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平成17年横審第108号
件名

モーターボートラヴィエンローズ漁船太郎八丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月14日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒岩 貢,岩渕三穂,濱本 宏)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:ラヴィエンローズ船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:太郎八丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b,c,d

損害
ラヴィエンローズ・・・左舷側後部外板に破口,キャビン側壁に擦過傷等 船長が右大腿部打撲,同乗者が頭部挫創,右肋骨及び右鎖骨骨折並びに低酸素欠症
太郎八丸・・・左舷船首外板に破口,左舷船底外板に亀裂等

原因
太郎八丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ラヴィエンローズ・・・注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は,太郎八丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のラヴィエンローズを避けなかったことによって発生したが,ラヴィエンローズが,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年6月18日14時30分
 神奈川県三浦半島南岸沖合
 (北緯35度07.9分 東経139度40.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートラヴィエンローズ 漁船太郎八丸
総トン数 7.9トン 4.4トン
全長 10.47メートル  
登録長   9.78メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 250キロワット  
漁船法馬力数   80
(2)設備及び性能等
ア ラヴィエンローズ
 ラヴィエンローズ(以下「ラ号」という。)は,平成6年9月に第1回定期検査を受けた2機2軸のFRP製プレジャーモーターボートで,エアーホーンを備え,船体中央部やや後方の操舵室に,レーダー,GPSプロッター,測深儀を兼ねた魚群探知機,無線機などが設置され,同室天井部にも操舵及び主機遠隔操縦装置が取り付けられていた。操舵室前方甲板下はキャビンとなっており,同室後方は,上部にオーニングが張られたデッキとなっていた。
イ 太郎八丸
 太郎八丸は,平成2年9月に進水したさば漁等に従事するFRP製漁船で,モーターホーンを備え,船体中央部やや後方の操舵室にレーダー,GPSプロッター,魚群探知機等が設置され,機関回転数毎分(以下,機関回転数毎分を「回転」という。)
 1,500以上に上げた場合,船首が浮上して正船首左右20度ばかりが死角となったことから,船首を左右に振るとか,操舵室天井の開口部から頭を出して操船するなどの死角を補う見張りを行う必要があった。

3 事実の経過
 ラ号は,A受審人が1人で乗り組み,友人1人を乗せ,魚釣りの目的で,船首0.7メートル船尾0.9メートルの喫水をもって,平成17年6月18日07時10分東京都葛飾区の係留地を発し,三浦半島南岸沖合の釣り場に向かった。
 10時少し前A受審人は,三浦半島南岸の江奈湾湾口沖合1,000メートル付近の釣り場に到着し,剱埼灯台から219.5度1,450メートルの水深31メートルの地点において,船首から重量5キログラムの錨を投じて錨鎖50メートルを延出し,法定の形象物を掲げないまま錨泊を開始した。
 ところで,江奈湾は,奥行き約800メートルの南に開いた湾で,湾内から湾口にかけての陸岸沿いには暗岩などの岩礁が拡延しているため,湾口の可航幅は約150メートルで,また,湾口沖合には,いずれも周辺に浅瀬が広がる横瀬島と江奈島が存在し,さらに横瀬島の南側には定置網も敷設されていることから,江奈湾を出入港するほとんどの船舶は,横瀬島と江奈島との間の可航幅約300メートルの水路を南下または北上することとなり,事情を知る地元の漁船,遊漁船等は,同水路南側に当たるラ号の錨地付近での錨泊又は停留を避けていた。
 14時26分A受審人は,船首が045度(真方位,以下同じ。)を向首しているとき,左舷船首50度1,000メートル付近を南下する太郎八丸を認め,14時28分わずか過ぎ同方向660メートルとなった同船が自船に向首し,衝突のおそれのある態勢で接近していることを認めたが,接近すれば避けてくれるものと思い,注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けた。
 14時29分半A受審人は,150メートルばかりに接近した太郎八丸が船首を左方に振り,自船の船首方を通航する態勢となった直後,再び自船に向首したことから不安を感じ,同乗の友人とともに大声を上げ,手を振って避航を促したが及ばず,14時30分剱埼灯台から219.5度1,450メートルの地点において,ラ号は,045度を向首したその左舷側中央部に,太郎八丸の船首が前方から50度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候はほぼ高潮時であった。
 また,太郎八丸は,B受審人ほか1人が乗り組み,機関整備後の試運転の目的で,船首0.15メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,同日14時23分少し過ぎ江奈湾内の係留地を発し,沖合に向かった。
 14時26分B受審人は,剱埼灯台から263.5度1,000メートルの地点に達したとき,針路を175度に定め,機関を700回転の微速力前進にかけ,5.0ノット(対地速力,以下同じ。)の速力で手動操舵により進行し,14時28分わずか過ぎ同灯台から246.5度1,070メートルの地点に至り,1,500回転の半速力前進として速力9.5ノットに増速し,船首が浮上した状態で続航した。
 このころB受審人は,正船首660メートルにラ号を認めることができ,形象物は掲げていなかったものの,動いている様子がないこと,船首から延びる黒い錨鎖などから同船が錨泊中であることが分かる状況であり,その後衝突のおそれのある態勢で接近したが,平素,江奈湾湾口付近で錨泊又は停留する船舶を見なかったこと,土曜日であったため出漁する漁船がいなかったこと,遊漁船の沖上がりの時刻を過ぎていたことなどから,前路に他船はいないものと思い,整備を終えたばかりの機関の調子を見極めるため甲板員とともに煙突から出る煙の色に注目し,船首を振るなりして前路の見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,ラ号を避けないまま進行した。
 14時29分B受審人は,剱埼灯台から234.5度1,260メートルの地点において,2,100回転の全速力前進として14.5ノットの速力とし,14時29分半念のため船首を左方に振って前路を確認したものの,他船はいないものと思い込んでいたことから,ラ号に気付かないで続航中,太郎八丸は,原針路,原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果,ラ号は左舷側後部に破口,キャビン左舷側壁に擦過傷等を,太郎八丸は,左舷船首外板に破口,左舷船底外板に亀裂等をそれぞれ生じたが,太郎八丸は,のち修理された。また,A受審人が右大腿打撲,溺水などを,ラ号の同乗者が頭部挫創,右肋骨及び右鎖骨骨折並びに溺水による低酸素欠症をそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件衝突は,錨泊中のラ号に航行中の太郎八丸が衝突したもので,海上衝突予防法第38条,第39条の船員の常務により律するのが相当である。

(本件発生に至る事由)

1 ラ号
(1)江奈湾湾口沖合で錨泊していたこと
(2)錨泊していることを示す形象物を掲げていなかったこと
(3)機関をかけて移動するなどの衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(4)注意喚起信号を行わなかったこと

2 太郎八丸
(1)1,500回転以上になると正船首左右20度ばかりが死角となったこと
(2)前路に他船はいないと思ったこと
(3)見張りを十分に行わなかったこと
(4)ラ号を避けなかったこと

(原因の考察)
 ラ号が,接近する太郎八丸に対し,注意喚起信号を行っていたら,同船がラ号への接近に気付いてラ号を避け,本件発生を防止できたものと認められる。
 従って,A受審人が,太郎八丸に対し,注意喚起信号を行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 ラ号が,衝突を避けるための措置をとらなかったことは,錨泊中であって機関をかけても移動できる距離が限られていること,太郎八丸がどちらに転針するか定かでないことなどを考慮すると,同措置をとること自体難しく,本件発生の原因とするまでもない。
 ラ号が,江奈湾湾口沖合で錨泊したこと,錨泊中であることを示す形象物を掲げていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,海難防止の観点からは是正すべき事項である。
 太郎八丸が,見張りを十分に行っていたら,ラ号への接近に気付き,同船を避けることができ,本件発生を防止できたものと認められる。
 従って,B受審人が,前路に他船はいないと思い,見張りを十分に行わなかったこと,ラ号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 太郎八丸が,船首方に死角のある状態で航行したことは,船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行っていれば,前路の他船に気付いて同船を避けることができると認められるので,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件衝突は,三浦半島南岸沖合において,南下中の太郎八丸が,見張り不十分で,前路で錨泊中のラ号を避けなかったことによって発生したが,ラ号が,注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 B受審人は,三浦半島南岸沖合において,機関整備後の試運転のため南下する場合,前路で錨泊中のラ号を見落とさないよう,見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は,前路に他船はいないものと思い,機関の調子を見極めるため煙の色に注目し,見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,ラ号に気付かず,右転するなどして同船を避けないまま進行して衝突を招き,自船の右舷船首外板に破口等を,ラ号の左舷側後部外板に破口等をそれぞれ生じさせ,A受審人に右大腿部打撲を,ラ号の同乗者に頭部挫創,右肋骨及び右鎖骨骨折並びに溺水による低酸素欠症をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は,三浦半島南岸沖合において,錨泊中,自船に向首接近する太郎八丸を認めた場合,自船の存在を認知させることができるよう,注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,太郎八丸がいずれ避けるものと思い,注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により,太郎八丸との衝突を招き,両船に前示の損傷を生じさせ,同乗者及び自らも負傷する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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