(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月11日05時40分
青森県小泊岬
(北緯41度08.1分 東経140度15.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
貨物船ヘレナII |
総トン数 |
2,736トン |
登録長 |
93.24メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,133キロワット |
(2)設備及び性能等
ヘレナIIは,1969年にフィンランドで進水し,船体中央部のやや後方に船橋楼を,その前方に3個,後方に1個の船倉を有する鋼製貨物船で,船橋にレーダー2台,GPS等を装備し,最大速力は約11ノットであった。
3 事実の経過
ヘレナIIは,A,B及びC各指定海難関係人ほかロシア人25人が乗り組み,甲板積みを含めて木材2,662トンを積み,船首5.4メートル船尾6.4メートルの喫水をもって,平成17年2月9日20時40分(日本標準時,以下同じ。)ロシア連邦ナホトカ港を発し,福島県小名浜港に向かった。
ところで,A指定海難関係人は,航海当直を甲板部,機関部ともに4時間交替3直制とし,船橋当直は,船内時間で00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士が,04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士が,08時から12時まで及び20時から24時までを自らが入直することとし,各当直時間帯にそれぞれ1人ずつ操舵手を入直させていたが,大洋航海中は,航海士1人のみで当直を行わせていた。そして,当直交代の連絡は当直者が次直者の部屋まで赴いて伝え,沿岸近くになって操舵手に連絡するときは,当直者が機関室に連絡して機関部の当直員にその連絡を依頼していた。
A指定海難関係人は,翌10日19時から23時まで入直し,次直のC指定海難関係人に当直を引き継ぐとき,同人の単独の当直が終了して次のB指定海難関係人に当直を引き継ぐ際,津軽海峡通航に備えて同人のほかに操舵手を起こすよう口頭で指示して降橋し,自室に戻る途中でB指定海難関係人に会ったとき,翌々11日04時30分ごろと推定される東経140度に達したときに自身を起こすよう口頭で指示したが,自室で休む際,前示時刻に目覚まし時計をセットするなど,自ら起床できるような手段を講じないまま就寝した。
C指定海難関係人は,10日23時00分松前大島灯台から265.5度(真方位,以下同じ。)30.2海里の地点で当直を引き継いだとき,針路を105度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行し,12海里レンジとしたレーダー1台を使用して見張りを行い,1時間毎にGPSで確かめた船位を海図に記入し,同図に記入されている針路線から外れないよう針路を微調整しながら続航した。
11日02時50分C指定海難関係人は,次直のB指定海難関係人を起こすため同人の部屋に赴き,名前を呼んで当直の時間である旨を伝え,同人の起きる旨の返事を聞いて船橋に戻り,03時00分小泊岬北灯台(以下「北灯台」という。)から285度29.6海里の地点で船位を海図に記入し,同人の昇橋を待ったものの,同人が昇橋しなかったので,航海日誌の記入を行わないまま,同時05分再度同人の部屋に赴き,ベッド際で起きるよう告げ,あと2時間ばかりで変針点である旨伝えたところ,同人が寝返りを打って分かった,起きる,戻ってよい旨のことを言ったので,これまでも同様なことがあったことから,そのうち起きて昇橋すると思い,操舵手を起こさないまま,船橋に戻ってB指定海難関係人が昇橋するのを確認することなく船橋を無人状態とし,疲れていたので自室に戻って03時10分ごろベッドに入って眠った。
B指定海難関係人は,前直者に2回も当直時間になったことを告げられたが,これに速やかに応じず,自らの当直時間に昇橋することなく,再度寝込み,船橋が無人となったまま就寝を続けた。
こうして,ヘレナIIは,B指定海難関係人と当直の操舵手が昇橋せず,針路から1度右偏するのを修正されないまま106度の進路,原速力で進行し,04時36分北灯台から284度11.9海里に地点で,東経140度に達し,津軽海峡に向首するよう変針すべき状況となったが,A指定海難関係人が自ら起床する手段を講じていなかったこともあって,いずれの指定海難関係人もこのことに気付かず,ともに就寝したまま続航中,05時40分北灯台から228度700メートルの地点において,小泊岬西岸の岩場に乗り揚げた。
当時,天候は晴で,風力3の小雪混じりの北西風が吹き,潮候はほぼ高潮時であった。
A指定海難関係人は,衝撃で目覚めて昇橋し,092度に向首して機関が停止した状態で乗り揚げているのを知り,機関と舵を使用して離礁を試みたが,船尾が右に寄って船首が062度を向いた状態で海岸に寄せられたので,自力離礁をあきらめ,海上保安部に救助要請の連絡をするなど,事後の措置に当たった。
乗揚の結果,乗組員は全員救助されたが,船体は波に洗われ,甲板に積載した木材が流失し,付近沿岸に漂着して多大な漁業被害をもたらし,その後,船体が撤去されないまま放置され,台風などの影響で船体が粉砕されて沈没した。
(本件発生に至る事由)
1 A指定海難関係人が自ら起床する手段を講じていなかったこと
2 C指定海難関係人が次直の航海士を起こしに行ったあと船橋に戻らなかったこと
3 C指定海難関係人が次直の航海士の昇橋を確認しなかったこと
4 C指定海難関係人が次直の操舵手を起こさなかったこと
5 B指定海難関係人が起床せず,昇橋しなかったこと
6 船橋が無人であったこと
(原因の考察)
本件は,船橋当直が維持されていれば,変針点の目標となる東経140度線に達したことを認識し,津軽海峡に向けて変針することができ,発生を回避できたと認められる。
したがって,A指定海難関係人が自ら起床する手段を講じていなかったこと,C指定海難関係人が次直の航海士を起こしに行ったあと船橋に戻らなかったので,次直の航海士の昇橋を確認できず,次直の操舵手を起すこともしなかったこと,及びB指定海難関係人が起床せずに昇橋しなかったことは,船橋当直が維持されずに船橋が無人になっていたこととなり,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,津軽海峡西口の西方沖合を東行中船橋当直の維持が不十分で,船橋が無人となって予定の変針がなされず,小泊岬西岸に向首進行したことによって発生したものである。
船橋当直の維持が不十分であったのは,津軽海峡に接近する際,船長が自ら昇橋する手段を講じなかったこと,前直の当直者が船橋当直を交代する際,次直の当直者の昇橋を確認しないまま降橋したこと,及び次直の当直者が連絡を受けても昇橋しなかったことによるものである。
(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人が,国際航海に従事して津軽海峡を通航する際,自ら起床する手段を講じなかったことにより,昇橋することができなかったことは,本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。
B指定海難関係人が,前直の当直者に起こされた際,再度寝込んで昇橋しなかったことは,本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。
C指定海難関係人が,次直の当直者を起こす際,同当直者が昇橋したことを確認しなかったことは,本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。
よって主文のとおり裁決する。
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