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平成17年仙審第10号
件名

遊漁船聖竜漁船光祥丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成18年3月17日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(半間俊士,原 清澄,大山繁樹)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:聖竜船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:光祥丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a

損害
聖竜・・・左舷前部外板を圧壊
光祥丸・・・船首部を圧壊

原因
聖竜・・・動静監視不十分,各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
光祥丸・・・警告信号不履行,各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は,聖竜が,動静監視不十分で,漁ろうに従事している光祥丸の進路を避けなかったことによって発生したが,光祥丸が,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年5月23日05時30分
 山形県酒田港南西方沖合
 (北緯38度52.8分 東経139度40.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 遊漁船聖竜 漁船光祥丸
総トン数 19トン 2.98トン
全長 24.10メートル  
登録長 20.84メートル 9.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 992キロワット 220キロワット
(2)設備及び性能等
ア 聖竜
 聖竜は,平成9年9月に進水し,2機,2軸,2舵を装備した旅客定員20人,航行区域を限定沿海区域とするFRP製一層甲板型の遊漁船で,船体中央に操舵室を,その後方に釣り客用の船室を設け,操舵室右舷側に操縦席があった。
 操舵室に,操舵輪,遠隔操舵装置,自動操舵装置,汽笛の自動吹鳴装置などの設備や,レーダー2台,GPS,魚群探知器,ソナーなどの計器類を有していた。
 最大速力は機関の毎分回転数2,200において約23ノットで,平素の航海速力は同1,500で約20ノットであり,航行中の船首浮上は大きなものでなく,操舵室右舷側の床からの高さ約0.9メートルの操縦席に腰掛けて操船するときは船首方の死角はなかった。
イ 光祥丸
 光祥丸は,昭和55年5月に進水した小型底引き網漁業等に従事するFRP製漁船で,後部甲板の両舷には曳網索を巻き取るリール各1基並びに足踏み式の機関遠隔操縦装置及び遠隔操舵装置を,操舵室には魚群探知器,GPS及び自動操舵装置をそれぞれ備えていた。
(3)光祥丸の漁具及び漁法
 当日,光祥丸は,山形県沖合の許可水域において,まがれいを対象魚種としたかけ回しによる小型機船底びき網漁業に従事しており,同漁業に使用する漁具は,船尾の両舷から船尾方にそれぞれ伸出する直径23ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ800メートルのワイヤ入り合成繊維製ロープの引綱,同じロープ及び直径で長さ200メートルの肩綱及び直径30ミリ,長さ10メートルのワイヤーロープの根綱並びに長さ16メートルの荒手網及び同16メートルの袖網が間口1.6メートル,長さ14.4メートルの袋網の入り口両端に達するものであった。
 漁具の投入はかけ回しの方法で,右手綱端に浮標を付けて海上に投入し,約10ノットで航走して同綱を伸ばし,約5ノットに減速してから針路を90度右に転じ,同綱に続けて右肩綱の半分を伸ばして機関のクラッチを切り,惰力で前進しながら同綱の残り半分を伸ばし,停船して同綱と右根綱を連結したのち,クラッチを入れて機関を微速力前進にかけ,前進しながら約2分かけて右根綱,右荒手網,右袖網,袋網,左袖網及び左荒手網を投入し,網の投入終了後針路を20度右に転じて増速しながら左根綱及び左肩綱を伸ばし,同綱を伸ばし終わったところで,左引綱を伸ばしながら最初に投入した浮標に向かい,右引綱を右舷船尾にとって終了し,曳網を開始する。
 1回の操業時間は,曳網索の伸出及び投網に約10分,右舷引綱端の取り込み及び船上への結止に約5分,曳網に約20分,曳網索の巻き取り及び網揚げに約15分と,50分から1時間であった。

3 事実の経過
 聖竜は,A受審人が1人で乗り組み,釣り客8人を乗せ,遊漁の目的で,船首0.7メートル船尾1.3メートルの喫水をもって,平成16年5月23日05時00分山形県酒田港を発し,同港南西方16海里ばかりの釣り場に向かった。
 05時11分A受審人は,酒田港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から293度(真方位,以下同じ。)480メートルの地点で,針路を238度に定めて自動操舵とし,機関の毎分回転数を1,500とし,20.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
 A受審人は,操縦席に腰掛けて操船にあたり,ときどき,1.5及び3海里レンジとした2台のレーダーを見て正船首方やや左舷側に映像を認めていたことから,05時25分南防波堤灯台から239度4.8海里の地点に達したとき,左舷船首5度2,900メートルのところに光祥丸を初めて視認し,双眼鏡を使用しなかったので同船の動静を確認できなかったものの,同船が漁船であることを知り,操舵を遠隔操舵装置による手動に切り替えて続航し,同時28分光祥丸が同方向1,170メートルのところとなり,自船の前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で航行しているのを認め,汽笛で短音3から4回の吹鳴を始めた。
 A受審人は,05時29分南防波堤灯台から239度6.1海里の地点に達したとき,同じ態勢で航行している光祥丸を左舷船首10度590メートルのところに認めたが,同船は避航船であり,汽笛の吹鳴に気付いて避けてくれると思い,双眼鏡を使用して光祥丸を見張るなど,同船に対する動静監視を十分に行わず,同船の掲げた鼓形形象物や船尾から出ていたロープを見落とし,同船が漁ろうに従事している船舶であることに気付かず,同船の進路を避けないまま進行した。
 A受審人は,同じ針路及び速力で続航中,05時30分少し前左舷船首至近に迫った光祥丸に危険を感じて右舵をとり,汽笛を長音の自動吹鳴に切り替え,機関を後進にかけたが効なく,05時30分南防波堤灯台から239度6.4海里の地点において,原針路のままほぼ船体が停止して機関も停止した聖竜の左舷前部に,光祥丸の船首が後方から72度の角度で衝突し,同船がわずかな時間聖竜に乗り揚げたが直後に離れた。
 当時,天候は晴で風力2の南東風が吹き,潮候は上げ潮の中央期であった。
 また,光祥丸は,B受審人が1人で乗り組み,操業の目的で,船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって,同日03時45分山形県加茂港を発し,同港の北北西方8海里ばかりの漁場に向かって04時25分漁場に着き,前部マストの甲板上からの高さ約3メートルのところに鼓形形象物を掲げて操業を行い,05時20分1回目を終了した。
 B受審人は,2回目の操業を行うこととして船首を200度に向け,後部甲板で後方を向いて操船にあたっていたところ,船尾方遠方に,酒田港を出港し,南西方に向かう5,6隻の船舶を認めたものの,これまでの経験でかけ回しをしている間は大丈夫と思い,見張りを十分に行わなかった。
 B受審人は,05時23分南防波堤灯台から240度5.9海里の地点でかけ回しの浮標を入れ,針路を200度に定め,機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力とし,長さ800メートルの右手綱を投入し,同時25分半南防波堤灯台から237度6.3海里の地点で5.0ノットの速力に減じて針路を290度に転じ,右肩綱の半分を投入しながら進行し,同時26分少し過ぎ機関を中立として惰力で前進しながら同綱の残りを投入した。
 B受審人は,05時27分半船体がほぼ停止し,右肩綱の伸出が終了するとき,同綱と右根綱を連結して機関を極微速力前進にかけ,1.2ノットの速力で右根綱,それに続く網部の投入を開始した。
 05時29分B受審人は,右舷船尾62度590メートルのところに,自船の前路を左方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する聖竜を認め得る状況であったが,網部の投入に気を奪われ,右舷方の見張りを十分に行わなかったので接近する同船に気付かず,警告信号を行うことも,その後,機関を中立とするなど,衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 05時29分半B受審人は,網部の投入を終了したので針路を310度に転じ,聖竜が右舷船尾89度290メートルとなったところ,同船の吹鳴する汽笛を聞き落としたこともあり,依然,見張り不十分で同船に気付かず,機関の毎分回転数を1,000として5.0ノットの速力とし,左根綱及び肩綱の投入をしながら進行中,前示のとおり衝突した。
 B受審人は,衝突して初めて聖竜に気付き,事後の措置にあたった。
 衝突の結果,聖竜は左舷前部外板を,光祥丸は船首部をそれぞれ圧壊し,のちいずれも修理された。

(本件発生に至る事由)
1 聖竜
(1)動静監視が不十分であったこと
(2)光祥丸が掲げた鼓形形象物及び船尾から出しているロープを見落としたこと
(3)自船が保持船であると思っていたこと
(4)光祥丸の進路を避けなかったこと

2 光祥丸
(1)周囲の見張りを十分に行わなかったこと
(2)警告信号を行わなかったこと
(3)衝突を避けるための協力動作をとらなかったこと

(原因の考察)
 本件は,釣り場に向かって航行中の聖竜が,動静監視を十分に行っていれば,光祥丸が漁ろうに従事していることを認識して同船の進路を避け,発生を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,動静監視を十分に行わず,光祥丸が避航船であって,自船の汽笛信号で避航するものと思い,光祥丸の進路を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,かけ回しによる投網のために航行中の光祥丸が,周囲の見張りを十分に行っていれば,右方から接近する聖竜を認識して警告信号を行い,衝突を避けるための協力動作をとることができ,本件発生を回避できたと認められる。
 したがって,B受審人が,これまでの経験でかけ回しのときは見張りをしなくても大丈夫と思い,網部の投入に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わず,警告信号の吹鳴も,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことは,本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件衝突は,山形県酒田港南西方沖合において,釣り場に向かって航行中の聖竜が,動静監視不十分で,小型底引き網漁により漁ろうに従事していた光祥丸の進路を避けなかったことによって発生したが,光祥丸が,見張り不十分で,警告信号を行わず,衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,山形県酒田港南西方沖合において,釣り場に向かって航行中,前路を右方に横切り,衝突のおそれのある態勢で接近する光祥丸を認めた場合,同船が漁ろうに従事している船舶かどうか判断できるよう,双眼鏡を使用するなどして同船の掲げる鼓形形象物を確かめるなど,同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,光祥丸が避航船であって,自船の汽笛信号で避航するものと思い,動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により,光祥丸が漁ろうに従事している船舶であることに気付かず,同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き,聖竜の左舷前部外板及び光祥丸の船首部にそれぞれ圧壊等の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は,山形県酒田港南西方沖合において,鼓形形象物を掲げてかけ回しによる投網作業を行う場合,自船に接近する船舶の存在を確かめることができるよう,周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,これまでの経験からかけ回しのときは見張りをしなくても大丈夫と思い,網部の投入に気を奪われ,周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,接近する聖竜に気付かず,警告信号を行うことも,衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き,前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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