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平成17年横審第100号
件名

漁船昭宝丸漁船富丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月29日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(古城達也,田邉行夫,西田克史)

理事官
供田仁男

受審人
A 職名:昭宝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:富丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
昭宝丸・・・舵頭材及び推進器翼に曲損
富丸・・・右舷後部舷縁に割損及び船外機に破損 船長が右大腿部切断の重傷

原因
昭宝丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は,昭宝丸が,見張り不十分で,錨泊中の富丸を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年10月12日13時05分
 愛知県佐久島漁港
 (北緯34度42.8分 東経137度02.8分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船昭宝丸 漁船富丸
総トン数 2.46トン 0.6トン
全長 10.35メートル 6.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
漁船法馬力数 70 30
(2)設備及び性能等
ア 昭宝丸
 昭宝丸は,昭和57年4月に進水したFRP製漁船で,愛知県佐久島周辺での素もぐりによる潜水漁業の目的で使用され,船体中央よりやや後方の操舵室には,旋回窓,磁気コンパス,主機操縦装置,GPSプロッターが備えられていた。
 操舵は,通常,船尾甲板に備えられた舵柄(だへい)で行っていたが,遠方へ航行する際は,操舵室内の舵輪から滑車を介して船尾甲板に導かれた細索を舵柄に繋ぐことにより,同室内で操舵することができた。
イ 富丸
 富丸は,昭和60年10月に進水した無蓋のFRP製漁船で,手で綱を引いて起動する方式の船外機を船尾に装備し,魚群探知機が備えられていたが,音響信号設備はなく,専ら佐久島周辺で釣りの目的で使用されていた。

3 事実の経過
 昭宝丸は,A受審人が船長として1人で乗り組み,歯科医院に赴く目的で,船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年10月12日13時02分愛知県佐久島漁港太井ノ浦の係留地を発し,同県西幡豆漁港に向かった。
 A受審人は,操舵室後方の船尾甲板に立ち,同室の屋根越しに前方を見る姿勢で,舵柄を膝で操作し,13時03分佐久島港太井ノ浦灯標(以下「太井ノ浦灯標」という。)から037.5度(真方位,以下同じ。)510メートルの地点に達し,太井ノ浦の南側防波堤(以下「新堤」という。)西端を左舷側25メートル隔てて航過したとき,針路を200度に定め,機関を微速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で,手動操舵により進行した。
 針路を定めたときA受審人は,左舷船首3度560メートルのところに所定の形象物を掲げて錨泊中の富丸を視認でき,その後同船の船首方近くを航過する態勢であったが,一瞥(いちべつ)しただけで前路に他船はいないものと思い,見張りを十分に行っていなかったので,同船の存在に気付かないまま,操舵室後方で船尾方を向き,舵輪から導かれた細索を舵柄と繋ぐ作業を始め,同じ針路,速力で続航した。
 A受審人は,舵柄と舵輪を繋ぐ作業を終え,舵輪で操舵するつもりで操舵室に入り,13時04分半太井ノ浦灯標から082度170メートルの地点に達したとき,富丸まで150メートルに接近し,大島と筒島に囲まれた太井ノ浦の外に出たことから,折からの東南東の潮流により16度左方に圧流され,次第に同船に向首するようになり衝突のおそれがある態勢で接近したが,依然,見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,同船を避けることなく進行中,13時05分太井ノ浦灯標から130度200メートルの地点において,昭宝丸は,原針路,原速力のまま,その船首が富丸の右舷後部と直角に衝突した。
 当時,天候は曇で風はほとんどなく,視界は良好で,筒島付近海域には流向110度流程3.0ノットの潮流があった。
 また,富丸は,B受審人が船長として1人で乗り組み,同乗者1人を乗せ,釣りの目的で,船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって,同日08時00分佐久島漁港太井ノ浦を発し,筒島の北西方沖合で釣りをしたのち,12時05分前示衝突地点付近に至って機関を停止し,直径20ミリメートルの化学繊維製錨索に繋いだ重さ10キログラムの左舷錨及び直径12ミリメートルの同索に繋いだ重さ7.5キログラムの右舷錨を水深8メートルの海底に投じ,両錨索をそれぞれ52メートル延出して船首部に係止し,所定の形象物のほか注意喚起の目的で赤色方形旗を右舷船首部に掲げて錨泊し,釣りを始めた。
 13時03分B受審人は,290度を向首しているとき,右舷正横付近560メートルに新堤の西端を航過する昭宝丸を初認し,動静を監視したところ,同船が自船の船首方を30メートルばかり隔てて航過する態勢で接近することを認めた。
 13時04分半少し前B受審人は,昭宝丸が150メートルに接近したとき,同船が折からの潮流の影響を受けて圧流され,次第に自船に向首するようになり衝突のおそれがある態勢で接近することを認め,同乗者と立ち上がって大声を出しながら同船に対して赤色方形旗が付いた旗竿を振って注意喚起信号を行ったものの,昭宝丸が自船を避けないまま至近に迫り,衝突の危険を感じて,同乗者と重なるように甲板に身を伏せた直後,富丸は,290度を向首したまま,前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,昭宝丸は,舵頭(だとう)材及び推進器に曲損を生じ,富丸は,右舷後部舷縁に割損及び船外機に破損などをそれぞれ生じ,B受審人が昭宝丸の推進器翼に接触して,右大腿部切断の重傷を負った。

(航法の適用)
 本件は,佐久島漁港において,航行中の昭宝丸と錨泊中の富丸とが衝突したものである。
 佐久島漁港は,港則法が適用されず,海上衝突予防法によることとなるが,適用する航法の規定がないので,海上衝突予防法第38条及び第39条を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 昭宝丸
(1)前路に他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)錨泊中の富丸を避けなかったこと

2 富丸
 衝突を避けるための措置をとらなかったこと

3 その他
 筒島付近海域に流向110度流程3.0ノットの潮流があったこと

(原因の考察)
 昭宝丸が,見張りを十分に行っていたら,前路で錨泊中の富丸を視認して避航することは容易であり,本件を回避できたと認められるから,A受審人が,前路に他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと,錨泊中の富丸を避けなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 一方,筒島寄りの通常他船が航行しない海域において,所定の形象物のほか赤色方形旗を掲げて錨泊中の富丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生に至る過程において関与した事実であるが,3.0ノットの潮流のある中,水深8メートルの海底に錨索を52メートル延出して双錨泊していたこと,昭宝丸の動静を監視していたところ,当初自船の船首方を航過すると思われた同船が衝突の30秒前150メートルに接近したのち,折からの潮流の影響を受けて左方に圧流され,次第に自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近するようになったこと及び船外機は手で綱を引いて起動する方式のため起動に時間を要することから,衝突のおそれを判断したうえで衝突を避けるための措置をとるための時間的な余裕はなかったものと認められる。したがって,富丸が,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因とならない。
 筒島付近海域に流向110度流程3.0ノットの潮流があったことは,本件発生に関与があったものの,原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,愛知県佐久島漁港において,昭宝丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中の富丸を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,愛知県佐久島漁港において,係留地を発して港外に向けて航行する場合,所定の形象物のほか赤色方形旗を掲げて前路で錨泊中の富丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,一瞥しただけで前路に他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で錨泊中の富丸に気付かず,同船を避けないまま進行して衝突を招き,昭宝丸の舵頭材及び推進器に曲損を,富丸の右舷後部舷縁に割損及び船外機に破損などをそれぞれ生じさせ,富丸船長に右大腿部切断の重傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月15日停止する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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