(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月11日12時50分
沖縄県八重山列島小浜島南東方沖合
(北緯24度19.0分 東経124度02.1分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船第八十八あんえい号 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
25.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,510キロワット |
3 事実の経過
第八十八あんえい号(以下「あ号」という。)は,沖縄県石垣港を基地として八重山列島の諸港間の運航に従事し,船首から5.5メートルのところに操舵室を有して2機2軸及び2舵を備える最大搭載人員91人の軽合金製旅客船で,平成8年2月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人ほか1人が乗り組み,旅客50人を乗せ,船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年4月11日12時30分臨時便として同県西表島仲間港を発し,同県小浜島小浜港に向かった。
ところで,A受審人は,平成10年からあ号と同型船の船長職を執って前示両港間を幾度となく行き来し,航路付近に浅礁が多数散在していること及び航路に沿って多くの立標が設置されていることを十分に承知し,あ号の専属船長が休暇を取る際は代理の船長職を執り,これまであ号に5回ほど乗り組んでいた。
A受審人は,平素仲間港から小浜港に向かう場合,仲間港東方沖合から竹富島南方沖合に至る通称大原航路を東行したのち,大原航路第14号立標(以下「第14号立標」という。)南方沖合で左に転針して北上し,ウカン埼東方立標(以下「東方立標」という。)に達したのち,針路を左に転じ,小浜港第3号立標に向けて西行することとしていた。また,東方立標至近に水深1.2メートルの暗岩が,同立標南東方沖合60メートルの地点から南方に拡延する浅礁が,それぞれ存在することを知っており,東方立標と同浅礁間の幅60メートルの水路(以下「水路」という。)を航過する際は,同立標の南西方沖合400メートルの地点に達したのち減速し,同立標を左舷側に見て接近し,同暗岩を確認しながら同立標を30メートル離してつけ回すこととしていた。
12時45分半わずか前A受審人は,第14号立標の南東方至近となる,東方立標から216度(真方位,以下同じ。)2.6海里の地点で,針路を025度に定め,機関を全速力前進にかけ,35.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
12時47分半わずか前A受審人は,東方立標から224度1.5海里の地点に達したとき,東方立標を左舷側に見るよう,針路を047度に転針し,12時49分半東方立標から208度430メートルの地点に至り,速力を半速力の25.0ノットに減速したが,そのまま続航すると東方立標を左舷方に60メートル離してつけ回すこととなって右舷方の浅礁に著しく接近する状況となったものの,このくらいの距離であれば,水路を安全に航過できるものと思い,GPSプロッターに残していた航跡を見るなど,船位の確認を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
こうして,12時50分わずか前A受審人は,右舷方の浅礁に著しく接近していることに気付かないまま,左舵15度をとって東方立標をつけ回しながら進行中,12時50分あ号は,東方立標から141度60メートルの地点において,035度を向いたとき,原速力のまま同浅礁に乗り揚げ,擦過した。
当時,天候は晴で風力2の東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,右舷プロペラ翼及び右舷舵軸に曲損を生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,沖縄県八重山列島小浜島南東方沖合を北上中,東方立標を左舷側に見てつけ回して航過する際,船位の確認が不十分で,右舷方の浅礁に著しく接近して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,沖縄県八重山列島小浜島南東方沖合を北上中,東方立標を左舷側に見てつけ回して航過する場合,同立標の南東方沖合60メートルに浅礁が存在することを知っていたのであるから,GPSプロッターに残していた航跡を見るなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,このくらいの距離であれば,水路を安全に航過できるものと思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,右舷方の浅礁に著しく接近していることに気付かないまま進行して乗揚を招き,右舷プロペラ翼及び右舷舵軸に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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