日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2006年度(平成18年度) >  衝突事件一覧 >  事件





平成17年広審第120号
件名

旅客船ふなだ漁船蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月7日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,黒田 均,島 友二郎)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:ふなだ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:蛭子丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ふなだ・・・右舷側船首部に凹損及び右舷側に擦過傷
蛭子丸・・・左舷側前部に破口など 船長が後頭部打撲及び頚椎捻挫など

原因
ふなだ・・・見張り不十分,横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
蛭子丸・・・見張り不十分,警告信号不履行,横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,ふなだが,見張り不十分で,前路を左方に横切る蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが,蛭子丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月21日21時02分
 瀬戸内海 来島海峡
 (北緯34度07.0分 東経133度00.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 旅客船ふなだ 漁船蛭子丸
総トン数 19トン 4.9トン
全長 15.74メートル 20.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 809キロワット  
漁船法馬力数   15
(2)設備及び性能等
ア ふなだ
 ふなだは,平成3年9月に進水し,航行区域を平水区域に定め,専ら海上タクシーとして運航される最大搭載人員82人の2機2軸のFRP製旅客船で,船首部に操舵室を配置し,同室にレーダー及び自動操舵装置を装備していた。
 また,360度旋回に要する時間と旋回直径は,左旋回したときは37秒及び35メートル,右旋回したときは32秒及び30メートルで,全速力前進中に後進を発令してから船体が停止するまでの時間は7秒で,そのときの航走距離は7メートルであった。
イ 蛭子丸
 蛭子丸は,昭和63年11月に進水した底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央部に操舵室及び同室後方に揚網用ローラーを設置し,操舵室にレーダー,GPSプロッタ,魚群探知機,自動操舵装置及びモーターホーンを装備していた。
 また,360度旋回に要する直径は,左右旋回とも全長の約1.5倍であった。

3 事実の経過
 ふなだは,A受審人ほか1人が乗り組み,旅客4人を乗せ,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成17年4月21日21時00分愛媛県下田水(しただみ)漁港を発し,同県今治港に向かった。
 A受審人は,発航してすぐヒナイ鼻導灯(後灯)(以下「後灯」という。)から111度(真方位,以下同じ。)350メートルの地点で,針路を来島海峡海上交通センターの灯火を正船首少し右に見る208度に定め,機関を全速力前進にかけて20.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で,航行中の動力船であることを示す法定灯火を表示して手動操舵によって進行した。
 21時00分半A受審人は,後灯から155度430メートルの地点に達したとき,右舷船首25度0.5海里のところに東行する蛭子丸の白灯及び紅灯を視認することができ,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,来島海峡海上交通センターの灯火に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かなかった。
 A受審人は,早期に右転するなど蛭子丸の進路を避けないまま続航中,21時02分後灯から191度1,220メートルの地点において,ふなだは,原針路,原速力のまま,その船首が蛭子丸の左舷側前部に後方から31度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力4の西風が吹き,視界は良好で,潮候はほぼ高潮時であった。
 衝突後,A受審人は,蛭子丸の損傷が軽くて沈没のおそれがないようなので,旅客を早く運ぼうと思ってその場に留まることなく目的地に向かい,翌22日海上保安部から連絡を受けて同部に出頭した。
 また,蛭子丸は,B受審人が1人で乗り組み,底びき網漁の目的で,船首0.1メートル船尾0.4メートルの喫水をもって,21日19時50分今治港を発し,安芸灘東部漁場に向かう途中,来島ノ瀬戸を経て小島西方に至ったとき,西寄りの風波が高いことから同漁場での操業を取りやめ,武志島と中渡島の間及び東水道を経由して愛媛県大島東方の漁場に向かうこととした。
 20時58分B受審人は,後灯から241度1,250メートルの地点にあたる来島海峡第2大橋下で,針路を大島西岸の正味集落の街灯に向首する121度に定め,機関を全速力前進にかけて9.0ノットの速力で,航行中の動力船であることを示す法定灯火を表示して手動操舵によって進行した。
 21時00分半B受審人は,後灯から209度1,070メートルの地点に達したとき,左舷船首68度0.5海里のところに南下するふなだの白灯及び緑灯を視認することができ,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,正味集落の街灯に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かないまま続航した。
 こうしてB受審人は,接近するふなだに対して警告信号を行わず,21時01分半同船が間近に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく,舵輪から手を放して船尾甲板に広げてあった袋網をネットローラーに巻き込む作業を開始したところ,蛭子丸は,外力の影響で右舵がとられた状態となってゆっくり右回頭しながら進行中,船首を177度に向け,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ふなだは,右舷側船首部に凹損及び右舷側に擦過傷を,蛭子丸は,左舷側前部に破口などをそれぞれ生じたが,のちいずれも修理され,B受審人が後頭部打撲及び頚椎捻挫などを負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,夜間,可航幅が約600メートルの来島海峡東水道において,南下するふなだと東行する蛭子丸がそれぞれ航行中の動力船である法定灯火を表示し,衝突のおそれがある態勢で接近して衝突したものである。衝突1分半前には,ふなだは,右舷船首25度0.5海里のところに存在する蛭子丸を,蛭子丸は,左舷船首68度0.5海里のところに存在するふなだをそれぞれ視認することができ,両船の操縦性能から判断して,ふなだが避航する義務を,蛭子丸が針路及び速力を保持する義務を履行するのに必要な時間的及び距離的余裕が十分にあったものと認められるから,海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 ふなだ
(1)来島海峡海上交通センターの灯火に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)蛭子丸の進路を避けなかったこと

2 蛭子丸
(1)正味集落の街灯に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと
(4)衝突30秒くらい前から網の巻き込み作業を行ったこと

(原因の考察)
 ふなだは,周囲の見張りを十分に行っていれば,蛭子丸の存在に気付き,その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況が分かり,右転するなどして蛭子丸の進路を避けることにより,本件発生は防止できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,来島海峡海上交通センターの灯火に気をとられて周囲の見張りを十分に行わず,蛭子丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,蛭子丸は,周囲の見張りを十分に行っていれば,ふなだの存在に気付き,その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する状況が分かり,ふなだに対して警告信号を行い,同船が間近に接近したとき機関を後進とするなど衝突を避けるための協力動作をとることにより,本件発生は防止できたものと認められる。
 したがって,B受審人が,正味集落の街灯に気をとられて周囲の見張りを十分に行わず,警告信号を行うことも,間近に接近したときに衝突を避けるための協力動作もとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 B受審人が,衝突30秒くらい前から網の巻き込み作業を行ったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点から,操船に専念するよう是正すべき事項である。

(海難の原因)
 本件衝突は,夜間,来島海峡東水道において,両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中,南下するふなだが,見張り不十分で,前路を左方に横切る蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが,東行する蛭子丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,単独で操船に当たって来島海峡東水道を南下する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首目標である来島海峡海上交通センターの灯火に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する蛭子丸に気付かず,その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き,ふなだの右舷側船首部に凹損及び右舷側に擦過傷を,蛭子丸の左舷側前部に破口などをそれぞれ生じさせ,B受審人が後頭部打撲及び頚椎捻挫などを負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,夜間,単独で操船に当たって来島海峡東水道を東行する場合,接近する他船を見落とさないよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,船首目標である正味集落の街灯に気をとられて周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するふなだに気付かず,警告信号を行うことも,機関を後進とするなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:22KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION