(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年4月14日14時00分
長崎県六島北東岸
(北緯33度13.5分 東経129度08.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海富丸 |
総トン数 |
11.72トン |
登録長 |
14.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
160 |
3 事実の経過
海富丸は,船体後部甲板上に操舵室を設け,周年いか釣り漁業に従事する,レーダー,GPS及び魚群探知機を備えたFRP製漁船で,A受審人(昭和59年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み,平成17年3月から長崎県生月港内にある館浦漁港を午後出航して夜通し操業し,翌日午前中に同漁港に帰航して漁獲物を水揚げしたのち,再び出航し,3航海を限度に一晩休息する就労形態で操業を繰り返していた。
ところで,A受審人は,平成16年9月操縦免許証の有効期間が満了したものの,その後更新手続を行わず,同免許証を失効させたまま海富丸に船長として乗り組み,操業を続けていた。
A受審人は,平成17年4月12日14時に館浦漁港を出航したのち,2航海目の操業を終えて同月14日09時半同漁港に帰航し,水揚げを終えたものの,前日が豊漁であったのでもう1航海操業することにし,船首0.50メートル船尾1.70メートルの喫水をもって,同日11時55分同漁港を発し,長崎県宇久島西方沖合約25海里の漁場に向かった。
発航後,A受審人は,舵輪の後方に立って操舵操船に当たり,12時01分生月港館浦新北防波堤灯台から176度(真方位,以下同じ。)0.3海里の地点に達して長崎県平戸島と生月島間に架かる生月大橋を通過したとき,同県六島東北東方沖合約2.5海里のところに存在する黒母瀬に向首するよう針路を243度に定めて自動操舵とし,機関を半速力前進にかけ,8.5ノットの速力で,平戸島西方沖合を進行した。
定針したのち,A受審人は,黒母瀬の東北東方沖合約2海里の地点で針路を六島と宇久島間の海域に向けて転じることにし,舵輪後方の両舷囲壁に設けた板張りの台に腰を掛け,前方の見張りに当たって続航した。
A受審人は,12時46分黒母瀬灯台から062度7.9海里の地点に達して間もなく,連続した操業による睡眠不足から眠気を催すようになったが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,速やかに平戸島西岸近くの海域に寄せて停留し,休息するなど,居眠り運航の防止措置をとることなく,依然として台に腰を掛けたまま自動操舵で進行するうち,いつしか台上で横になり,居眠りに陥った。
こうして,A受審人は,13時28分黒母瀬灯台から058度2.0海里の転針予定地点に達したものの,居眠りしていたのでこのことに気付かず,転針する措置をとらないまま,同時42分黒母瀬灯台を左舷側近くに航過し,その後も六島に向首する態勢で続航中,海富丸は,14時00分黒母瀬灯台から247度2.6海里の地点に当たる同島北東岸の浅所に,原針路,原速力のまま乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力2の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果,海富丸は,自力で離礁したものの,船底に破口を生じて浸水し,来援した僚船によって曳航中に沈没した。
(海難の原因)
本件乗揚は,長崎県館浦漁港から同県宇久島西方沖合の漁場に向けて同県平戸島西方沖合を航行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,同県六島北東岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,長崎県館浦漁港から同県宇久島西方沖合の漁場に向けて同県平戸島西方沖合を航行中,連続した操業による睡眠不足から眠気を催すようになった場合,速やかに平戸島西岸近くの海域に寄せて停留し,休息するなど,居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかし,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により,居眠り運航となり,転針する措置をとらないまま,長崎県六島に向首進行して同島北東岸の浅所に乗揚を招き,海富丸の船底に破口を生じさせて曳航中に沈没するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
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