(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年6月14日13時30分
高知県幡多郡大月町海岸
(北緯32度45.8分 東経132度38.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八太安丸 |
総トン数 |
18.87トン |
登録長 |
13.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
95キロワット |
3 事実の経過
第八太安丸(以下「太安丸」という。)は,船体中央部やや前方に操舵室を配置したかつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で,平成15年1月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか3人が乗り組み,活えさのいわしを積み込む目的で,船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年6月14日09時00分高知県佐賀漁港を発し,足摺岬を経由して愛媛県深浦港に向かった。
ところで,A受審人のかつお一本釣りの操業は,佐賀漁港を基地として,夏期に1箇月の休漁期を除く,4月から11月に行うもので,深浦港で3日分のいわしを積み込み,翌日,佐賀漁港を21時に発して翌々日03時に漁場に至り,7時間ほど漁を行い,16時ころに帰港して市場で水揚げをした後,十分な休息をとる間もなく,漁場に向かうことの繰り返しで,睡眠は漁場に向かう航海中に4ないし5時間とっていたが,疲労が蓄積された状態であった。
A受審人は,出航操船後,船橋当直を乗組員全員による単独2時間交替の輪番制とし,11時30分足摺岬沖合0.5海里付近を航行中,前直者と交替して単独当直に就き,いつものように黒潮の東流を避けるため幡多郡南岸の岬を約1海里離して西行した。
12時43分A受審人は,柏島灯台から103度(真方位,以下同じ。)8.6海里の地点に達したとき,高知県の南西端に位置する浅碆埼の東方約1海里付近に定めた転針予定地点へ向けて針路を283度に定め,10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として自動操舵により進行した。
定針したころ,背もたれのあるいすに腰掛けた姿勢で見張りに当たっていたA受審人は,連日の操業による疲れに加え,折から海上が穏やかであったことから気が緩み,眠気を催したが,1時間ほどで当直交替であり,それぐらいならば,何とか眠気を我慢できるものと思い,休息中の乗組員を昇橋させて2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく続航中,いつしか居眠りに陥った。
13時25分A受審人は,柏島灯台から101度1.9海里の転針予定地点に至ったものの,いすに腰掛けたまま居眠りしていたので,これに気付かず,太安丸は,同針路,同速力のまま進行して13時30分柏島灯台から100度1.0海里の地点にある高知県幡多郡大月町海岸の浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の東北東風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果,A受審人はその衝撃で目を覚まし,太安丸は船首から船尾にかけての船底外板に亀裂を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じたが,自力離礁していずれも修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,高知県幡多郡大月町南方沖合を西行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,転針予定地点で針路を転じないまま,大月町海岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,高知県幡多郡大月町南方沖において,単独で船橋当直中,眠気を催した場合,海上が穏やかな状況下,疲労が蓄積した状態でそのまま当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったから,居眠り運航とならないよう,休息中の乗組員を呼んで2人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,1時間ほどで当直交替となるので,それぐらいならば,何とか眠気を我慢できると思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,転針予定地点に気付かず,大月町海岸の浅礁に向首進行して乗揚を招き,船底外板に亀裂を伴う凹損及び推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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