(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月7日23時20分
平郡水道 横島東岸
(北緯33度48.9分 東経132度07.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船貴和丸 |
総トン数 |
197トン |
全長 |
46.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
3 事実の経過
貴和丸は,船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船で,A受審人及び妻のB指定海難関係人ほか1人が乗り組み,空倉のまま,船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって,平成16年12月7日15時20分愛媛県三島川之江港を発し,山口県宇部港に向かった。
A受審人は,船橋当直を自らとB指定海難関係人による2人当直と,船長資格を有する息子の機関員による単独当直とを6時間交替で行うこととしており,時折,B指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせていたが,同指定海難関係人が日頃から無難に同当直を遂行していたので,任せておいても大丈夫と思い,眠気を催した際には,報告するよう指示しなかった。
22時34分B指定海難関係人は,平郡水道第3号灯浮標の東方で,下荷内島灯台から096度(真方位,以下同じ。)6.4海里の地点において,早めに前直の機関員と船橋当直を交替し,A受審人を休息させたまま単独で操舵と見張りに当たり,針路を平郡水道の推薦航路線に沿う267度に定め,機関を全速力前進にかけ,12.4ノットの対地速力で,所定の灯火を表示し,自動操舵により進行した。
ところで,B指定海難関係人は,1週間ばかり前から入出港が連続する運航が続いており,炊事を担当していたほか,航海中は6時間毎の航海当直に当たり,停泊中は6ないし7時間かかるタンクの清掃などを行っていたので,疲労が蓄積するようになっていた。
B指定海難関係人は,舵輪後方に置いたいすに腰掛け,操舵スタンド両側の手すりを握っていたところ,23時00分ごろ蓄積した疲労から眠気を催したが,まさか居眠りすることはないものと思い,休息中の船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,同じ姿勢のまま続航した。
B指定海難関係人は,23時05分少し過ぎ下荷内島灯台から189度1.0海里の転針予定地点で,推薦航路線に沿う234度にゆっくり向首するよう,自動操舵のダイヤルを操作して251度まで転針したとき居眠りに陥り,予定の転針を行えず,山口県横島東岸に向首したまま進行し,23時20分室津灯台から167度1.0海里の地点において,貴和丸は,原針路原速力のまま,同東岸に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の西風が吹き,潮候は下げ潮の末期で,視界は良好であった。
A受審人は,乗揚の衝撃で目覚め,急ぎ昇橋して事後の措置に当たった。
乗揚の結果,バルバスバウを圧壊して浸水したが,自力離礁し,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,平郡水道を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,横島東岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が,船橋当直者に対し,眠気を催した際には,報告するよう指示しなかったことと,同当直者が,眠気を催した際,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,B指定海難関係人に単独で船橋当直を行わせる場合,同指定海難関係人に対し,眠気を催した際には,報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,B指定海難関係人が日頃から無難に同当直を遂行していたので,任せておいても大丈夫と思い,眠気を催した際には,報告するよう指示しなかった職務上の過失により,同指定海難関係人が居眠りに陥り,横島東岸に向首したまま進行して同東岸への乗揚を招き,バルバスバウを圧壊して浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が,夜間,単独で操舵と見張りに当たり,平郡水道を西行中,眠気を催した際,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,眠気を催した際,その旨を船長に報告して2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置をとらなければならない。
|