(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月29日13時12分
神奈川県観音埼南方沖合
(北緯35度15.1分 東経139度44.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
ヨットダンディダックス |
登録長 |
8.64メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
13キロワット |
3 事実の経過
ダンディダックス(以下「ダ号」という。)は,航行区域を沿海区域とし,船外機を装備した双胴のFRP製ヨットで,A受審人(昭和57年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が船長として1人で乗り組み,B受審人ほか8人を乗せ,釣りの目的で,船首船尾とも0.9メートルの喫水をもって,平成17年5月29日11時30分神奈川県横須賀市のマリーナを発し,観音埼北東方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は,機関を使用して発航した後,マリーナの約1,000メートル沖合から帆を併用して北上し,12時30分観音埼北東方約700メートル沖合に至り,帆を収納するとともに機関を中立運転とし,北東に向首して漂泊しながら釣りを開始した。
ところで,ダ号は,B(平成2年8月四級小型船舶操縦士免許取得,同17年6月二級及び特殊の小型船舶操縦士免許に更新),A両受審人ほか7人が共同で購入しており,航行時のメンバーと取得している免許によってその都度船長を定め,毎月1回程度クルージングや釣りに使用しており,ダ号の航行区域が沿海区域であったことから,B受審人が船長としての資格を満たさないので,A受審人を船長として発航したものであった。
A受審人は,東京湾のヨット・モーターボート用参考図を備え付け,海岸線を表示するGPSプロッターを装備していたが,定係地に近く,よく知っている海域であったので同プロッターを作動しないまま漂泊を続けていたところ,風潮流によって南西方に圧流され,観音埼南南東方約300メートルの大坂ノ鼻に次第に接近するので,同鼻を替わして,同埼南南西方1,300メートル付近の海域に向かうつもりで同乗者に釣り糸を揚げさせたところ,同糸が絡んだので船体中央の左舷側でそれを解く手伝いに当たり,B受審人に操縦を任せることとした。
12時55分A受審人は,観音埼灯台から074度(真方位,以下同じ。)340メートルの地点で,B受審人に操縦を任せる際,陸岸近くの岩場や大型船が通航する浦賀水道航路に近付かないように指示したものの,同埼南岸近くに浅水域が存在し,それまで陸岸に圧流される状況であったことから,船位を確認して風潮流による陸岸への接近模様を監視する必要があったが,同人もよく知っている海域だから大丈夫と思い,GPSプロッターを作動して離岸距離を確認させたり,陸岸までの距離を注意深く目測させたりするなど,船位の確認を十分に行うよう指示しなかった。
B受審人は,操縦を任され,更に南西方に圧流されて大坂ノ鼻が南方140メートルに接近したので,13時07分半少し前観音埼灯台から128度270メートルの地点を発進し,針路を163度に定め,機関を微速力前進にかけ,2.5ノットの対地速力として,舵柄による手動操舵で進行した。
13時09分半わずか前B受審人は,観音埼灯台から140度410メートルの地点に達し,大坂ノ鼻が右舷正横付近になったので目的の釣り場へ向け針路を215度に転じたところ,風潮流により右方に圧流されていることに気付き,同埼南岸近くに浅水域が存在していることを知っていたものの,同水域までは圧流されずそのまま無難に南下できると思い,GPSプロッターを作動して離岸距離を確認したり,陸岸までの距離を注意深く目測するなど,船位の確認を十分に行わないまま同じ針路,速力で続航中,ダ号は,右方に13度圧流されて浅水域に入り,13時12分観音埼灯台から164度470メートルの地点において,同水域内の暗岩に乗り揚げた。
当時,天候は曇で風力4の北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果,左舷キールに損傷,右舷キール及び左舷舵板に擦過傷をそれぞれ生じたが,自力離礁して帰航し,のち修理された。
(海難の原因)
本件乗揚は,神奈川県観音埼南方沖合において,釣り場を移動中,風潮流による陸岸への圧流を受けながら南下する際,船位の確認が不十分で,浅水域に入り,同水域内の暗岩に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは,船長が操縦者に対し,船位の確認を十分に行うよう指示しなかったことと,操縦者が船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は,神奈川県観音埼南方沖合において,釣り場を移動中,風潮流による陸岸への圧流を受けながら南下する場合,陸岸近くに浅水域があったから,陸岸への接近模様を監視できるよう,操縦者に対し,GPSプロッターを作動して離岸距離を確認させるなど,船位の確認を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,操縦者もよく知っている海域だから大丈夫と思い,船位の確認を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により,操縦者が船位の確認を十分に行わず,浅水域内に入って同水域内の暗岩に乗り揚げ,左舷キールに損傷,右舷キール及び左舷舵板に擦過傷をそれぞれ生じさせる事態を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は,神奈川県観音埼南方沖合において,船長に操縦を任されて釣り場を移動中,風潮流による陸岸への圧流を受けながら南下する場合,陸岸近くに浅水域があることを知っていたのだから,陸岸への接近模様を監視できるよう,GPSプロッターを作動して離岸距離を確認するなど,船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同水域までは圧流されずそのまま無難に南下できると思い,船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,浅水域に入り,同水域内の暗岩に向首進行して乗り揚げ,前示の事態を招くに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
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