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 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成18年門審第3号
件名

モーターボート紀泉丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年3月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:紀泉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
舵,プロペラ及びプロペラシャフトに曲損など

原因
水路調査不十分

裁決主文

 本件乗揚は,水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月3日09時15分
 福岡県地ノ島南東方
 (北緯33度53.4分 東経130度30.7分)

2 船舶の要目
船種船名 モーターボート紀泉丸
総トン数 4.94トン
全長 12.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 25キロワット

3 事実の経過
 紀泉丸は,昭和57年9月に第1回定期検査を受けたFRP製モーターボートで,平成5年6月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み,知人1人を同乗させ,回航の目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年1月3日07時00分博多港第1区の福岡船だまりを発し,和歌山下津港に向かった。
 ところで,A受審人は,操縦免許を取得したのち,モーターボートを所有して和歌山下津港周辺で海洋レジャーを楽しんでいたところ,3隻目の代替船として博多港に係船されていた紀泉丸を購入したもので,九州沿岸を航行するのは今回が初めてであったことから,発航にあたり,同沿岸の航行経路について同船の前所有者に相談した際,倉良瀬戸においては福岡県地ノ島の南側には浅礁域があるので通航しないことなどの助言を受けていた。
 そして,A受審人は,定係港の周辺海域については等深線などの情報を表示できるようにGPSプロッタを設定していたが,他の海域については別途データカードを購入して入力する必要があったことから,倉良瀬戸周辺を含む九州北西岸の海域については同情報を表示するように設定しなかったので,同海域の水路情報として前所有者から財団法人日本水路協会発行のプレジャーボート・小型船用港湾案内(九州北西岸)(以下「小型船用港湾案内」という。)を借り受けて一読したのち,船室に置いて発航したものであった。
 A受審人は,同乗者を操舵室右舷側のいすに,自らは同室左舷側のいすに腰掛けて操船に当たり,福岡県志賀島北方沖合を経て倉良瀬戸に向け北東進し,09時01分半倉良瀬灯台から196度(真方位,以下同じ。)3.2海里の地点に至り,針路を地ノ島南西岸に向く048度に定め,機関をほぼ全速力前進にかけ,14.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
 09時05分A受審人は,倉良瀬灯台から187度2.6海里の地点に差し掛かり,針路を地ノ島北方沖合に転じる頃合となって同沖合の方向を望んだところ,時折白波が立っており,一方,同島の南側の方は穏やかな海面状態であり,南側を通航することを思い立った。
 ところで,鐘ノ岬と地ノ島間の水道は,幅が約1,500メートルあるものの,同島南東端から南東方向に細長く延びた浅礁域が存在していることから,地元の小型漁船がわずかに同浅礁域の南東端と陸岸との間にある幅約200メートルの水路を地かた寄りに航行している程度で,一般船舶の航行はほとんどなく,小型船用港湾案内にも浅礁域の拡延状況が記載されていた。
 A受審人は,前所有者から,地ノ島の南側には浅礁域があるので通航しないよう助言を受けていたものの,一見して鐘ノ岬と同島間の水道の幅が広く見えたので,自船の喫水程度の水深は十分にあるものと思い,小型船用港湾案内にあたり,等深線や浅礁の拡延状況を調べるなど,水路調査を十分に行わなかったので,危険な浅礁域が拡延していることに気付かず,同水道の通航を断念することなく,09時09分倉良瀬灯台から168度2.0海里の地点で,針路を鐘ノ岬と地ノ島南東端とのほぼ中間に向く081度に転じ,13.0ノットの速力に減じて続航した。
 A受審人は,依然として小型船用港湾案内にあたらなかったので,地ノ島南東方に拡延する浅礁に向首していることに気付かず,同島の北側を回り込む針路に転じることなく進行中,紀泉丸は,09時15分倉良瀬灯台から136度2.4海里の地点において,原針路のまま,同島南東方の浅礁に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力2の南風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 乗揚の結果,舵,プロペラ及び同シャフトに曲損などを生じたが,自然離礁して錨泊していたところ,付近を通りかかった漁船によって福岡県鐘崎漁港に引き付けられ,のち修理された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,購入船を定係港に回航する目的で,九州北部沿岸寄りを東行中,水路調査が不十分で,福岡県地ノ島の南東方に拡延する浅礁に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,購入船を定係港に回航する目的で,九州北部沿岸寄りを東行するにあたり,鐘ノ岬と地ノ島間の水道の通航を思い立った場合,同水道に不案内であったから,保有していた小型船用港湾案内を調べるなど,水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,一見して同水道の幅が広く見えたので,自船の喫水程度の水深は十分にあるものと思い,水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により,同島南東方に拡延する浅礁に向首進行して乗揚を招き,舵,プロペラ及び同シャフトに曲損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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