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平成17年門審第108号
件名

漁船喜久丸モーターボートふじ号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月23日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(上田英夫,千手末年,片山哲三)

理事官
濱田真人

受審人
A 職名:喜久丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
喜久丸・・・船首外板にペイント剥離
ふじ号・・・右舷中央部に破口,船長が右多発肋骨骨折,脳内出血,腹腔内出血及び溺水に伴う心肺停止により意識障害

原因
喜久丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ふじ号・・・船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,喜久丸が,見張り不十分で,漂泊中のふじ号を避けなかったことによって発生したが,ふじ号が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月18日07時23分
 山口県萩港西方沖合
 (北緯34度26.0分 東経131度21.6分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船喜久丸 モーターボートふじ号
総トン数 4.0トン  
全長 13.50メートル  
登録長   5.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 105キロワット 14キロワット
(2)設備及び性能等
ア 喜久丸
 喜久丸は,昭和59年11月に進水した採介藻漁業及び一本つり漁業に使用されるFRP製漁船で,船体後方に設けられた操舵室の前部左舷側に舵輪が設けられ,同室前面の棚には右舷側に機関操縦装置を,左舷側に魚群探知機をそれぞれ備え,レーダーは装備されていなかった。
 同船は,機関を全速力前進として航走すると船首が浮上し,操船者が操舵室右舷側に立った姿勢で前方を望むと,同位置における船首尾線に対して右舷側に約7度,左舷側に約13度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じる状況であった。
イ ふじ号
 ふじ号は,昭和63年4月に第1回定期検査を受け,最大とう載人員4人の船外機を備えた和船型FRP製モーターボートで,操舵室はなく,右舷船首部にアンカーウインチを備えていた。なお,同船には有効な音響による信号を行うことができる手段が講じられていなかった。

3 事実の経過
 喜久丸は,A受審人が1人で乗り組み,もずく採取の目的で,船首0.19メートル船尾1.30メートルの喫水をもって,平成17年4月18日07時08分山口県萩港の後小畑の船だまりを発し,萩市三見明石沖合の漁場に向かった。
 07時12分半A受審人は,萩港灯台から300度(真方位,以下同じ。)250メートルの地点に至り,針路をツバ瀬の南方約400メートルに向く258度に定め,機関を全速力前進にかけ,15.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,操舵室の右舷側に立ち,船首が浮上して死角が生じた状況で,手動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,平素,船首浮上により死角が生じた際,船首を左右に振ったり,操舵室の外に出て,ブルワークの上に片足を乗せて立つなどして船首方の死角を補う見張りを行っていた。
 07時20分A受審人は,ツバ瀬灯標から090度2,100メートルの地点に差し掛かり,正船首1,400メートルのところに漂泊中のふじ号が存在したが,船首を左右に振って前方を見たものの,一瞥(べつ)したのみであったので同船を見落とし,同じ針路及び速力で続航した。
 07時21分半A受審人は,ツバ瀬灯標から095度1,450メートルの地点に達したとき,正船首700メートルのところに船首を北方に向けたふじ号を視認でき,その後同船がほとんど移動していないことから漂泊中であることが分かり,同船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,ツバ瀬周辺で釣り船などを見かけたことがなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船に衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かないまま進行した。
 こうして,A受審人は,漂泊中のふじ号を避けずに続航し,07時23分ツバ瀬灯標から110度800メートルの地点において,喜久丸は,原針路,原速力のまま,その船首がふじ号の右舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力3の南風が吹き,潮候は上げ潮の末期であった。
 また,ふじ号は,昭和61年5月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したBが1人で乗り組み,救命胴衣を着用しないまま,釣りの目的で,同日07時00分ごろ萩市橋本川右岸の係留地を発し,ツバ瀬周辺の釣り場に向かった。
 07時15分ごろB船長は,前示衝突地点付近に至って機関を停止し,漂泊状態として竿釣りを開始し,同時21分半船首が008度を向いていたとき,右舷船首70度700メートルのところに自船に向首した喜久丸を視認でき,その後同船が衝突のおそれがある態勢で避航の気配を見せずに接近したが,このことに気付かずに釣りを行っていた。
 B船長は,釣果が無かったことから,前日に釣りを行った際,あじが釣れたツバ瀬の北方約1,500メートルの釣り場に移動することとし,釣竿の片付けなどを行っていて,機関を始動して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,喜久丸は,船首部外板にペイント剥離を生じたが,のち修理され,ふじ号は,右舷中央部外板に破口を生じ,のち廃船処理された。また,B船長が,衝突の衝撃によって海中に転落し,喜久丸によって救助されたが,右多発肋骨骨折,脳内出血,腹腔内出血及び溺水に伴う心肺停止により意識障害などを負った。
 
(本件発生に至る事由)
1 喜久丸
(1)船首が浮上して死角が生じる状況にあったこと
(2)ツバ瀬周辺で釣り船などを見かけたことがなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったこと
(3)漂泊中のふじ号を避けなかったこと

2 ふじ号
(1)有効な音響による信号を行うことができる手段が講じられていなかったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,航行中の喜久丸が,死角を補う見張りを十分に行っていれば,前路で漂泊中のふじ号を視認することができ,同船を避けることができたものと認められる。
 したがって,A受審人が,ツバ瀬周辺で釣り船などを見かけたことがなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わず,漂泊中のふじ号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 喜久丸の船首が浮上して死角が生じる状況にあったことは,通常の操舵位置からの船首方の見張りを妨げることとなるものの,船首を左右に振るなどの手段をとることにより,その死角を解消することができたのであるから,本件発生の原因とはならない。
 一方,ふじ号は,喜久丸が自船に向首したまま間近に接近したとき,船外機を始動して移動すれば,本件の発生を回避できたものと認められる。
 したがって,B船長が,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 ふじ号に有効な音響による信号を行うことができる手段が講じられていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,機関を始動して移動するなど,発生を回避することが可能であったから,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,法令遵守及び海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,山口県萩港西方沖合において,漁場に向け西行中の喜久丸が,見張り不十分で,漂泊中のふじ号を避けなかったことによって発生したが,ふじ号が,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山口県萩港西方沖合において,漁場に向けて西行する場合,船首浮上により前方に死角を生じていたから,前路の他船を見落とさないよう,船首を左右に振るなど,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,ツバ瀬周辺で釣り船などを見かけたことがなかったことから,前路に他船はいないものと思い,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中のふじ号に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,喜久丸の船首外板にペイント剥離を,ふじ号の右舷中央部外板に破口をそれぞれ生じさせ,B船長に右多発肋骨骨折,脳内出血,腹腔内出血及び溺水に伴う心肺停止により意識障害などを負わせる至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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