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平成17年長審第84号
件名

貨物船第八永昇丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月15日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:第八永昇丸船長 海技免許:四級海技士(航海)
指定海難関係人
B 職名:第八永昇丸甲板長

損害
球状船首及び船首部船底に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月1日00時00分
 佐賀県加唐島漁港
 (北緯33度35.2分 東経129度51.6分)

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八永昇丸
総トン数 198.49トン
登録長 53.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット

3 事実の経過
 第八永昇丸(以下「永昇丸」という。)は,九州及び瀬戸内海各港間の鋼材輸送に従事する鋼製貨物船で,A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み,鋼材649トンを積載し,船首2.7メートル船尾3.9メートルの喫水をもって,平成16年11月30日17時00分長崎港を発し,大分港に向かった。
 発航後,A受審人は,大分港までの船橋当直を自身とB指定海難関係人が6時間交替で行うことにし,発航時の操船に引き続いて船橋当直に当たり,長崎県の西岸沿いを北上して平戸瀬戸を航行したのち,伊万里湾北西方沖合を東行した。
 23時00分A受審人は,肥前向島灯台から266度(真方位,以下同じ。)3.0海里の地点に達したとき,針路を050度に定め,機関を全速力前進にかけ,9.5ノットの速力で,自動操舵としたのち,昇橋していたB指定海難関係人に当直を引き継ぐことにしたが,同人の海上経験が豊富で,平素,単独で船橋当直を行わせて支障がなかったので,当直中の心得など,基本的な事項について特に指導しなくても大丈夫と思い,長時間いすに腰を掛けることを避けて体を動かし,時折,外気に当たることなど,居眠り運航を防止するための適切な指示を与えることなく,針路,速力などを引き継いで降橋し,自室で休息した。
 当直交替後,B指定海難関係人は,前示針路,同速力で自動操舵のまま単独で当直に当たって間もなく,付近に他船が見当たらなかったので,暖房が効いた船橋の中央にある舵輪の後方に置いたいすに腰を掛け,時折,作動中のレーダーやGPSプロッターを見ながら佐賀県加唐島南西方沖合を進行した。
 ところで,B指定海難関係人は,昇橋したときには眠気を催していなかったものの,そのまま楽な姿勢を続けていると,居眠りに陥るおそれがあった。しかしながら,同人は,まさか当直中に居眠りすることはあるまいと思い,いすから立ち上がって体を動かし,時折,外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,いすに腰を掛けたまま当直に当たっているうち,23時31分加唐島港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から230.5度4.6海里の地点に達したとき,たばこに火をつけて間もなく,居眠りに陥った。
 こうして,B指定海難関係人は,23時49分転針予定地点に達したものの,居眠りしていたのでこのことに気付かず,転針する措置をとらないで,佐賀県加唐島漁港の防波堤に向首したまま続航中,永昇丸は,翌12月1日00時00分西防波堤灯台から315度50メートルの地点に当たる,同漁港の防波堤付近に設置された消波ブロックに,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力1の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,永昇丸は,球状船首及び船首部船底に破口を伴う凹損を生じたが,来援した救助船に引き降ろされ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,佐賀県加唐島南西方沖合において,長崎港から大分港に向けて航行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同県加唐島漁港の防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,船長が無資格の船橋当直者に対し,居眠り運航を防止するための適切な指示を与えなかったことと,船橋当直者が居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,佐賀県加唐島南西方沖合において,長崎港から大分港に向けて航行中,無資格者に単独で船橋当直を行わせる場合,居眠り運航を防止するための適切な指示を与えるべき注意義務があった。しかし,同人は,平素,B指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせて支障がなかったので,当直中の心得など,基本的な事項について特に指導しなくても大丈夫と思い,長時間いすに腰を掛けることを避けて体を動かし,時折,外気に当たることなど,居眠り運航を防止するための適切な指示を与えなかった職務上の過失により,居眠り運航の防止措置がとられないで当直者が居眠りに陥り,同県加唐島漁港の防波堤に向首したまま進行して同防波堤付近に設置された消波ブロックへの乗揚を招き,永昇丸の球状船首及び船首部船底に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が,夜間,佐賀県加唐島南西方沖合において,単独で船橋当直に当たり,長崎港から大分港に向けて航行する際,まさか居眠りすることはあるまいと思い,長時間いすに腰を掛けることを避けて体を動かし,時折,外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告するまでもない。





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