(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年11月28日09時40分
大阪湾
(北緯34度19.3分 東経135度05.6分)
2 船舶の要目
船種船名 |
モーターボートキティー号 |
全長 |
2.78メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
3キロワット |
3 事実の経過
キティー号は,最大搭載人員2人の船外機付き一層甲板型FRP製モーターボートで,あじ釣りの目的で,平成14年10月24日交付の五級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み,友人1人を同乗させ,船首0.15メートル船尾0.20メートルの喫水をもって,平成16年11月28日08時30分大阪府深日港谷川地区を発し,同港西方2,000メートル沖合の釣り場に向かった。
ところで,キティー号は,B社が製造したAF-9Jと称する完成質量71キログラムの2分割組立式ボートで,座席及び船首部に発泡ウレタンを充填した浮力材により,浸水しても沈没しない構造であったものの,乾舷が0.30メートルで,波浪が高まると艇内に海水が打ち込みやすく,安全に使用するための取扱説明書には,多少の天候が悪くても無理して出港しがちであるが,少しでも不安があるときは,出港を取りやめること,また,天候が悪くなりそうなときは,即座に帰港することが重要であることが記載されていた。
また,A受審人は,出航するに当たり,携帯電話の釣り情報サイトで気象を確認して風が強まる見込みであることを知り,岸壁で06時ころから風の様子を観察していたところ,毎秒8ないし10メートルの北西の風が吹いていたものの,先に出航したゴムボートが戻ってくる様子もなく,高速料金や駐車代金まで払ったうえ,今日を逃すとしばらく釣りもできなくなることもあって,出航を取りやめるべきか判断を迷っていた。
A受審人は,離岸後,08時31分深日港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から277度(真方位,以下同じ。)2,140メートルの地点において,同港谷川地区の防波堤の外に出たところで針路を345度に定め,機関を半速力前進に掛け5.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)として進行した。
A受審人は,谷川地区の防波堤を出たとき,北西の風浪が強まり,艇の動揺も激しくなり,やがて乾舷を越えて艇内に浸水することが予想される状況となったが,海技免許を取得する前に乗り合いの釣り船に客として今回の釣り場へ20回ほど行ったこともあり,釣り場まで行けば何とかなると思い,速やかに防波堤内に引き返すなど荒天避難の措置をとらなかった。
09時00分A受審人は,大阪府岬町多奈川小島にある土砂積み出し桟橋の北西方沖合500メートル付近に至り,漂泊して釣りを開始し,その後,増勢する風浪によって圧流されては潮登りを繰り返すうち,海水が艇内に打ち込むようになり,09時40分西防波堤灯台から272度2.4海里の地点において,船首が南東に向いて漂泊しているとき,船尾方から風浪を受け,A受審人と同乗者は海中に投げ出され,キティー号は,多量の海水が艇内に打ち込み,船首部だけを海面に浮かべほぼ水船状態となって操縦不能に陥った。
当時,天候は晴で風力5の北風が吹き,付近には波高1.5メートルの波浪があり,潮候は下げ潮の中央期であった。
その結果,キティー号は船外機に濡れ損を生じ,救命胴衣を着用していたA受審人及び同乗者は,クーラーボックス及び船首部につかまって15分ほど漂流していたところ,付近を通りかかった船に救助された。
(海難の原因)
本件遭難は,大阪湾南東部において釣り場に向けて航行中,風浪が増勢する状況下,荒天避難の措置がとられなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,大阪湾南東部において釣り場に向けて航行中,風浪が強くなってきた場合,荒天避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,釣り場まで行けば何とかなると思い,荒天避難の措置をとらなかった職務上の過失により,釣り場において漂泊して遊漁中,増勢する風浪を受けて同人及び同乗者が海中に投げ出され,艇は水船状態となって操縦不能に陥り,船外機に濡れ損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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