業員によって行われていた。
 なお,鯛盛丸は,同船のし尿運搬業務がフェリー等を利用して直接タンクローリー車が行うように切り替えられる予定で,これに伴って平成16年12月に廃船予定となっていた。
(2)係留地
 鯛盛丸の係留地は,本郷漁港西側の3号用地と称する埋立地用に構築された長さ145m幅3.8mの護岸(以下「護岸」という。)で,幅2.2mの通路が護岸上部の漁港側に沿って設けられ,係留用のビット等を備えていたものの,正規の船舶係留用岸壁ではなく,貨物の特殊性から,御所浦町によって護岸ほぼ中央が係留地として指定されていたもので,中瀬戸に面した同漁港の入口部に当たり,同瀬戸通航船や同漁港出入港船の航走波が直接届く状況で,護岸には海底からの高さほぼ中程の位置に幅20cmの段差があった。
 なお,同所の水深は約3m,基本水準面から護岸頂面,通路及び同段差までの高さは,それぞれ5.6m,4.0m及び1.6mであった。また,周辺海域の潮位の変化は大潮のときは4m近くに達し,干満の差が大きかった。
 ところで,A受審人は,B社に入社したころ,し尿投棄船に乗船中,船長から大潮のときに鯛盛丸のビルジキールが護岸の段差に乗り上げかけたことがある旨聞いていて,段差の存在とともに同乗上げの可能性があることも承知していた。
 しかしながら,B社は,護岸の段差については知っていたが,当時の船長から報告がなかったものか,鯛盛丸のビルジキールが段差に乗り上げかけた事実については知らなかった。
(3)防舷材
 鯛盛丸は,防舷材として直径約85cm幅約25cmの大型乗用車古タイヤ(以下「タイヤ防舷材」という。)7本及び直径約60cm幅約20cmの乗用車古タイヤ3個を上下に連ねたもの(以下「3連防舷材」という。)1組のほか,直径約80cm高さ約1mの発泡スチロール製で手作りの防舷材1個を備えていた。
 これら防舷材は,取付位置が決められており,右舷側には船首部に発泡スチロール製防舷材とタイヤ防舷材が各1個,舷側の平行部船首側及び船尾側にタイヤ防舷材及び3連防舷材が各1個,船尾部にタイヤ防舷材が1個,また,左舷側にはタイヤ防舷材4個がほぼ等間隔で,それぞれ長さを適当に調整したロープを付けて取り付けられ,航海中は甲板上に取り込み,着岸時に舷側に吊して使用されていた。
 なお,護岸には,鯛盛丸の着岸位置から船首端前方及び船尾端後方いずれも約3mの位置に,それぞれ通路上のビットに古タイヤを利用した防舷材が吊されていたが,着岸位置の護岸側面にはビット及び防舷材は備えられていなかった。
(4)本件発生に至る経緯
 鯛盛丸は,A受審人及び機関長の2人が乗り組み,し尿約40立方mを載せ,船首1.40m船尾2.20mの喫水で,平成16年7月29日12時35分横浦島与一ヶ浦港を発し,13時10分本郷漁港に入港して1週間程度停船する予定で護岸に入船右舷付けで着岸した。
 A受審人は,着岸するに際し,8月1日及び2日が大潮に当たることを知っていたので,平素より係留索を増やし,船首端から約6m前方に1本と約3m前方に3本,船尾端から約3m後方に3本と約20m後方に2本の係留索を,それぞれ護岸通路上のビット等にとって大潮の潮位変化にも十分対応できるよう,長さに余裕を持たせて係止した。
 しかしながら,A受審人は,防舷材については,係留索の長さを調整しておけば大丈夫と思い,潮位の変化に伴ってビルジキールが段差付近の位置となったときに船体横揺れの影響で段差に引っ掛かることのないよう,左舷側防舷材も右舷側に移動させてロープの長さを長めに調節したうえ舷側の平行部に吊すなど,防舷材を適切に使用することなく,右舷側防舷材をそれぞれ定位置に吊しただけで13時20分ごろ機関長とともに下船した。
 鯛盛丸は,同日,翌30日及び8月2日に陸上作業員によって合計約9立方mのし尿が積載され,2日16時30分ごろ作業を終えた同作業員が機関室入口戸閉鎖などの安全確認を行って船を離れた。
 こうして,鯛盛丸は,船首1.50m船尾2.20mの喫水となって無人で係留中,翌3日00時ごろ下げ潮時に護岸に寄せられたとき,船体の横揺れが重なって右舷側ビルジキールが段差に乗り上げ,潮位の低下とともに船体が左舷側に傾いて上甲板の排水口から海水が流入し,さらに傾斜して左舷側が水没し,隙間が生じた機関室入口戸から同室に浸入し始め,やがてビルジキールが段差から外れたものの船体が沈下して浸水が続き,04時00分御所浦港本郷北防波堤灯台から真方位196度250mの係留地点において,浮力を喪失して沈没した。
 当時,天候は晴で風はなく,潮候は下げ潮の末期であった。
 沈没の結果,鯛盛丸は,機関,航海機器等に濡損を生じ,燃料油の一部が流出したが,潮位が下がるのを待って機関室の海水を排出し,浮上させて近くの造船所に上架されたのち,予定を早めて8月下旬に廃船とされた。

(本件発生に至る事由)
1 護岸が正規の船舶係留場所ではなかったこと
2 段差のある護岸が係留場所として指定されていたこと
3 防舷材の使用方法が適切でなかったこと
4 潮位,係留索の張り,船体横揺れ等の条件が重なり,ビルジキールが段差に乗り上げたこと
5 船体が大傾斜し,機関室入口戸から同室に海水が浸入して浮力を喪失したこと
6 8月2日が大潮に当たっていたこと

(原因の考察)
 本件は,3ないし4日後に大潮の日を控える状況下,護岸に係留して約1週間の予定で船を離れる際,適切な数の防舷材を適切な深さに調節して使用しておけば,ビルジキールが護岸の段差に乗り上げることはなく,発生を回避できたと認められる。
 したがって,A受審人の防舷材の使用方法が適切でなかったこと,潮位,係留索の張り,船体の横揺れ等の条件が重なり,ビルジキールが段差に乗り上げたこと,船体が大傾斜し,機関室入口戸から同室に海水が浸入して浮力を喪失したことは,いずれも本件発生の原因となる。
 護岸が正規の船舶係留場所ではなかったこと,段差のある護岸が係留場所として指定されていたこと及び8月2日が大潮に当たっていたことは,いずれも本件発生の過程で関与した事実であるが,本件結果と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件沈没は,係留地とする熊本県御所浦漁港本郷地区の護岸に係留するに当たり,防舷材の使用方法が適切でなかったうえ,潮位,係留索の張り,船体の横揺れ等の条件が重なり,夜間,下げ潮時に右舷側ビルジキールが護岸の段差に乗り上げ,潮位の低下とともに船体が大傾斜して左舷側甲板が水没し,機関室入口戸から多量の海水が同室に浸入して浮力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が,3ないし4日後に大潮の日を控える状況下,熊本県御所浦漁港本郷地区の護岸に係留して約1週間の予定で船を離れる際,防舷材を適切に使用しなかったことは本件発生の原因となる。しかしながら,以上のA受審人の所為は,同人が10日に1度程度別の島から通って本船を運航していた勤務実態及びビルジキールが段差に乗り上げたのは,潮位,係留索の張り,船体の横揺れ等の条件が偶発的ともいえる状況下で重なって発生したことに徴し,職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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