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平成18年門審第5号
件名

漁船大和丸モーターボート昭栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月9日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(清重隆彦)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:大和丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:昭栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
大和丸・・・球状船首に擦過傷
昭栄丸・・・船尾部大破

原因
大和丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
昭栄丸・・・音響信号不履行,船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は,大和丸が,見張り不十分で,錨泊中の昭栄丸を避けなかったことによって発生したが,昭栄丸が,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年9月11日09時00分
 福岡県玄界島北西方沖合
 (北緯33度42.6分 東経130度10.0分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船大和丸 モーターボート昭栄丸
総トン数 19トン 4.10トン
登録長 18.97メートル 8.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 478キロワット 209キロワット

3 事実の経過
 大和丸は,ふぐかご漁に従事するFRP製漁船で,平成17年1月に一級小型船舶操縦免許証の交付を受けたA受審人ほか1人が乗り組み,操業の目的で,船首0.6メートル船尾2.3メートルの喫水をもって,平成17年9月11日01時30分福岡県玄界漁港を発し,同県玄界島北西方2海里ばかりの漁場に向かった。
 A受審人は,漁場に到着後かご縄の投入と引揚げを繰り返し,08時55分南西方に向かって一連のかご縄を揚げ終え,再投入するため西方1,000メートルばかりのところへ移動することとし,周囲を見回したとき,南西方の長間礁の南側に2隻のプレジャーボートを認めたものの,移動予定方向800メートルばかりのところに昭栄丸が存在したが,同船を見落としたまま,同時57分半西浦岬灯台から325度(真方位,以下同じ。)3.1海里の地点で,針路を275度に定め,10.0ノットの対地速力で,自動操舵により進行した。
 ところで,A受審人は,平素,約10ノットで航走するとき,操舵室で立った姿勢をとっていても,船体構造上,船首方の両舷にわたって約20度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから,船首を左右に振ったり,操舵室内の踏み台の上に立って天井に設けられた開口部から上半身を出すなどして同死角を補う見張りを行っていた。
 定針したときA受審人は,ほぼ正船首方770メートルのところに,船首を北方に向けた昭栄丸を視認でき,その後,同船がほとんど移動しないことから,漂泊中か錨泊中であることが分かり,同船に衝突のおそれがある態勢で接近したが,発進前に,周囲を見回したとき,移動方向に存在する昭栄丸を見落としていたことから,前路に他船はいないものと思い,操舵室右舷に立った姿勢のまま見張りを続け,船首を左右に振るなどして,船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので,同船の存在も,同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
 08時58分半A受審人は,昭栄丸まで460メートルとなったが,依然として死角を補う見張りを十分に行っていなかったので同船に気付かず,転舵するなどして錨泊中の同船を避けることなく,同じ針路及び速力で続航中,09時00分西浦岬灯台から320度3.4海里の地点において,大和丸は,その船首が昭栄丸の右舷船尾部に前方から82度の角度で衝突した。
 当時,天候は曇で風力1の北東風が吹き,潮候は上げ潮の初期であった。
 また,昭栄丸は,最大とう載人員8人の遊漁等に使用されるFRP製プレジャーボートで,平成16年9月に二級小型船舶操縦免許証(5トン限定)の交付を受けたB受審人が単独で乗り組み,友人5人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.1メートル船尾1.1メートルの喫水をもって,同日06時20分福岡県唐泊漁港を発し,玄界島北西方沖合の釣り場に向かった。
 B受審人は,07時00分ごろ水深約30メートルの前示衝突地点付近に至り,重さ70キログラムの鉄製錨を船首から投入して錨索を50メートルばかり延出し,機関を停止して黒色球形形象物を掲げないまま,右舷中央部に黄色の旗を掲げて錨泊し,右舷船尾部で右舷方を向いて魚釣りを始めた。そのとき,150メートルばかり東方のところに停留して操業している大和丸を認め,その後,同船が更に東方へ移動したことを知った。
 08時57分半B受審人は,船首が013度を向いていたとき,右舷船首82度770メートルのところに,自船に向かって接近する大和丸を認め,その後,魚釣りをしながら同船の動静監視を続けた。
 08時58分半B受審人は,大和丸が,その方位に変化なく,衝突のおそれがある態勢のまま460メートルに接近したものの,依然として同船が避航の気配を見せなかったが,先ほど停留していた地点に戻って停止し,操業を再開するものと思い,避航を促すための音響信号を行わず,更に間近に接近したとき,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとらずに錨泊中,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,大和丸は球状船首に擦過傷を生じ,昭栄丸は船尾部を大破して浸水し,来援したC丸に横抱きされて唐泊漁港に引き付けられた。

(海難の原因)
 本件衝突は,福岡県玄界島北西方沖合において,漁場を移動中の大和丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の昭栄丸を避けなかったことによって発生したが,昭栄丸が,避航を促すための音響信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,福岡県玄界島北西方沖合において,漁場を移動する場合,前方に死角を生じていたのであるから,前路に存在する他船を見落とすことのないよう,船首を左右に振るなどして,船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,発進前に,周囲を見回したとき,移動予定方向に存在する昭栄丸を見落としていたことから,前路には他船はいないものと思い,同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の昭栄丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,大和丸の球状船首に擦過傷を生じさせ,昭栄丸の船尾部を大破させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して,同人を戒告する。
 B受審人は,玄界島北西方沖合において,魚釣りをしながら錨泊中,衝突のおそれがある態勢で接近する大和丸を認め,同船が避航の気配を見せなかった場合,機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船が自船の近くで停止して操業を再開するものと思い,衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により,錨泊を続けて同船との衝突を招き,前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図





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