(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年10月12日15時45分
沖縄県前兼久漁港
(北緯26度40.5分 東経126度20.5分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船おやじ丸 |
総トン数 |
4.3トン |
全長 |
12.53メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
264キロワット |
3 事実の経過
おやじ丸は,平成7年12月に進水したFRP製漁船で,平成17年10月12日喫水不詳で沖縄県前兼久漁港に係留していたところ,平成9年4月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が,09時ごろ自動操舵装置等の取付け及び調整の目的で作業員1人と乗り込んだ。
ところで,おやじ丸は船体中央やや船尾寄りに操舵室を設け,同室前部の中央に自動操舵装置,右舷寄りに主機計器盤並びに主機遠隔操作用スロットルレバー及びシフトレバーを配していたほか,3連ダイヤル式で,両レバーを介しての主機回転数制御とシフト操作及び操舵機の遠隔操作ができる遠隔管制器(以下「リモコン」という。)を備えており,リモコン内部に接触不良を生じたことから,船舶修理業を営むA受審人が船舶所有者の修理依頼を受けて乗船したものであった。そして,主機は急発進を防止するための始動防止装置(以下「始動防止装置」という。)が装備されておらず,シフトレバー位置が中立以外のときでも始動するようになっていた。
また,おやじ丸は,前兼久港北防波堤灯台から142度(真方位,以下同じ。)440メートルの前兼久漁港港奥でL字型になったマイナス2.5メートル物揚場の岸壁に,船首前方の岸壁を5メートル離して右舷付けとし,船首係留索3本及び船尾係留索2本をとり090度に向首して係留されていた。
A受審人は,修理済みのリモコンを取り付けたのち,主機停止状態でリモコンによる遠隔操作を種々行い,最後にシフトレバーを前進,スロットルレバーを全速として全ての確認作業を終えたところで,自ら船長として乗り組み,主機運転状態で試運転を行うために出港することとし,15時40分リモコン操作の状態のまま,たばこを一服するために岸壁に上がった。
15時44分A受審人はたばこを吸い終わり,すぐに出港するつもりで係留索を船首尾各1本として出港準備を終え,そのまま主機を始動するとクラッチが嵌合して前進位置に入り,急発進して船首前方の岸壁と衝突するおそれがあったが,シフトレバーを前進,スロットルレバーを全速位置のままとしたことを忘れ,普段の修理の際と同じようにシフトレバーを中立にしているものと思い,15時45分わずか前同レバーの位置を確認することなく主機を始動させたところ,急発進して船尾係留索が切断し,15時45分前兼久港北防波堤灯台から141度450メートルの地点において,毎時10キロメートルの速力で船首前方の岸壁に衝突した。
当時,天候は晴で風力2の北北東風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
衝突の結果,船首部を圧壊し,乗船中の作業員が右顔面及び左後頭部挫創を負った。
(海難の原因)
本件岸壁衝突は,前兼久漁港において,リモコンの作動確認を終えて岸壁から発進するため主機を始動させる際,シフトレバー位置の確認が不十分で,急発進したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,前兼久漁港において,リモコンの作動確認を終えて岸壁から発進するため主機を始動させる場合,シフトレバーが中立位置となっていることを確認すべき注意義務があった。しかしながら,同人は,普段の修理の際と同じようにシフトレバーを中立位置にしているものと思い,同レバー位置を十分に確認しなかった職務上の過失により,同レバーが前進位置となったまま主機を始動し,急発進させて船首前方の岸壁との衝突を招き,船首部を圧壊させ,同乗の作業員に右顔面及び左後頭部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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