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海難審判庁裁決録(平成18年度)

 事業名 海難審判庁裁決録の刊行配付
 団体名 海難審判・船舶事故調査協会




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平成17年広審第85号
件名

貨物船第一鋼運丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年2月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島 友二郎,川本 豊,道前洋志)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:第一鋼運丸次席一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)

損害
船首船底外板に破口などを生じてバラストタンク,船首倉及び船倉に浸水し,積荷の一部にぬれ損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月15日00時40分
 山口県小水無瀬島東岸
 (北緯33度46.8分 東経132度23.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船第一鋼運丸
総トン数 443トン
全長 70.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 第一鋼運丸(以下「鋼運丸」という。)は,平成4年7月に進水し,限定沿海区域を航行区域とする全通二層甲板船尾船橋型の貨物船で,国内諸港間の貨物輸送に従事していた。
 操舵室には,中央部に操舵スタンドが,その左舷側に操船コンソールがそれぞれ設置されていたほか,ジャイロコンパス,レーダー2基及びGPSプロッターなどが備えられていたが,居眠り運航防止装置は装備されていなかった。
 速力は,機関回転数毎分320のとき約10ノットで,操縦性能は,船舶件名表写の海上試運転成績によると,左旋回及び右旋回の最大直径がそれぞれ約100メートルで,360度回頭するのに左旋回時が2分42秒を,右旋回時が2分57秒を,また,全速力前進中,後進を発令して船体が停止するまでに1分26秒をそれぞれ要した。

3 就労状況について
 船橋当直は,00時から04時まで及び12時から16時までをA受審人が,04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士が,08時から12時まで及び20時から24時までを船長がそれぞれ入直する単独の4時間交替3直制であったが,実際には各直とも交替時刻の30分前に昇橋して当直を交替していた。
 荷役当直は,荷役装置の操作やトリム調整のための船体のロープシフト作業などが,乗組員全員によって行われていた。

4 事実の経過
 鋼運丸は,船長B及びA受審人ほか2人が乗り組み,石膏1,050トンを積載し,船首2.8メートル船尾4.1メートルの喫水をもって,平成16年11月14日15時25分岡山県日比港を発し,関門海峡を経由する予定で島根県松江港に向かった。
 A受審人は,23時30分釣島北方沖合でB船長と交替して単独の船橋当直に就き,降雨のため操舵室の全ての窓及び扉を閉め,レーダーを3海里レンジとし,時折同室内を移動して見張りを行いながら推薦航路線沿いに伊予灘を西行し,23時53分由利島灯台から140度(真方位,以下同じ。)900メートルの地点で,針路を244度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力で進行した。
 翌15日00時25分A受審人は,小水無瀬島灯台から062度2.8海里の地点に達したとき,操船コンソールの後方に立ち,同コンソール上部前面に取り付けられた取っ手を掴み,コンソールに寄りかかった姿勢で見張りに当たっていたところ,周囲に航行の妨げとなる他船が見えなかったことから気が緩み,眠気を催したが,まさか居眠りすることはあるまいと思い,ウイングに出て外気に当たるなどして,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,同じ姿勢で見張りを続けるうち,いつしか居眠りに陥った。
 A受審人は,00時30分小水無瀬島灯台から061度1.9海里の地点に達したとき,山口県小水無瀬島に向首進行する状況であったが,居眠りに陥っていたのでこのことに気付かず,針路を左方に転じて同島を右方に離すことができないまま続航し,00時40分少し前ふと目覚めて前方を見たところ,船首方至近に同島を認め,急いで手動操舵に切り替え右舵一杯をとったが,効なく,00時40分小水無瀬島灯台から018度300メートルの地点において,鋼運丸は,原針路,原速力のまま,同島東岸に乗り揚げた。
 当時,天候は雨で風力2の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,船首船底外板に破口などを生じてバラストタンク,船首倉及び船倉に浸水し,積荷の一部にぬれ損を生じたが,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 針路を小水無瀬島に向首する244度に定めたこと
2 周囲に航行に妨げとなる他船がいなくなり,気が緩んで眠気を催したこと
3 自動操舵のまま航行していたこと
4 居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
5 居眠り運航防止装置が設置されていなかったこと

(原因の考察)
 本件は,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば居眠りに陥ることはなく,小水無瀬島に向首したまま進行していることに気付き,針路を転じるなどして,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,眠気を催した際,まさか居眠りに陥ることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 居眠り運航防止装置が設置されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があると認められない。しかしながら,海難防止の観点から同装置を設置することが望ましく,是正されるべきである。
 針路を小水無瀬島に向首する244度に定めたこと,及び自動操舵により航行していたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,居眠り運航の防止措置を十分にとっていれば,本件発生を回避できたことから,原因とはならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,伊予灘において,居眠り運航の防止措置が不十分で,山口県小水無瀬島に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,伊予灘において,単独の船橋当直にあたって西行中,眠気を催した場合,居眠り運航に陥ることがないよう,ウイングに出て外気に当たるなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが,同人は,まさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,居眠りに陥り,小水無瀬島に向けて進行し,同島東岸への乗揚を招き,船首船底外板に破口などを生じてバラストタンク,船首倉及び船倉に浸水し,積荷の一部にぬれ損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


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更新日: 2020年12月4日

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