(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年12月24日16時40分
愛知県三河湾日間賀島東方沖合
(北緯34度42.4分 東経137度01.3分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船日蓮丸 |
漁船朝日丸 |
総トン数 |
14トン |
6.60トン |
登録長 |
17.43メートル |
11.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
400キロワット |
127キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 日蓮丸
日蓮丸は,昭和62年9月に進水した,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央に操舵室が設けられ,同室には,右舷側に舵輪,その左下に主機計器盤,レーダー1台及びGPSプロッター等がそれぞれ装備され,船首部に視界を妨げる構造物はなく操舵位置からの見通しは良好であった。
イ 朝日丸
朝日丸は,昭和54年6月に進水した,小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で,船体中央よりやや後方に操舵室が設けられ,レーダー1台及びGPSプロッター等のほか音響信号設備として電子ホーンが装備されていた。
3 事実の経過
日蓮丸は,A受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって,平成16年12月24日16時20分愛知県一色漁港を発し,渥美半島沖合の漁場に向かった。
A受審人は,三河湾を日間賀島とその東方の大磯との間に向け同業船とともに南下し,多数の漁船が操業する尾張大磯灯標(以下「大磯灯標」という。)西方の狭い水道を,右舷船首方に自船が追い越す態勢の同業船を見ながら通過したのち,16時38分半わずか過ぎ大磯灯標から227.5度(真方位,以下同じ。)310メートルの地点で,針路を147度に定めて自動操舵とし,機関を全速力前進にかけ,17.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
定針したときA受審人は,朝日丸を正船首740メートルに視認することができ,その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが,広い海域に出て安心したうえ,右舷方の前示同業船から離れる針路としたことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったので朝日丸に気付かず,同船を避けることなく続航した。
A受審人は,舵輪左下方の主機計器盤を見て運転状況を確認しながら同じ針路,速力で進行中,16時40分大磯灯標から168度850メートルの地点において,日蓮丸は,原針路,原速力のまま,その船首部が朝日丸の右舷船尾部に90度の角度で衝突した。
当時,天候は晴で風力3の北西風が吹き,潮候は下げ潮の初期で,日没時刻は16時47分であった。
また,朝日丸は,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.30メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,12月24日13時00分一色漁港を発し,日間賀島東方沖合の漁場に向かった。
13時30分B受審人は,漁場に到着し,14時ごろからけた網による底びき網漁を始め,16時25分前示衝突地点付近に至って曳網(えいもう)を終え,漁獲物の選別作業を行うこととし,網の末端部を船尾甲板に引き揚げ,残りの部分を船尾から海中に入れ,極微速力でしか前進できず,また,後進することができない状態で漂泊を始めた。
B受審人は,16時38分半わずか過ぎ船首が057度に向いているとき,左舷正横740メートルのところに日蓮丸を視認することができ,その後自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが,多数の漁船が自船を避けて南下して行ったことから,南下する漁船は自船を避けて行くものと思い,見張りを十分に行うことなく,船尾甲板で漁獲物の選別作業に専念して日蓮丸に気付かず,警告信号を行わなかった。
B受審人は,日蓮丸が更に接近しても機関を早期に使用して移動するなど,衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続け,16時39分半わずか過ぎ左舷正横250メートルに迫る同船をようやく認めて危険を感じ,後進できないため右に反転して避けようと,急ぎ操舵室に戻り機関を極微速力前進にかけ右舵一杯をとり,航海灯などのスイッチを入れ電子ホーンを鳴らしたものの及ばず,朝日丸は,船首が237度に向いて1ノットばかりの速力となったとき,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,日蓮丸は,船首部に擦過傷を生じたが,のち修理され,朝日丸は,右舷船尾船側外板及び上甲板に破口を生じて浸水し沈没したが,のち引き揚げられて廃船とされ,B受審人は,日蓮丸に救助された。
(航法の適用)
本件は,愛知県三河湾日間賀島東方沖合において,航行中の日蓮丸と漂泊中の朝日丸とが衝突したものであるが,以下適用される航法について検討する。
衝突地点は港域外で海上交通安全法適用海域内であるが,同法には本件を律する航法がないことから海上衝突予防法が適用され,航行中の船舶と漂泊中の船舶に関する航法は定められていないので,同法第38条及び第39条の船員の常務で律するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 日蓮丸
(1)前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)朝日丸を避けなかったこと
2 朝日丸
(1)南下する漁船は自船を避けて行くものと思い,見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
本件は,日蓮丸が,見張りを十分に行っていれば,朝日丸を避けることができたものと認められる。
ところで,A受審人は,狭い水道から広い海域に出て安心したうえ,自船が追い越す態勢にある右舷方の同業船から離れる針路としたことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを行うことなく舵輪左下方の主機計器盤を見て運転状況を確認していたことにより,前路で漂泊中の朝日丸に気付かなかったものである。
したがって,A受審人が,見張りを十分に行わなかったこと及び朝日丸を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
一方,朝日丸は,漁獲物の選別作業のため船尾から網を海中に入れており,機関を使用して衝突を避けるための措置をとる際に抵抗となって通常よりも時間を要する状況であったのであるから,このことを考慮し,自船に向首して接近する日蓮丸を早期に認める必要があった。
B受審人は,多数の漁船が自船を避けて南下して行ったことから,南下する漁船は自船を避けて行くものと思い,見張りを行うことなく船尾甲板で漁獲物の選別作業に専念して日蓮丸に気付かなかったものである。早期に同船を認めていれば,警告信号を行うことも,機関を使用して移動することもでき,衝突を避けることができたものと認められる。
したがって,B受審人が,見張りを十分に行わなかったこと,警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
(海難の原因)
本件衝突は,愛知県三河湾日間賀島東方沖合において,航行中の日蓮丸が,見張り不十分で,漂泊中の朝日丸を避けなかったことによって発生したが,朝日丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は,愛知県三河湾日間賀島東方沖合において,漁場に向け航行する場合,前路で漂泊中の朝日丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,狭い水道から広い海域に出たうえ,自船が追い越す態勢の右舷方の同業船から離れる針路としたことから,前路に支障となる他船はいないものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,前路で漂泊中の朝日丸に気付かず,同船を避けずに進行して衝突を招き,日蓮丸の船首部に擦過傷を生じさせ,朝日丸の右舷船尾船側外板等に破口を生じさせ,沈没して廃船となるに至らせた。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は,愛知県三河湾日間賀島東方沖合において,漂泊し,漁獲物の選別作業を行う場合,自船に向首し接近する日蓮丸を見落とすことのないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,多数の漁船が自船を避けて南下して行ったことから,南下する漁船は自船を避けて行くものと思い,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,日蓮丸に気付かず,警告信号を行わず,衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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