日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  乗揚事件一覧 >  事件





平成17年門審第72号
件名

貨物船第八吉賀丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年1月31日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,尾崎安則,片山哲三)

理事官
金城隆支

受審人
A 職名:第八吉賀丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)

損害
船首部下部外板に破口を伴う凹損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年1月26日02時50分
 瀬戸内海伊予灘二神島南岸
 (北緯33度55.6分 東経132度31.6分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 貨物船第八吉賀丸
総トン数 199トン
全長 55.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 588キロワット
(2)設備及び性能等
 第八吉賀丸(以下「吉賀丸」という。)は,平成3年4月に広島県豊田郡大崎上島町で進水した限定沿海区域を航行区域とする船尾船橋型鋼製貨物船で,主として関門港若松区ひびきコールセンターから徳島県の小松島港及び撫養(むや)港への石炭輸送に従事していた。
 船橋前面から船首端までの距離は43メートルであり,船橋前方に貨物倉1個が設けられ,船橋中央に設けられたコンソールには左舷側からレーダー,ジャイロコンパス,電動油圧操舵装置,主機遠隔操縦装置が配置され,同コンソール中央に設置された舵輪の後方にはいすが置かれていた。船橋後部の壁面にはGPSプロッタが配置されていた。

3 事実の経過
 吉賀丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,石炭700トンを積載し,船首2.72メートル船尾4.00メートルの喫水をもって,平成17年1月25日17時00分関門港若松区を発し,撫養港に向かった。
 A受審人は,船橋当直体制を,自らと一等航海士による5時間交替の単独2直制とし,機関の回転数を毎分340回転の全速力前進にかけ,10.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,関門航路を自らが当直に就いて通航し,同18時ごろ部埼沖合に至って船橋当直を一等航海士に任せて自室で休息したのち,22時50分ごろ周防灘東部の祝島西方3海里ばかりの地点で,一等航海士から船橋当直を引き継ぎ,同当直に就いた。
 ところで,A受審人は,当日の睡眠時間が01時から04時まで及び20時から入直直前までの合計6時間足らずであり,04時から18時までの間は船橋当直や停泊中の荷役作業が連続したことから,まとまった睡眠時間や休息が取れず,疲れ気味の状態になっていた。
 A受審人は,その後,エアコンを入れて暖房を効かせた中,立ったりいすに腰掛けたりして見張りにあたりながら,推薦航路に沿って平郡水道経由でクダコ水道に向けて進行し,翌26日01時40分沖家室島長瀬灯標から178度(真方位,以下同じ。)0.5海里の地点に差し掛かったとき,前日からの疲労で眠気を催すようになった。
 01時45分A受審人は,沖家室島長瀬灯標から120度0.9海里の地点で,針路を愛媛県二神島の西端に向く050度に定め,折からの南西流に抗して8.3ノットの速力で,右方に4度圧流されながら,自動操舵によって進行した。
 02時07分A受審人は,大石灯標から214度3.7海里の地点に差し掛かったとき,眠気が前にも増して強くなったことを感じたが,前方に認めていた反航船と行き会う状況にあったことから,居眠りすることはあるまいと思い,立った姿勢で見張りを続けるなり,冷気にあたるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく,舵輪後方のいすに腰掛けて続航した。
 02時29分A受審人は,山口県片島を左舷側に並航したとき,前方に反航船がいなくなって自船を追い越した同航船の船尾灯のみを見るようになったことから,緊張がゆるむ状況となったが,依然として居眠り運航の防止措置をとることなく,いすに腰掛けたままの姿勢をとり続けていたところ,いつしか居眠りに陥った。
 02時32分A受審人は,大石灯標から144度1.3海里の予定転針地点に達したが,居眠りしていてこのことに気付かず,転針せずに同じ針路のまま進行し,02時50分大石灯標から081度2.8海里の地点において,吉賀丸は,原針路,原速力のまま,二神島南岸に乗り揚げた。
 当時,天候は霧雨で風力1の東風が吹き,潮候は下げ潮の末期にあたり,付近には1.7ノットの南西流があった。
 A受審人は,乗揚の衝撃で目覚め,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,船首部下部外板に破口を伴う凹損を生じたが,自力離礁し,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 疲れ気味の状態になっていたこと
2 自動操舵としていたこと
3 前方に見える反航船と行き会う状況にあったことから,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置をとらなかったこと
4 いすに腰掛けた姿勢をとり続けたこと
5 居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,山口県屋代島南方沖合をクダコ水道に向けて東行中,強い眠気を感じたときに居眠り運航の防止措置をとっていれば,居眠りに陥ることはなく,発生を防止できたと認められる。
 したがって,A受審人が,船橋当直中,強い眠気を感じた際,前方に認めていた反航船と行き会う状況にあったことから,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらず,いすに腰掛けた姿勢をとり続け,居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,疲れ気味の状態になっていたこと,及び自動操舵としていたことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,山口県屋代島南方沖合をクダコ水道に向けて東行中,居眠り運航の防止措置が不十分で,二神島南岸に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独の船橋当直に就き,山口県屋代島南方沖合をクダコ水道に向けて東行中,強い眠気を感じた場合,居眠り運航とならないよう,立った姿勢で見張りを続けるなり,冷気にあたるなどの居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,前方に認めていた反航船と行き会う状況にあったことから,居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いすに腰掛けたままの姿勢をとり続けて居眠りに陥り,予定の転針地点を航過し,二神島南岸に向かって進行して同海岸への乗揚を招き,船首部船底外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION