(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年5月14日08時32分
瀬戸内海 伊予灘南部
(北緯33度32.5分 東経132度15.4分)
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船幸裕丸 |
漁船幸成丸 |
総トン数 |
4.9トン |
4.9トン |
登録長 |
11.78メートル |
11.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
209キロワット |
46キロワット |
3 事実の経過
幸裕丸は,操舵室を船体中央部に配置し,同室にGPSプロッタ及び魚群探知機,モーターホーンを装備するFRP製遊漁船で,A受審人(小型船舶操縦士免許を取得していたところ,平成17年5月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新した。)が1人で乗り組み,遊漁の目的で釣客4人を乗せ,船首0.6メートル船尾1.4メートルの喫水をもって,平成17年5月14日06時00分愛媛県伊方町大江を発し,襖鼻灯台北方4海里ばかりの釣場に向かった。
07時00分A受審人は,襖鼻灯台から358度(真方位,以下同じ。)4.2海里の地点の釣場に至り,機関を停止し,錨泊中の形象物を表示することなく,重さ20キログラムの錨を船首から水深56メートルの海中に投入し,太さ15ミリメートルの化学繊維製錨索を130メートル延出し,釣客とともに自らもあじ釣りを開始した。
08時25分A受審人は,船首が北東風にたって050度に向いているとき,右舷正横1海里ばかりのところに北上する幸成丸を初認した。
08時29分A受審人は,幸成丸が右舷正横0.4海里となり,その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,幸成丸の左舷側が見えていたことから同船は自船の船首方を替わるものと思い,その後その動静監視を十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
A受審人は,接近する幸成丸に対して避航を促す警告信号を行わず,同船が更に接近しても機関を始動して衝突を避けるための措置をとらないで釣りを続け,08時32分少し前右舷正横至近に迫った幸成丸を認めて大声を出したが効なく,08時32分襖鼻灯台から358度4.2海里の錨泊地点において,050度に向首した幸裕丸の右舷側中央部に,幸成丸の船首部が直角に衝突した。
当時,天候は晴で風力4の北東風が吹き,視界は良好であった。
また,幸成丸は,操舵室を船体中央部に配置し,同室後部にネットローラー及び揚網用やぐらを設置し,操舵室内にレーダー,GPSプロッタ及び魚群探知機を装備する底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,B受審人(小型船舶操縦士免許を取得していたところ,平成16年9月一級及び特殊小型船舶操縦士免許に更新した。)が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.05メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,14日07時50分伊方町島津漁港を発し,伊予灘八島南方の漁場に向かった。
08時09分B受審人は,襖鼻灯台から044度2.8海里の地点で,針路を320度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけて8.0ノットの対地速力で,北東風により4度左方に圧流されながら進行した。
定針したのちB受審人は,前路に他船を見かけなかったことから,操舵室から出て船尾甲板に腰を下ろし,前日の操業で損傷した漁網の修理を始めた。
08時29分B受審人は,襖鼻灯台から001度3.9海里の地点に達したとき,正船首0.4海里のところに,錨泊していることを示す形象物を表示していなかったものの,船首を風上に向けて停止していることから容易に錨泊中であると認められる状態の幸裕丸を視認することができ,その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,漁網の修理に気をとられて見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かず,幸裕丸を避けないまま続航し,幸成丸は,原針路,原速力で,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,幸裕丸は右舷側中央部に破口を生じて機関室に浸水し,幸成丸は船首部に亀裂を生じたが,のちいずれも修理され,幸裕丸の釣客1人が頚椎捻挫等を負った。
(海難の原因)
本件衝突は,伊予灘南部において,漁場に向けて北上する幸成丸が,見張り不十分で,錨泊中の幸裕丸を避けなかったことによって発生したが,幸裕丸が,動静監視不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は,伊予灘南部において,漁場に向けて北上する場合,前路で錨泊中の幸裕丸を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,漁網の修理に気をとられて見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,錨泊中の同船に気付かず,幸裕丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き,幸裕丸の右舷側中央部に破口を,幸成丸の船首部に亀裂をそれぞれ生じさせ,幸裕丸の釣客1人に頚椎捻挫等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は,伊予灘南部において,錨泊中に接近する幸成丸を視認した場合,衝突のおそれの有無を判断できるよう,その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,同船の左舷側が見えていたことから幸成丸は自船の船首方を替わるものと思い,その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,幸成丸が衝突のおそれがある態勢で接近することに気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための措置もとらないで同船との衝突を招き,前示の損傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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