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平成17年那審第37号
件名

漁船みく丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年2月22日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,加藤昌平,土肥 猛)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:みく丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船底外板を大破し全損

原因
進路保持不十分

主文

 本件乗揚は,進路の保持が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年3月9日21時00分
 沖縄県南大東島南大東漁港
 (北緯25度52.3分 東経131度13.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船みく丸
総トン数 14.56トン
登録長 14.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 367キロワット
(2)設備及び性能等
 みく丸は,昭和56年9月に進水した,一層平甲板型FRP製漁船で,船体中央よりやや船尾寄りに操舵室を有し,同室前部にGPSプロッター,レーダー,自動衝突予防援助装置及び魚群探知器がそれぞれ設置され,航海速力は,機関回転数毎分1,100の8.0ノットであった。

3 事実の経過
 みく丸は,A受審人が1人で乗り組み,そでいか旗流し漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって,平成17年3月7日13時00分沖縄県糸満漁港を発し,南大東島西南西方沖合85海里の漁場に至って操業したのち,同島南方沖合10海里の漁場に移動して操業を再開し,そでいか500キログラムを獲て休息をとることとし,翌々9日18時00分同漁場を発し,同島南大東漁港に向かった。
 南大東漁港は,高さ10ないし20メートルの断崖が連なる南大東島北西部の岩礁地帯を掘削することにより整備が進められている漁港で,平成12年11月暫定的に開港し,マイナス6.0メートル及びマイナス3.0メートルの2箇所の泊地を有し,同泊地に総延長約220メートルの岸壁があり,港外からマイナス6.0メートル泊地に通じる,維持水深6.0メートルの水路が182度(真方位,以下同じ。)の方向に幅30メートル長さ100メートルで延びていた。そして,同水路両側は高さ約10メートルの断崖となっており,同漁港及び付近に航路標識は設置されていなかったが,同泊地南西側の護岸上で高さ約10メートルのところに,4基の照明灯が約50メートル間隔で設置されて同漁港内を照らし,平素地元の漁船約50隻が出入港するほか,地元以外の漁船も,昼夜間を通じて年当たり約250隻出入りしていた。
 A受審人は,これまで南大東漁港に3回の入港経験を有し,同漁港の水路北端となる,港口から100メートルの地点(以下「ポイント」という。)を入港の際の目標としてGPSプロッター上に入力していた。
 漁場を発進したのち,A受審人は,レーダーを3海里レンジとして南大東島西岸沖合を北上し,20時58分沖縄県島尻郡南大東村字北の56.9メートル頂所在の北岸三角点(以下「基点」という。)から334度550メートルの地点で,針路を120度に定め,機関を全速力前進にかけて,7.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵により進行した。
 20時58分半わずか前A受審人は,基点から338度500メートルの地点に達し,GPSプロッターの表示を監視しながら,港口に向けるため針路を右に転じて171度として続航し,20時58分半少し過ぎ基点から336度430メートルの地点に至り,さらに右転して水路に沿う182度としてポイントに向くよう同水路の中央に向けて進行した。
 A受審人は,レーダー映像が海面反射で見にくいのでレーダーのスイッチを切り,前路にうっすらと視認できる水路両側の断崖を確認しながら続航し,20時59分少し過ぎ基点から325度320メートルの地点に達したとき,ポイントを通過して速力を3.0ノットの微速力に減じ,このまま進行すると,折からの東南東風の風潮流により,右方に圧流されて浅礁に乗り揚げるおそれがある状況となったものの,圧流の影響は小さいものと思い,水路の中央を航行できるよう,左舵の当て舵を大きくとるなど,進路の保持を十分に行うことなく続航した。
 こうして,A受審人は,次第に右方に圧流されながら進行中,断崖に著しく接近することを認め,21時00分少し前急ぎ左舵一杯としたが及ばず,21時00分みく丸は,基点から312度280メートルの地点の浅礁に,船首を150度に向けて速力2.0ノットで乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力4の東南東風が吹き,潮侯は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は,直ちにクラッチを前後進に入れて離礁を試みたものの,機関を作動させることができず,船固めをするなど事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船底外板を大破して陸岸に打ち寄せられ,全損となった。

(本件発生に至る事由)
1 南大東漁港に航路標識が設置されていなかったこと
2 3回の入港経験を有していたこと
3 泊地への水路は,幅30メートル長さ100メートルであったこと
4 両側に高さ約10メートルの断崖が迫る水路であったこと
5 ポイントを過ぎて速力を3.0ノットに減速したこと
6 折からの東南東風の風潮流により,右方に圧流されたこと
7 夜間に入港したこと
8 水路両側に断崖がうっすらと見えたこと
9 進路の保持が十分でなかったこと

(原因の考察)
 本件は,みく丸が,夜間,南大東漁港において,両側に断崖が迫る水路を航行して入港する際,同漁港に航路標識が設置されておらず,折からの東南東風の風潮流により,右方に圧流されたとしても,3回の入港経験を有しており,水路両側に断崖がうっすらと見えたことから,進路の保持を十分に行っていたならば,浅礁への乗揚を回避することは,可能であったものと認められる。
 したがって,A受審人が,進路の保持を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 南大東漁港に航路標識が設置されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,暫定開港以後,地元以外の漁船が,数多く出入りしている点に照らし,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 A受審人が,3回の入港経験を有していたこと,ポイントを過ぎて速力3.0ノットに減速したこと及び夜間に入港したことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 泊地への水路が,幅30メートル長さ100メートルであったこと,両側に高さ約10メートルの断崖が迫る水路であったこと,折からの東南東風の風潮流により,右方に圧流されたこと及び水路両側に断崖がうっすらと見えたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,南大東漁港において,両側に断崖が迫る水路を航行して入港する際,進路の保持が不十分で,次第に右方に圧流されて浅礁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,南大東漁港において,両側に断崖が迫る水路を航行して入港する場合,折からの東南東風の風潮流により,右方に圧流されて浅礁に乗り揚げるおそれがあったのであるから,水路の中央を航行できるよう,左舵の当て舵を大きくとるなど,進路の保持を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,圧流の影響は小さいものと思い,進路の保持を十分に行わなかった職務上の過失により,次第に右方に圧流されて浅礁に著しく接近して乗揚を招き,船底外板を大破させ,のち全損とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する

 よって主文のとおり裁決する。





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