日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  遭難事件一覧 >  事件





平成17年長審第35号
件名

モーターボートサンヨー遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成18年2月15日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦,山本哲也,藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:サンヨー船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
操舵室左舷側フロントガラス及び右舷側窓ガラス,船体中央部の隔壁,家具,電化製品などを損傷
船長が全身打撲傷,甲板員と同乗者3人が骨折,打撲など

原因
波浪に対する配慮不十分

主文

 本件遭難は,強風波浪注意報が発表された状況下,波浪が高まってきたことを認めた際,速やかに航行を中断しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月5日11時30分
 長崎県平戸瀬戸北口
 (北緯33度22.9分 東経129度34.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートサンヨー
総トン数 27トン
全長 16.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,025キロワット
(2)設備及び性能等
 サンヨーは,平成7年10月に進水した,最大とう載人員12名のイタリア共和国B社製造の58型と称する2機2軸を備えるFRP製クルーザー型モーターボートで,甲板下には,船首方から順に船首格納庫,客室3室,機関室及び舵機庫を配置していた。甲板上には,船首端から約6メートルの位置に操舵室を配置し,同室後部にサロン,次いで船尾方に船尾甲板をそれぞれ設けていた。
 操舵室は,窓枠によって左右に2分割されたガラス窓を同室前面に設けて各窓にワイパーが取り付けられ,両舷にガラス窓があり,同室前部左舷側にコックピット状の操縦席が備えられ,その中心となる主操縦コンソールには,舵輪,自動操舵装置,機関監視装置などが組み込まれ,左舷側にレーダー,主機操縦ハンドルが,右舷側にGPS,測深機などが置かれ,右舷前部に客室に通じる昇降口が配置され,これらの後方がサロン区画になっていて固定式ソファが操縦席後方と右舷側後方にほぼコの字状に向かい合って取り付けられ,操舵室の後壁中央部に船尾甲板に通じるスライド式出入口ドアが,両舷の各外側に船尾甲板と遮浪甲板とを結ぶ歩行甲板が,天井上方には操縦装置が備わったフライングブリッジがそれぞれ設けられていた。

3 当時の気象海象
 当時,10月2日夕方から4日夕方まで連日長崎県平戸・松浦地区には,長崎海洋気象台から大陸の高気圧からの冷たい北東風の影響による強風波浪注意報が発表されており,約25ノットの北東の風と2.5ないし3.5メートルの北東寄りの波浪があって,5日出航当日も,四国の南海上にある前線上に低気圧が発生して北東へ進行し,一方,中国大陸には高気圧があって南東に張り出し,05時10分同地区に対し,強風波浪注意報が発表されていた。

4 事実の経過
 サンヨーは,A受審人ほか1人が乗り組み,C社関係者4人を同乗させ,回航の目的で,船首1.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成16年10月5日10時05分Dマリーナを発し,福岡県博多港のEマリーナに向かった。
 ところで,A受審人は,当日発航前08時ごろにテレビと電話で平戸方面の気象情報を入手し,強風波浪注意報が発表されて北東の風が強く,波浪が2メートルのち3メートルとなる情報を得ていたものの,Dマリーナでそれ以上の気象海象情報を入手しなかったので,2,3日前から平戸方面が予想以上に時化模様であることを知らないまま,平戸瀬戸まで進行して波浪が3メートルを超えるような状況であれば引き返して長崎県田平港で時化が収まるのを待つつもりで発航したものであった。
 A受審人は,出航後,操縦席に腰掛けて操舵操船に当たり,針尾瀬戸から佐世保港内を航行して10時30分同港港口を通過し,機関を全速力前進にかけ,25ノットの速力とし,黒島と高島間を経て北東からの強風の影響もほとんど受けずに北上を続けてきたが,平戸大橋手前付近で波しぶきを受け始めて前方の見通しが悪くなってきたことから立って手動で操舵に当たり,11時23分ごろ平戸大橋を航過し,同時25分少し前南風埼灯台に並んだころ,船首方からの波浪が高まってきたので減速を開始し,同時25分少し過ぎ広瀬導流堤灯台から193度(真方位,以下同じ。)970メートルの地点に達したとき,針路を008度に定め,機関を半速力前進にかけ,15ノットの速力とし,平戸瀬戸北口に向けて進行した。
 A受審人は,定針したころより平戸瀬戸北口からの波浪の影響を受けて船体の動揺が激しくなり,波高が2ないし3メートルとなったことを認め,同北口に接近するに伴って北東よりの波浪も更に高まることが予測される状況であったが,もう少し航行を続けて無理なら引き返せばよいだろうと思い,速やかに航行を中断することなく,機関を半速力前進としたまま続航した。
 11時26分半A受審人は,平戸瀬戸牛ヶ首灯台を右舷正横200メートルに航過したころ波浪が更に高まり,動揺が激しくなったので機関を微速力前進に減じて5ノットの速力とし,ようやく航行することを断念して避難するため針路を反転することとし,波高を見ながらそのタイミングを計っているとき,11時30分広瀬導流堤灯台から345度190メートルの地点において,突然4ないし5メートルに高起した波浪を右舷船首に受け,船首が高く持ち上げられたのち,波の谷に向けて急速に下降し,船首船底が海面に叩きつけられて遭難した。
 当時,天候は曇で風力6の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期で,付近には北方に流れる2.5ノットの潮流があった。
 遭難の結果,サンヨーは,操舵室の左舷側フロントガラス,右舷側の窓ガラスに破損を,船体中央部の隔壁に損傷及び室内の家具,電化製品などに損壊を生じ,甲板員と同乗者1名が骨折などの重傷を,A受審人ほか同乗者2名が打撲傷などの軽傷をそれぞれ負った。

(本件発生に至る事由)
1 平戸方面に3日前から強風波浪注意報が発表されて時化模様だったこと
2 気象海象情報の収集が十分でなかったこと
3 もう少し航行を続けて無理なら引き返せばよいだろうと思い,航行を中断しなかったこと

(原因の考察)
 本件は,強風波浪注意報が発表された状況下,長崎県平戸瀬戸を北上中,同北口に接近する
に伴い,波浪が高まったことを認めた際,北東よりの波浪も更に高まるおそれがあったから,
速やかに航行を中断して引き返しておれば,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,もう少し航行を続けて無理なら引き返せばよいだろうと思い,航
行を中断しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,気象海象情報の収集が十分でなかったことは,本件発生に至る過程で関与した
事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,
海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 平戸方面に強風波浪注意報が発表されて時化模様だったことは,本件発生に至る過程で関与
した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件遭難は,強風波浪注意報が発表された状況下,長崎県平戸瀬戸を北上中,波浪が高まってきたことを認めた際,速やかに航行を中断しないまま進行し,右舷船首から突然高起した波浪を受けて船首が高く持ち上げられたのち,急速に下降し,船首船底が海面に叩きつけられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,強風波浪注意報が発表された状況下,長崎県平戸瀬戸を北上中,波浪が高まってきたことを認めた場合,そのまま進行すると波浪が更に高まることが予想されたから,速やかに航行を中断すべき注意義務があった。しかるに,同人は,もう少し航行を続けて無理なら引き返せばよいだろうと思い,速やかに航行を中断しなかった職務上の過失により,そのまま続航し,高起した波浪を右舷船首から受け,船首船底が海面に叩きつけられ,操舵室のフロントガラス,右舷側の窓ガラスに破損を,船体中央部の隔壁に損傷及び室内の家具,電化製品などに損壊を生じ,自身が全身打撲傷などを負い,甲板員と同乗者3名に骨折,打撲などの重軽傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION