(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年8月9日04時00分
沖縄県出砂島南側裾礁
(北緯26度22.7分 東経127度06.3分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第5和吉丸 |
総トン数 |
4.86トン |
登録長 |
9.95メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
389キロワット |
3 事実の経過
第5和吉丸(以下「和吉丸」という。)は,昭和55年6月に進水したFRP製漁船で,平成8年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人ほか2人が乗り組み,同人の父親を同乗させ,まぐろ延縄漁の目的で,船首0.2メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,平成17年8月8日13時ごろ沖縄県那覇港内の泊漁港を発し,久米島北西方約20海里の漁場に向かう途中,17時ごろ同県渡名喜島の渡名喜漁港に寄港した。
和吉丸は,船体中央やや船尾寄りに船室及び操舵室を配し,操舵室前面及び両舷側には窓を,後面には引き戸式の出入口を設け,同室前部に設けた棚の上にコンパス,GPSプロッター及びレーダーを,同棚後部右舷寄りに舵輪を備えていたほか,自動操舵装置及び主機遠隔操作用レバーを装備していた。
ところで,A受審人は,日ごろ泊漁港を基地として操業しており,久米島北西方の漁場に向かう際には渡名喜島及び同島西方の出砂島北方沖合を航行していたが,那覇市から渡名喜島に帰る父親を送ったのち,翌9日明るくなってから渡名喜漁港を出港し,出砂島南方を航行して漁場に向かうこととして同漁港に寄港したもので,出砂島南方を航行するのは初めてであったものの,渡名喜島と出砂島に挟まれた狭い水道に,上げ潮では北へ,下げ潮では南へ流れる強潮流があることを知人から聞いて知っていた。
A受審人は,8日夜父親宅で4時間ばかり睡眠をとって翌9日03時ごろ目覚めたことから,予定を早めて出港して漁場に到着後に休息するつもりで,直ちに和吉丸に向かって出港準備を行い,03時28分出港準備を終えたころ睡眠不足を感じ,そのまま出港すると居眠りに陥るおそれがあったが,出港操船で緊張するので居眠りすることはないものと思い,もう少し睡眠をとって睡眠不足を解消するなどして居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,03時30分前日から和吉丸船内で休息していた乗組員を起こさずに単独で操船に当たり,渡名喜漁港を出港した。
03時43分A受審人は,渡名喜港灯台から262度(真方位,以下同じ。)1,100メートルの地点に達したとき,GPSプロッター画面を見ながら,針路を出砂島南側に拡延する裾礁外縁を0.3海里ばかり隔てる275度に定め,機関を回転数毎分1,200にかけて5.0ノットの対地速力とし,自動操舵で進行した。
定針後,A受審人は,舵輪のやや右舷側に立ち,操舵室右舷側の壁にもたれ掛かった姿勢で船橋当直を続けていたところ,前路に他船がおらず自動操舵に切り替えたことから,緊張がゆるんで間もなく居眠りに陥り,折からの北へ流れる潮流と風の影響によって右方に14度圧流され,出砂島南側に拡延する裾礁に向かって進行する状況となっていたが,このことに気付かないまま続航し,04時00分渡名喜港灯台から281度2.0海里の地点において,原針路,原速力のまま,出砂島南側の浅礁に乗り揚げた。
当時,天候は晴で風力3の南南東風が吹き,潮候は上げ潮の初期で,月齢は3.7であった。
乗揚の結果,A受審人及び乗組員2人は僚船に救助され,和吉丸は船底に破口を生じて浸水し,その後波浪により陸岸に打ち寄せられて大破し,のち廃船となった。
(海難の原因)
本件乗揚は,夜間,渡名喜漁港を出港するにあたり,居眠り運航の防止措置が不十分で,出砂島南側に拡延する裾礁に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,渡名喜漁港を出港するにあたり,睡眠不足を感じた場合,そのまま出港すると居眠りに陥るおそれがあったから,もう少し睡眠をとって睡眠不足を解消してから出港するなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかしながら,同人は,出港操船で緊張するので居眠りすることはないものと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,立ったまま操舵室右舷側の壁にもたれ掛かった姿勢で船橋当直を続けるうちに居眠りに陥り,出砂島南側に拡延する裾礁に向かって進行して乗揚を招き,船底に破口を生じて浸水し,その後波浪によって陸岸に打ち寄せられて大破させ,廃船とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
|