(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月5日06時10分
伊予灘
(北緯33度44.4分 東経132度21.6分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船栄進丸 |
貨物船フミカ |
総トン数 |
4.96トン |
498トン |
全長 |
14.50メートル |
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登録長 |
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68.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
48キロワット |
882キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 栄進丸
栄進丸は,昭和52年12月に愛媛県で進水し,伊予灘において小型機船底引き網漁業に従事する木製漁船で,操業用の甲板機械として,操舵室の左右両側にドラムが,同室前方の前部甲板中央部にドラムのコントロールレバーがそれぞれ設置されていた。
操舵室は,船体中央部に設置されてその前方に視界を妨げる構造物はなく,同室には舵輪,魚群探知器,GPSプロッターが備えられ,全長が12メートルを超えていたものの汽笛が備えられていなかった。
航海速力は,機関を回転数毎分3,100として約11ノットであった。
イ フミカ
フミカは,1986年2月に日本で進水し,日本及び大韓民国の諸港間に就航する鋼製貨物船で,航海計器としてARPA付きのレーダー,GPSプロッターなどを備えていた。
操縦性能は,航海速力が機関を回転数毎分340として約10ノットで,海上試運転成績書写によると,360度回頭するのに要する時間が左旋回時3分31秒,右旋回時3分17秒で,全速力前進中に全速力後進をかけると,船体が停止するまでに1分50秒を要した。
3 A受審人の操業模様について
A受審人が行う底引き網漁は,かけまわし網漁業と呼ばれるもので,目印の樽を海中に投下したのち,反時計回りに魚群を囲むようにして6ノットないし7ノットの速力で,直径20ミリメートルないし26ミリメートルのワイヤーロープ製の曳索を,続いて速力を少し落として漁網を,再び速力を元に戻して曳索を船尾から順次延出しながら前示樽のところに戻り,漁網が海底に沈んだことを確認したのち,左右両舷のドラムを使用して揚網するもので,投網に約6分を,漁網が海底に沈むのに約6分を,揚網に約15分ないし20分をそれぞれ要し,1回の操業に30分ないし40分を必要とするものであった。
揚網中のA受審人と甲板員との役割分担は,同受審人が前部甲板で後方を向いた姿勢をとり,見張りを行いながらドラムを使用して揚網作業にあたり,甲板員が操舵室で船尾方を向き,曳索をたるませないよう速力調整を行っていた。
4 事実の経過
栄進丸は,A受審人と兄である甲板員とが乗り組み,操業の目的で,船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成17年5月5日04時00分愛媛県伊予市の豊田漁港を発し,山口県小水無瀬島南西方沖合3海里の漁場に向かった。
A受審人は,05時ころ前示漁場に至り,漂泊して日出を待ったのち,05時40分操舵室上のマストに漁ろうに従事していることを示す鼓形の形象物を表示して1回目の操業を始めた。
A受審人は,舵輪後方に立って見張りと操舵にあたり,目印となる樽を海中に投下したあと,船尾から順次,曳索,漁網,再び曳索を延出しながら樽のところに戻り,船尾から漁網先端までの長さを1,200メートルとしたところで前部甲板に赴き,操舵室の甲板員に速力調整を行わせて揚網作業を始めた。
06時04分A受審人は,小水無瀬島灯台から215度2.9海里の地点で,針路を343度(真方位,以下同じ。)に定め,機関を微速力前進と停止とを繰り返して0.9ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,手動操舵により進行した。
06時07分少し前A受審人は,小水無瀬島灯台から216度2.85海里の地点に達したとき,左舷正横1,000メートルのところにフミカを視認でき,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,接近する他船が漁ろうに従事している自船の進路を避けてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかったので,このことに気づかず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとることなく,揚網作業を続行した。
A受審人は,06時10分わずか前ふと左舷正横方を見て至近に迫ったフミカを認めたが,何をする間もなく,06時10分小水無瀬島灯台から217度2.8海里の地点において,栄進丸は,原針路,原速力のまま,その左舷船首部に,フミカの船首が後方から85度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は上げ潮の末期であった。
また,フミカは,一等航海士Bほか7人が乗り組み,鋼材1,541トンを載せ,船首3.2メートル船尾4.7メートルの喫水をもって,同月4日07時05分を大韓民国ポハン港を発し,瀬戸内海を経由する予定で名古屋港に向かった。
B一等航海士は,翌5日03時35分山口県祝島南方沖合で昇橋して単独の船橋当直に就き,推薦航路線の右側約1,500メートルのところを同航路線に沿って伊予灘を東行し,05時19分半八島灯台から182度2.0海里の地点で,針路を073度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で進行した。
B一等航海士は,06時04分小水無瀬島灯台から225度3.7海里の地点に達したとき,正船首わずか右方1.0海里のところに,北方に向首した栄進丸を初めて視認し,間もなく船型や速力が遅いことなどから,同船が底引き網漁に従事していることを認め,06時05分少し前同灯台から224度3.5海里の地点に差し掛かり,同船が正船首1,600メートルとなったとき,その船首方を航行するつもりで針路を068度に転じ,同船を右舷船首方に見る態勢で続航した。
06時07分少し前B一等航海士は,小水無瀬島灯台から222度3.2海里の地点に差し掛かったとき,栄進丸が右舷船首5度1,000メートルとなり,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが,動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かず,その進路を避けることなく進行し,フミカは,原針路,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,栄進丸は,船首部に破口,船体に歪みなどを生じ,僚船によって豊田漁港に引き付けられたが,のち廃船処理され,フミカは,船首外板に擦過傷を生じた。また,A受審人が,衝突の衝撃で海中に転落し,栄進丸の甲板員に救助されたが,頚椎捻挫,外傷性頚椎症及び腰椎捻挫等を負った。
(航法の適用)
本件は,伊予灘において,漁ろうに従事していることを示す鼓形の形象物を表示して北上しながら底引き網漁に従事していた栄進丸と,東行する動力船であるフミカとが横切りの態勢で衝突したもので,当該海域は海上交通安全法が適用される海域であるが,同法に適用される航法規定がないので,海上衝突予防法第18条第1項によって律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 栄進丸
(1)全長が12メートルを超えるが汽笛を備えていなかったこと
(2)伊予灘の推薦航路線付近で漁ろうに従事していたこと
(3)見張りを十分に行わなかったこと
(4)警告信号を行わなかったこと
(5)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
2 フミカ
(1)動静監視を十分に行わなかったこと
(2)栄進丸の進路を避けなかったこと
(原因の考察)
本件は,栄進丸が,見張りを十分に行っていれば,衝突のおそれがある態勢で接近するフミカに気付くことができ,警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとって衝突を回避できたものと認められる。
したがって,A受審人が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
全長が12メートルを超えるが汽笛を備えていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当の因果関係があるとは認められない。しかしながら,栄進丸に汽笛を装備することは海上衝突予防法によって義務づけられていることであり,早急に改善されるべき事項である。
伊予灘の推薦航路線付近で漁ろうに従事していたことは,本件発生の原因とならない。
一方,フミカが,動静監視を十分に行っていれば,栄進丸と衝突のおそれがある態勢で接近することに気付き,同船の進路を避けて衝突を回避できたものと認められる。
したがって,フミカが,動静監視を十分に行わず,栄進丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,伊予灘において,東行するフミカが,動静監視不十分で,漁ろうに従事している栄進丸の進路を避けなかったことによって発生したが,栄進丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,伊予灘において,所定の形象物を表示して底引き網漁に従事する場合,接近する他船を見落とすことがないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同受審人は,接近する他船が漁ろうに従事している自船の進路を避けてくれるものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,衝突のおそれがある態勢で接近するフミカに気付かず,警告信号を行わず,間近に接近したとき,機関を停止するなど,衝突を避けるための協力動作をとらないで同船との衝突を招き,栄進丸の船首部外板に破口等を,フミカの船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ,自らも頚椎捻挫等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図1
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参考図2
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