(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月29日04時13分
福岡県小呂島北西方沖合
(北緯34度02.6分 東経129度54.5分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船大和丸 |
油送船ニューウェイブ |
総トン数 |
19トン |
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国際総トン数 |
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1,595トン |
全長 |
23.60メートル |
86.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
1,985キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 大和丸
大和丸は,平成2年4月に進水した底はえ縄漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室と機関室が配置され,操舵室には,前部中央に舵輪が設けられ,同室前面の棚には右舷側に機関操縦装置を,中央にジャイロコンパス及びGPSプロッタを,左舷側にレーダー2台をそれぞれ備えていた。また,灯火設備として,船首部のマストに上から順に紅色全周灯,マスト灯及び白色全周灯が,操舵室上部のマストに停泊灯及び黄色回転灯が,同室屋根に舷灯が,船尾部のマストに緑色回転灯及び船尾灯がそれぞれ設けられていたほか,船尾甲板を照射する白色作業灯が1個取り付けられていた。
イ ニューウェイブ
ニューウェイブ(以下「ニ号」という。)は,1997年8月に日本で建造された船尾船橋型鋼製液化石油ガス運搬船で,船橋楼前方に液化石油ガスタンク3基が設けられており,船首端から同楼前面までの水平距離が65.5メートルで,同楼最上層に配置された操舵室には,中央に操舵スタンドを設け,レーダー2台及びGPSなどの航海計器が備えられていた。
本件発生当時の喫水で,眼高は約9メートルであり,操舵室から前方の視界を遮る甲板上構造物はなく,見通し状況は良好であった。
諸試験成績書によると,全速力前進中に舵中央から舵角35度で左旋回したとき,最大縦距が318メートル,最大横距が258メートルであり,また,30度旋回における縦距が259メートル,横距が27メートルであった。
(3)大和丸の底はえ縄漁
大和丸の底はえ縄漁は,直径1ミリメートルのナイロン製テグスを繋いで長さ約4,000メートルとした幹縄に,先端に針が付けられた長さ3メートルの枝縄を9メートルの間隔で取り付けて1本のはえ縄とし,これを4本使用して,毎年10月から翌年3月までの期間に玄界灘北部の海域において,03時ごろから投縄を始め,07時ごろから17時ごろにかけて揚縄を行い,たいやれんこだいなどを漁獲するもので,3日間ないし4日間この操業を繰り返したのち,福岡県玄界漁港に帰港して水揚げを行っていた。
3 事実の経過
大和丸は,A受審人ほか2人が乗り組み,操業の目的で,船首0.9メートル船尾2.0メートルの喫水をもって,平成16年12月26日00時00分玄界漁港を発し,同日03時30分ごろ小呂島北西方沖合の漁場に至り,操業を開始した。
越えて29日03時30分A受審人は,小呂島北西方約14海里の地点で,発航後4日目の操業を開始し,両舷灯及び船尾灯を表示したが,トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶が表示しなければならない紅,白2灯の全周灯を表示しないまま,マスト灯のほか緑色,黄色の各回転灯及び作業灯1個をそれぞれ点灯し,2人の甲板員に船尾甲板で投縄作業に当たらせ,自らは操舵室で操船に当たり,1本目のはえ縄を延出しながら南東進した。
A受審人は,1本目の投縄作業を終えたのち,03時57分半小呂島港西2号防波堤灯台(以下「小呂島灯台」という。)から329度(真方位,以下同じ。)11.5海里の地点を発進し,針路を325度に定め,機関を半速力前進にかけ,6.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,2本目のはえ縄を延出しながら自動操舵により進行した。
発進したとき,A受審人は,右舷正横後11度2.9海里のところに,ニ号の表示する白,白,紅3灯を初めて認め,灯火の点灯状況から同船が西行していることを知り,04時08分少し過ぎ小呂島灯台から328度12.6海里の地点に至り,はえ縄を2,000メートル延出したとき,右舷正横後23度方向に同船の白,白,紅3灯を再び認めるようになったが,その距離を確認しなかったので,同船が1.2海里に接近していることに気付かず,距離が十分にあるように見えたことから,自船が反転して南東方に向かえば同船が北側を無難に航過していくものと考え,自動操舵装置のつまみを操作しながら緩やかに右回頭を開始し,直径500メートルの円を描く態勢で進行した。
こうして,A受審人は,緩やかな回頭としたので,この間にニ号が自船の回頭円に向かって著しく接近する状況となっていたが,回頭中に船尾方に出て行く縄が絡むことがあるので,右舷船尾方のみを見ていて,この状況に気付かなかった。
04時11分半A受審人は,小呂島灯台から330度12.7海里の地点に達し,船首が102度を向いたとき,左舷船首3度650メートルのところにニ号の白,白,緑3灯を視認でき,進路が交差していることが分かり,このまま回頭を続けると同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが,依然として自船が南東方に向かうので同船が北側を航過していくものと思い,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かず,機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとらずに進行した。
04時12分半A受審人は,反転を終えて針路を145度とし,ニ号の接近に気付かないまま進行中,同時13分わずか前左舷船首至近からの汽笛の吹鳴音に気付いたが,何をする間もなく,04時13分小呂島灯台から330度12.6海里の地点において,大和丸は,原針路,原速力のまま,その船首がニ号の右舷後部に直角に衝突した。
当時,天候は曇で風力3の西北西風が吹き,潮候は下げ潮の末期にあたり,視界は良好であった。
また,ニ号は,いずれも大韓民国国籍の船長C及び一等航海士Dほか9人が乗り組み,液化石油ガス約1,001トンを積載し,船首3.1メートル船尾5.9メートルの喫水をもって,平成16年12月28日17時00分大分港を発し,関門海峡を経由する予定で同国麗水港に向かった。
発航後,C船長は,周防灘を経て関門海峡を通航し,翌29日00時30分蓋井島灯台から179度2.9海里の地点で,針路を270度に定め,機関を全速力前進にかけ,11.8ノットの速力とし,船橋当直を二等航海士に委ねて降橋した。
04時00分D一等航海士は,小呂島灯台から341度11.7海里の地点で昇橋して二等航海士と交代し,法定の灯火を表示していることを確認し,甲板部員1人を補佐につけて船橋当直に就き,同じ針路及び速力で,自動操舵により進行した。
04時05分D一等航海士は,小呂島灯台から337度12.1海里の地点に差し掛かり,左舷船首20度1.7海里のところに大和丸の表示する白,緑2灯のほか緑,黄の各回転灯と明るい白色作業灯1個を初めて認め,灯火の点灯状況から北向きに航行中の漁船と判断し,同船の船尾方を通過することとして針路を263度に転じ,同じ速力で続航した。
04時09分少し過ぎD一等航海士は,小呂島灯台から333度12.4海里の地点に至り,大和丸が正船首1,800メートルのところを右舷方に横切ったのを認めたので,同船がそのまま北上するものと考え,その後気に留めずに進行した。
04時11分半少し前D一等航海士は,右舷船首15度700メートルのところに大和丸の紅,緑の両舷灯を視認し,同船が北上を止めて針路を右に転じたことに気付いたが,同船が自船の接近を知っているであろうから,やがて左転して自船の右舷側を航過していくものと思い,その後同船から目を離していたところ,同時11分半小呂島灯台から331度12.5海里の地点に達したとき,右舷船首16度650メートルのところに接近した大和丸が,左舷灯のみを見せるようになったことから同船が右回頭を続けていることが分かり,このまま進行すれば同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況となったが,依然,同船に対する動静監視を十分に行わなかったので,この状況に気付かず,右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに進行した。
04時12分D一等航海士は,小呂島灯台から331度12.6海里の地点で,ふと右舷方を見たとき,右舷船首20度370メートルのところに大和丸の白,紅2灯を認め,衝突の危険を感じ,手動操舵に切り替えて左舵一杯をとり,汽笛を吹鳴し,機関を停止したが及ばず,ニ号は,船首が235度を向き,8ノットばかりの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
C船長は,自室で就寝中,船体に衝撃を感じて目覚め,昇橋して衝突の事実を知り,事後の措置に当たった。
衝突の結果,大和丸は,バルバスバウに亀裂を伴う凹損を生じて浸水し,ニ号は,右舷後部ハンドレールに曲損及び同部外板にペイント剥離を生じたが,のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件衝突は,小呂島北西方沖合の海域において発生したものであり,同海域は港則法などの特別法の適用がないから,一般法である海上衝突予防法によって律することとなる。
大和丸は,実態的にははえ縄を投縄しながら操業していたものであるから,トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶であることを示す灯火を表示すべきところ,マスト灯,両舷灯,船尾灯のほか黄色,緑色の各回転灯と作業灯1個を点灯していたものであり,同船の灯火点灯状況では,ニ号から大和丸を見て,同船の船型から航行中の漁船であることは推認できたとしても,漁ろうに従事している船舶であるかどうかを識別できない状況にあったと認められ,海上衝突予防法第18条に規定する各種船舶間の航法を適用することは相当でない。
また,右回頭中の大和丸と直進中のニ号とが衝突の1分半前両船間の距離が650メートルとなったとき,互いに進路が交差する態勢となって衝突のおそれが生じ,その後も両船の互いに視認する方位が刻々と変化する態勢で接近する相対関係にあり,両船にこの見合い関係を適用できる個別の航法規定が存在しないので,船員の常務によるのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 大和丸
(1)トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶の灯火を表示していなかったこと
(2)右回頭して南東方に向かうので自船の北側を航過していくものと思い,ニ号に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったったこと
2 ニ号
(1)大和丸の船尾方を通過するよう針路を左に転じたので,同船が自船の右舷側を航過していくものと思い,大和丸に対する動静監視を十分に行わなかったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,大和丸が,ニ号に対する動静監視を十分に行っていれば,同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることに気付き,機関を使用して行きあしを止めるなど衝突を避けるための措置をとることができ,衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,右回頭して南東方に向かうので自船の北側を航過していくものと思い,ニ号に対する動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
A受審人が,トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶の灯火を表示していなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,法令遵守及び海難防止の観点から,是正されるべき事項である。
一方,ニ号が,大和丸に対する動静監視を十分に行っていれば,衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることが分かり,右転するなど衝突を避けるための措置をとることができ,衝突を回避できたものと認められる。
したがって,D一等航海士が,大和丸の船尾方を通過するよう針路を左に転じたので,同船が自船の右舷側を航過していくものと思い,大和丸に対する動静監視を十分に行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,夜間,福岡県小呂島北西方沖合において,緩やかに大きく回頭する大和丸と直進するニ号が衝突のおそれがある態勢で接近中,大和丸が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことと,ニ号が,動静監視不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,夜間,福岡県小呂島北西方沖合において,トロール以外の漁法により漁ろうに従事している船舶の灯火を表示せずにはえ縄を投入しながら北西進中,右舷方に西行するニ号を認め,同縄の投入を続けつつ緩やかに大きく右回頭する場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,回頭して南東方に向かうので同船が自船の北側を航過していくものと思い,ニ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き,大和丸のバルバスバウに亀裂を伴う凹損を,ニ号の右舷後部ハンドレールに曲損及び同部外板にペイント剥離をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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