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平成17年広審第88号
件名

貨物船高砂丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成18年1月20日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,川本 豊,黒田 均)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:高砂丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
船首船底凹損及びプロペラ翼曲損

原因
居眠り運航防止措置不十分

主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月20日20時27分
 瀬戸内海 伊予灘北西部宇和島
 (北緯33度44.2分 東経132度01.6分)

2 船舶の要目
(1)要目
船種船名 貨物船高砂丸
総トン数 199トン
全長 58.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
(2)設備及び性能等
 高砂丸は,平成4年12月に進水し,航行区域を限定沿海区域とし,西日本各港において飼料などを積み込み,専ら関門港で揚げる航海に従事する船尾船橋型貨物船で,操舵室中央前部に舵輪及び主機操縦盤などを組み込んだ操舵スタンド,同スタンド左舷側にレーダー2台及びGPSプロッターが設置され,自動操舵装置は装備されていたが,居眠り運航防止装置は装備されていなかった。
 海上公試運転成績書写によれば,12.5ノットの全速力前進中に左旋回したとき,旋回直径及び360度旋回に要する時間が,78.6メートル及び1分48秒,同右旋回したとき,78.6メートル及び1分56秒,後進発令から船体停止までの所要時間が1分28秒であった。

3 A受審人の休息状況
 A受審人は,平成16年12月18日11時25分愛知県衣浦港を発し,翌々20日02時45分関門港に着岸して休息し,07時30分に桟橋に付けて揚げ荷役を開始し,08時から12時まで休息をとった。

4 事実の経過
 高砂丸は,A受審人の父である船長B,A受審人及び同人の息子である甲板員の3人が乗り組み,空倉のまま,船首0.4メートル船尾2.6メートルの喫水で,平成16年12月20日15時45分関門港田野浦区を発し,神戸港に向かった。
 ところで,B船長は,船橋当直を,自らが00時から06時及び12時から18時,並びにA受審人が06時から12時及び18時から24時を担当する単独6時間制をとっていた。
 17時27分A受審人は,佐波島灯台から230度(真方位,以下同じ。)10.4海里の地点で,前直のB船長から引き継いで船橋当直に就き,針路を周防灘推薦航路線に沿う102度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対地速力で進行した。
 18時12分A受審人は,姫島灯台から305度9.7海里の地点に達したとき,操舵スタンド後方に置いたいすに腰を掛けて当直に当たっているうち,視界もよく,他船もいなかったことから気が緩んで眠気を催すようになったが,発航前には休息をとったのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく続航した。
 19時09分A受審人は,姫島灯台から025度4.0海里の地点で,反航船と左舷を対して航過し,その後同じ姿勢で当直に当たっているうちいつしか居眠りに陥り,20時12分平郡水道に向かう転針予定地点に達したが,このことに気付かないで転針することができず,宇和島に向首したまま進行し,20時27分ホウジロ灯台から064度1,150メートルの地点において,高砂丸は,原針路,原速力で,同島西岸に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力1の北北東風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
 自室で休息中のB船長は,乗揚の衝撃で目覚めて昇橋し,救援船の手配などの措置に当たった。
 乗揚の結果,船首船底に凹損及びプロペラ翼に曲損を生じたが,救援船によって引き降ろされ,のち修理された。

5 事後の措置
 本件後,高砂丸は,乗組員1人が増員されて船橋当直が3人による単独4時間制に改善され,居眠り運航防止装置が装備された。

(本件発生に至る事由)
1 居眠り運航防止装置が装備されていなかったこと
2 単独で船橋当直に就いたこと
3 気が緩んで眠気を催したこと
4 発航前には休息をとったのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかったこと
5 いすに腰を掛けたまま居眠りに陥ったこと

(原因の考察)
 本件は,眠気を催した際,居眠り運航の防止措置を十分にとっておれば,居眠りに陥ることはなく,予定の転針を行って乗揚は防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,気が緩んで眠気を催した際,発航前には休息をとったのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,居眠り運航の防止措置を十分にとることなく,いすに腰を掛けたまま居眠りに陥ったことは,本件発生の原因となる。
 また,居眠り運航防止装置が装備されていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,このことは,海難防止の観点から是正されるべき事項であった。
 A受審人が単独で船橋当直に就いたことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,周防灘を平郡水道に向けて東行する際,居眠り運航の防止措置が不十分で,宇和島に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で船橋当直に就き,いすに腰を掛けた姿勢で周防灘を平郡水道に向けて東行中,視界もよく,他船もいなかったことから気が緩んで眠気を催した場合,休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,発航前には休息をとったのでまさか居眠りすることはあるまいと思い,休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,いすに腰を掛けたまま居眠りに陥り,予定の転針ができず,宇和島に向け進行して乗揚を招き,船首船底に凹損及びプロペラ翼に曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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