(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年2月22日15時09分
山口県角島西方沖合
(北緯34度23.4分 東経130度37.1分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船春日丸 |
貨物船グリーン ウェイブ |
総トン数 |
7.3トン |
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国際総トン数 |
|
4,410トン |
全長 |
14.60メートル |
107.2メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
308キロワット |
3,309キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 春日丸
春日丸は,平成3年3月に進水した一本つり漁業に従事する全通一層甲板型のFRP製漁船で,船体中央に機関室を,同室後部の上に操舵室をそれぞれ配置し,操舵室内には,前部に左右両舷に渡る計器台を備えてあり,同台中央に磁気コンパスを,同コンパスの船尾側に操舵輪を,同コンパス右側の台上に,右舷側から順に主機遠隔操縦装置,同計器盤を,同計器盤の上方にGPSプロッタを,同コンパス左側の台上に,右舷側から順に魚群探知機,レーダーをそれぞれ装備し,同室右舷壁に接して操縦席を設けており,主として日中のいか流し釣り漁を行っていたことから,前部甲板に自動いか釣り機や集魚灯を装備しておらず,同席からの前方の見通しは良好であった。なお,VHF無線電話は備えていなかった。
操業方法は,やりいかを漁獲対象とし,長さ120メートルの幹糸に長さ9メートルの枝糸を繋ぎ,その枝糸に長さ50センチメートルで先端に擬餌針を付けたはりすを1.5メートル間隔で6本取り付けた仕掛けを,幹糸の一端にフロートを付け,枝糸の一端に錘を付けて海中に投じるもので,操業時には20組の仕掛けを使用していた。
航海速力は,機関の回転数が毎分1,700で約18ノットであった。
イ グリーン ウェイブ
グリーン ウェイブ(以下「グ号」という。)は,1980年に日本で建造された船尾船橋型の鋼製貨物船で,船橋前部の上甲板下に貨物倉2個を,両貨物倉の間及び船首楼にデリッククレーンを,船橋前面に門形デリッククレーンをそれぞれ配置していた。
操舵室内には,操舵スタンド,ジャイロ・レピータ,レーダー2台,GPS受信器,自動操舵装置及び機関制御スタンド等を装備し,船内では,日本標準時より1時間進めたロシア連邦ハバロフスク地方標準時を使用していた(以下「船内時間」といい,同時間以外の時刻は日本標準時である)。
3 事実の経過
春日丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年2月22日03時30分福岡県岩屋漁港を発し,05時40分山口県角島の北西方14海里ばかりの漁場に至って操業を開始し,やりいか約50キログラムを漁獲したのち,帰途に就くこととした。
14時40分A受審人は,角島灯台から302度(真方位,以下同じ。)13.7海里の漁場で,針路を岩屋漁港に向く173度に定め,機関を毎分1,000回転の半速力前進にかけ,10.3ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,自動操舵によって航行した。
14時57分A受審人は,前方に他船を認めなかったことから,翌日の操業に備え,根掛かりで切断した仕掛け6組を作っておこうと思い立ち,警報リング機能を活用せずにレーダーを作動させ,操縦席左側の床に船首方を向いて座り込み,操舵室の窓から周囲を見通すことができない状況のまま,時折レーダー画面を見ながら,仕掛けを作り始めた。
15時02分半A受審人は,角島灯台から287度11.7海里の地点に至ったとき,レーダーで右舷前方1.9海里のところにグ号の映像を初認したが,数日前にこの海域で停泊中の大型船を見かけていたことから,同船がまた停泊しているものと思い,その後同船を目視してその方位を確認するなどの動静監視を十分に行わなかったので,同船が右舷船首35度方向にあって前路を左方に横切る態勢であることも,同船の方位が明確に変化せず,衝突のおそれのある態勢で接近していることにも気付かず,床に座った姿勢で仕掛け作りを続けながら進行した。
15時05分半A受審人は,角島灯台から284度11.4海里の地点に差しかかり,ふとレーダー画面を見上げたとき,グ号の映像が右舷前方1.0海里のところに接近したことを知ったが,停泊船に近付いているだけで無難に航過できると思い,依然として,立ち上がって同船を目視確認して動静監視を十分に行わなかったので,同船が右舷船首38度にあって,方位に明確な変化なく衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず,行きあしを止めるなどしてグ号の進路を避けることなく,同時07分少し前同船が警告信号を吹鳴したものの,これに気付かないまま続航中,15時09分角島灯台から282度11.3海里の地点において,春日丸は,原針路,原速力のまま,その右舷船首がグ号の左舷船首に後方から28度の角度で衝突した。
当時,天候は曇で風力2の南西風が吹き,視程は約8海里あり,潮候はほぼ低潮時であった。
また,グ号は,ロシア連邦の国籍を有する船長B及び一等航海士Cほか同国籍の16人が乗り組み,空倉のまま,船首1.4メートル船尾4.8メートルの喫水をもって,同月21日18時40分熊本県水俣港を発し,新潟港に向かった。
15時00分C一等航海士は,角島灯台から276度12.6海里の地点で,前直の二等航海士と船橋当直を交代し,針路を058度に定め,引き続き機関を毎分160回転の全速力前進にかけ,11.7ノットの速力で,自動操舵により進行した。
定針したとき,C一等航海士は,左舷船首29度2.7海里のところに前路を右方に横切る態勢で南下する春日丸を初認し,15時02分半角島灯台から278度12.2海里の地点に至ったとき,春日丸が方位に明確な変化のないまま1.9海里のところに接近したのを認め,同船が衝突のおそれのある態勢で接近することを知り,VHF無線電話で呼びかけを開始した。
B船長は,九州北西岸及び北岸沖を航行中から在橋して操船指揮に当たり,15時少し前いったん降橋したのち,同時04分角島灯台から279度12.0海里の地点で昇橋したところ,C一等航海士から春日丸の接近とVHF無線電話が同船に通じない旨の報告を受け,同船を左舷船首27度1.4海里のところに視認したのち,同船が方位に明確な変化を見せずに衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め,自ら操船指揮に当たり,注意を喚起するつもりで汽笛による長音1声の吹鳴を命じて続航した。
その後,B船長は,春日丸に避航の気配が見られなかったものの,警告信号を行わず,同船の操舵室内を双眼鏡で確認したところ,人影が見えなかったので危険を感じ,15時07分少し前角島灯台から281度11.6海里の地点に達し,春日丸が左舷船首24度0.6海里まで接近したとき,手動操舵に切り換えるとともに警告信号を行ったものの,同船が避航の様子を見せずに更に接近したが,右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく,警告信号を行いながら春日丸の避航を期待して進行した。
15時08分少し前B船長は,春日丸が至近に迫って危険を感じ,右舵一杯を令し,汽笛を連吹したものの及ばず,グ号は,右回頭中,船首が145度を向いたとき,転舵により速力が約7ノットに落ちた状態で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,グ号は,左舷船首外板の水線上部に擦過傷を生じ,春日丸は,右舷船首上部に損傷を生じたが,のち修理された。
(本件発生に至る事由)
1 春日丸
(1)レーダーの警報リング機能を活用しなかったこと
(2)数日前に見かけた大型船がまた停泊していると思い,床に座り込んで周囲を見通すことができない状況のまま,仕掛け作りに熱中したこと
(3)動静監視を十分に行わなかったこと
(4)グ号の進路を避けなかったこと
2 グ号
衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(原因の考察)
春日丸が,動静監視を十分に行っていたなら,グ号が前路を左方に横切る態勢にあることも,同船と互いに方位に明確な変化なく接近していることにも気付き,その進路を避けることができ,同船との衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,数日前に見かけた大型船がまた停泊していると思い,床に座り込んで周囲を見通すことができない状況のまま,仕掛け作りに熱中し,動静監視を十分に行わなかったこと及びグ号の進路を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
レーダーの警報リング機能を活用しなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,同機能の活用が海難防止に寄与することは多々あるので,装備機器の有効な活用が望まれるところである。
一方,グ号が,春日丸が避航の様子を見せずに更に接近したとき,衝突を避けるための協力動作をとっていたなら,同船との衝突を回避できたと認められる。
したがって,B船長が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,山口県角島西方沖合において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中,漁場から帰港の目的で南下中の春日丸が,動静監視不十分で,前路を左方に横切るグ号の進路を避けなかったことによって発生したが,北東進中のグ号が,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,山口県角島西方沖合において,漁場から岩屋漁港に向けて帰港の目的で南下中,レーダーで右舷前方にグ号の映像を認めた場合,同船との衝突のおそれの有無を判断できるよう,同船を目視確認して動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,数日前に見かけた大型船がまた停泊していると思い,床に座り込んで周囲を見通すことができない状況のまま仕掛け作りに熱中し,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,グ号が前路を左方に横切る態勢にあることも,同船と互いに方位に明確な変化なく接近していることにも気付かず,同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き,春日丸の右舷船首上部を損傷させ,グ号の左舷船首外板の水線上部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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