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平成18年門審第9号
件名

漁船第八聖幸丸漁船金比羅丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月17日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(尾崎安則)

副理事官
三宅和親

受審人
A 職名:第八聖幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:金比羅丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八聖幸丸・・・船首部に擦過傷
金比羅丸・・・右舷後部外板及び同船底外板に亀裂を生じて転覆し,主機,電気系統及び電装品を濡損,船長が右肩腱板断裂,前額部裂創及び頭部打撲等

原因
第八聖幸丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸・・・音響信号不履行(音響信号装置不装備),船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,第八聖幸丸が,見張り不十分で,錨泊中の金比羅丸を避けなかったことによって発生したが,金比羅丸が,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月2日15時15分
 長崎県対馬上島東岸沖合
 (北緯34度24.5分 東経129度24.8分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八聖幸丸 漁船金比羅丸
総トン数 16トン 2.2トン
全長 19.95メートル  
登録長   8.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 433キロワット 25キロワット

3 事実の経過
 第八聖幸丸(以下「聖幸丸」という。)は,昭和63年1月に進水し,主として夜間のいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,平成16年2月交付の一級,特殊及び特定の各資格を担保する小型船舶操縦免許証を所持するA受審人ほか1人が乗り組み,やりいかを漁獲対象とした操業の目的で,船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって,平成17年9月2日14時45分長崎県千尋藻漁港を発し,同漁港が面する大漁湾東側にある長崎鼻の東南東方14海里ばかりの漁場に向かった。
 15時00分A受審人は,対馬長崎鼻灯台(以下「長崎鼻灯台」という。)から242度(真方位,以下同じ。)1.1海里の地点で,機関を毎分1,100回転の全速力前進にかけ,操舵室中央部に立って1人で見張りに当たりながら,9.2ノットの対地速力で,自動操舵により大漁湾を北上した。
 ところで,A受審人は,聖幸丸の操舵室前方に自動いか釣り機等の見通しを妨げる機器を装備していなかったものの,同室中央部に立った姿勢で,機関を全速力前進にかけて航行すると船首が浮上し,正船首方向にわずかな範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから,平素,身体を左右に移動させてその死角を補っていた。
 15時07分半A受審人は,長崎鼻灯台から333度650メートルの地点に差し掛かり,長崎鼻先端部を約500メートル離すことにして自動操舵のまま右回頭を開始したとき,やりいかの盛漁期であったことから,同鼻東方沖合に多数のいか釣り漁船が集結し,夜間操業に備えて場所取りなどをしているのが見えたので,とりあえず漁船が比較的少ないところを通航したのち,目的の漁場に向けることとした。
 15時10分A受審人は,長崎鼻の北北東方500メートルばかりの地点に至り,船首が東南東方を向いていたとき,長崎鼻東方と同鼻の東南東方2ないし3海里ばかりに漁船群を認め,両漁船群の中間に向けることとしたが,このとき,進路にあたる130度方向0.7海里のところに金比羅丸を認めることができる状況にあったが,その存在を見落とし,同時10分半長崎鼻灯台から046度800メートルの地点で,針路を131度に定め,自動操舵のまま進行した。
 定針したとき,A受審人は,正船首方1,250メートルのところに金比羅丸を視認でき,同船が黒色の球形形象物を掲げていなかったものの,その後同船が船首を風上に向けて移動しないことから錨泊中か停留中であることや,同船に向首して衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かる状況になったが,定針する前に同船の存在を見落としたことから,前路に他船はいないと思い,周囲の漁船の動きを見ることに気を取られ,身体を左右に移動させるなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,この状況に気付かず,同船を避けることなく続航中,15時15分長崎鼻灯台から100度1,500メートルの地点において,聖幸丸は,原針路,原速力のまま,その船首が金比羅丸の右舷後部にほぼ直角に衝突した。
 当時,天候は晴で風力2の南西寄りの風が吹き,視界は良好で,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,金比羅丸は,昭和58年2月に進水し,主として夜間のいか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で,平成15年11月交付の一級,特殊及び特定の各資格を担保する小型船舶操縦免許証を所持するB受審人が1人で乗り組み,やりいかを漁獲対象とした操業の目的で,船首0.4メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,平成17年9月2日13時30分長崎県三浦湾漁港(久須保地区)を発し,長崎鼻沖合の漁場に向かった。
 ところで,B受審人は,発航するにあたって,金比羅丸に有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていなかった。
 14時45分B受審人は,水深約30メートルの前示衝突地点付近の漁場に至り,左舷船首から重量50キログラムの錨を投じ,錨索を60メートルばかり延出して機関の回転を停止し,黒色の球形形象物を掲げないまま,夜間操業に備えて錨泊を開始した。
 15時10分半B受審人は,折からの風を受けて船首が221度を向いていたとき,右舷正横1,250メートルのところに来航する聖幸丸を視認できる状況にあったものの,前部甲板で左舷側を向いた姿勢で座り込み,擬餌針の仕掛けを作っていて同船に気付かず,同時12分少し過ぎ仕掛け作りを終え,立ち上がって周囲の状況を確認したとき,右舷正横800メートルのところに聖幸丸を初認し,その後同船の方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で接近することを知った。
 15時13分半B受審人は,聖幸丸が右舷正横400メートルまで接近したとき,長さ4メートルの白塗りの竿を振り始めたものの,同船に避航の気配が見られなかったが,竿を振って合図していれば自船の存在に気付くだろうと思い,音響信号不装備で,注意喚起信号を行わず,同船が更に接近しても,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく,竿を振り続けているうち,同船が至近に迫って危険を感じ,急ぎ機関を始動したものの効なく,金比羅丸は,221度に向首して錨泊したまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,聖幸丸は船首部に擦過傷を生じ,金比羅丸は,右舷後部外板及び同船底外板に亀裂を生じて転覆し,主機,電気系統及び電装品を濡損し,修理費の関係でのち廃船処分とされ,B受審人が約3箇月の入院を要する右肩腱板断裂のほか,前額部裂創,頭部打撲等を負った。

(海難の原因)
 本件衝突は,長崎県対馬上島東岸の長崎鼻東方沖合において,漁場に向けて南東進中の聖幸丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の金比羅丸を避けなかったことによって発生したが,金比羅丸が,注意喚起信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,長崎県対馬上島の長崎鼻東方沖合において,漁場に向けて,いか釣り漁船が多数集結した中を通航する場合,正船首方に船首浮上による死角を生じていたのであるから,前路に存在する他船を見落とさないよう,身体を左右に移動させるなどして同死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,定針前に前路を確認したとき金比羅丸の存在を見落としたことから,前路に他船はいないと思い,周囲の漁船の動きを見ることに気を取られ,船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中の同船に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,聖幸丸の船首部に擦過傷を生じさせ,金比羅丸の右舷後部外板及び同船底外板に亀裂を生じさせたほか,主機,電気系統及び電装品を濡損させて同船を廃船処分とならしめ,B受審人に右肩腱板断裂のほか,前額部裂創,頭部打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,長崎県対馬上島の長崎鼻東方沖合において,錨泊していることを示す形象物を掲げないで錨泊中,衝突のおそれのある態勢で接近する聖幸丸に避航の気配が見られないことを認めた場合,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,竿を振って合図すれば自船の存在に気付くだろうと思い,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,両船に前示の損傷を生じさせ,自ら負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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