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平成17年門審第110号
件名

貨物船海邦漁船昭英丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦,西林 眞,片山哲三)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:海邦一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:昭英丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
海邦・・・バルバスバウに凹損及び船首右舷側に擦過傷
昭英丸・・・左舷後部を損壊して浸水し,のち沈没,船長が頚椎捻挫

原因
海邦・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
昭英丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,海邦が,見張り不十分で,漂泊中の昭英丸を避けなかったことによって発生したが,昭英丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月26日09時55分
 屋久島南方沖合
 (北緯29度55.3分 東経130度27.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船海邦 漁船昭英丸
総トン数 1,090トン 11トン
全長   99.45メートル
登録長   13.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   2,942キロワット
漁船法馬力数   150
(2)設備及び性能等
ア 海邦
 海邦は,平成11年12月に愛媛県今治市で進水した限定近海区域を航行区域とする船尾船橋型の鋼製貨物船で,大阪港と愛媛県三島川之江港及び那覇港との間においてコンテナ貨物の定期輸送に従事し,船橋前方に貨物倉1個を設け,同倉口の中央から前方は1番ハッチカバー,後方は2番ハッチカバーが覆い,1番ハッチカバー上にはコンテナ16個を1段積みしていたものの,船橋から前方の見張りを妨げる死角はなく,操舵室前面のコントロールスタンドには,中央部にジャイロコンパスのレピータ及び操舵輪を,右舷側にはジャイロコンパス及び主機遠隔操縦装置を,左舷側にはレーダー2台をそれぞれ配置し,同室内後部左舷側の海図台上にはGPSプロッターが設置されていた。
 同船は,推進装置として可変ピッチプロペラを装備し,海上試運転成績表によれば,最大速力が主機回転数毎分175翼角22.7度において17.71ノットであった。そして,喫水3.48メートル(m)速力17.93ノットで航走中に,舵角35度で回頭するとき,右回頭で,180度回頭するまでの所要時間,縦距及び横距は,1分47秒,169.67m及び488.36mであり,左回頭で,1分35秒,218.91m及び403.99mを示し,また,最短停止時間が1分52秒,同距離が730mであった。
イ 昭英丸
 昭英丸は,昭和52年12月鹿児島県串木野市で進水した一層甲板型のFRP製漁船で,主として一本釣り漁業に従事し,船体中央やや後部に設けられた操舵室は,高さ及び横幅がそれぞれ1.7m,長さが2.5mであり,同室内には,磁気コンパス,レーダー,GPS,魚群探知器及び自動操舵装置などが装備されていた。
 昭英丸の釣りに使用する仕掛けは,直径約2ミリメートル長さ約500mのワイヤに,長さ約50mのテグスを繋ぎ,同テグスに約10本の釣針を付けたもので,操舵室右舷側甲板上の前後に各1個備えられた電動リールで巻き上げ巻き降ろしを行っていた。
 同船は,モーターホーン1個を装備していた。

3 事実の経過
 海邦は,船長C及びA受審人ほか7人が乗り組み,コンテナ貨物約290トンを積載し,船首3.20m船尾4.80mの喫水をもって,平成17年4月25日17時00分那覇港を発し,三島川之江港に向かった。
 ところで,海邦の船橋当直は,A受審人,C船長及び二等航海士に,それぞれ甲板員1人が副直に就き,2人による4時間交替の3直制となっており,A受審人は7時30分から11時30分までの時間帯を受け持っていた。
 A受審人は,翌26日07時30分中之島灯台から165度(真方位,以下同じ。)23.0海里の地点で,C船長から進路付近には漁船が多いので注意して航行するよう指示を受けて船橋当直を引き継ぎ,針路を035度に定め,15.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で,折からの風潮流の影響によって右方に4度圧流されながら,自動操舵によって進行した。
 08時ごろA受審人は,視界が良好で周囲に他船を認めなかったことから,1号レーダーの電源を切り,2号レーダーをスタンバイ状態とし,相当直の甲板員に甲板整備作業を行わせ,単独の船橋当直に就いて続航した。
 09時30分A受審人は,中之島灯台から087度24.7海里の地点に達したとき,船位を海図に記入したのち,船橋前部中央の窓際に移動して前方を確認したものの他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,相当直の甲板員が2番ハッチカバー上で塗装作業を行っている様子を眺めながら進行した。
 09時50分A受審人は,中之島灯台から079.5度28.4海里の地点に達したとき,ほぼ正船首方1.3海里のところに船首を北西に向けた昭英丸を視認でき,その後,同船が船尾にスパンカを上げていることや航走波を出していないことから停止状態にあることが分かり,同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していたが,ハッチカバー上で作業をしている甲板員の様子に気をとられ,見張りを十分に行わなかったので,昭英丸に気付かず,同船を避けないまま続航中,09時55分中之島灯台から078度29.3海里の地点において,海邦は,原針路,原速力のまま,その船首が昭英丸の左舷後部に後方から65度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の北北西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期にあたり,付近には約1.2ノットの南東流があった。
 A受審人は,ハッチカバー上の甲板員が作業を終えたころ操舵スタンドに戻り,09時55分わずか過ぎ針路を確認してふと前方を見たとき,1番ハッチカバー右舷側至近の舷越しに影のようなものを認め,あわてて右舷側に移動してスパンカが倒れた昭英丸を見て衝突したことに気付き,機関を停止し,C船長に知らせた。
 C船長は,A受審人の知らせで昇橋し,海面上のB受審人を救助するなどの事後の措置に当たった。
 また,昭英丸は,B受審人が1人で乗り組み,一本釣り漁の目的で,船首0.60m船尾1.00mの喫水をもって,平成17年4月26日02時00分安房港を発し,06時00分ごろ前示衝突地点付近の漁場に至り,船尾端にスパンカを上げて釣りを開始し,同付近のポイントに占位するため,同ポイントから南南東方に300mばかり流されては潮上りを繰り返して操業を続けた。
 09時50分B受審人は,前示衝突地点付近で,操舵室によって左舷方に死角が生じる同室右舷側の甲板上に立ち,漂泊状態とし,電動リールを使用して釣りを行い,船首が330度に向いていたとき,左舷船尾65度1.3海里のところに,来航する海邦を視認することができ,その後同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近したが,船尾にスパンカを上げて漂泊状態にある自船を他船が避けてくれるものと思い,釣りに熱中し,甲板上を前後するなどして周囲の見張りを十分に行わなかったので,海邦に気付かず,同船が自船を避ける様子を見せないまま接近したものの,モーターホーンによる警告信号を行わず,間近に接近しても機関のクラッチを入れて移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊中,昭英丸は,船首を330度に向けたまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,海邦はバルバスバウに凹損及び船首右舷外板に擦過傷を生じ,昭英丸は左舷後部を損壊して浸水し,間もなく沈没して全損となった。また,B受審人は,海邦によって救助されたものの,9日間の通院加療を要する頚椎捻挫を負った。

(本件発生に至る事由)
1 海邦
(1)2人による船橋当直としなかったこと
(2)レーダーを使用していなかったこと
(3)前路に他船はいないと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(4)衝突を避けなかったこと

2 昭英丸
(1)漂泊状態にある自船を他船が避けてくれるものと思い,釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 海邦が見張りを十分に行っていたならば,昭英丸を視認することができ,その後同船が漂泊していることが分かり,同船を避けることによって,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,ハッチカバー上で作業をしている甲板員の様子に気をとられ,見張りを十分に行わず,衝突を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,2人による船橋当直としなかったこと及びレーダーを使用していなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,視界が良好な海象のときであり,前方に死角がなかったことから,本件発生と相当な因果関係があるとは認められない。
 一方,昭英丸が周囲の見張りを十分に行っていたならば,海邦を視認することができ,同船が衝突のおそれのある態勢で接近することが分かり,海邦に対する警告信号や避航動作をとることができ,本件衝突を回避できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,漂泊状態にある自船を他船が避けてくれるものと思い,釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行わず,衝突のおそれのある態勢で接近する海邦に警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,屋久島南方沖合において,三島川之江港に向けて北東進中の海邦が,見張り不十分で,漂泊中の昭英丸を避けなかったことによって発生したが,昭英丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,屋久島南方沖合において,三島川之江港に向けて北東進する場合,漂泊している昭英丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,少し前に前方を確認したとき他船を認めなかったことから,前路に他船はいないと思い,ハッチカバー上で作業をしている甲板員の様子に気をとられ,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,昭英丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,海邦のバルバスバウに凹損及び右舷外板に擦過傷を生じさせ,昭英丸の左舷後部に損壊を生じさせて同船を沈没させ,B受審人に9日間の通院加療を要する頚椎捻挫を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,屋久島南方沖合において,漂泊して一本釣り漁の操業を行う場合,衝突のおそれのある態勢で接近する海邦を見落とすことのないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船尾にスパンカを上げて漂泊状態にある自船を他船が避けてくれるものと思い,釣りに熱中し,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,海邦に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊状態を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるとともに自ら負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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