(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成17年3月26日09時53分
宮城県松島港
(北緯38度22.17分 東経141度03.80分)
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船やまびこ |
旅客船マリンスター |
総トン数 |
88トン |
19トン |
全長 |
27.10メートル |
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登録長 |
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11.92メートル |
機関の種類 |
ディーデル機関 |
ディーデル機関 |
出力 |
735キロワット |
566キロワット |
3 事実の経過
やまびこは,航行区域を限定沿海区域とする,2機2軸2舵の鋼製旅客船で,船長ほか2人が乗り組み,観光客を遊覧させる目的で,船首1.05メートル船尾1.20メートルの喫水をもって,平成17年3月26日10時00分に出港する予定で,宮城県宮城郡松島町の松島観光桟橋(以下「観光桟橋」という。)東側の係船地点に船首を337度(真方位,以下同じ。)に向け,入り船状態の左舷付けで着桟していた。
09時53分やまびこは,船長が観光客の一部9人を乗船させたとき,北緯38度22.17分東経141度03.80分に存在する観光桟橋の付け根から157度35メートルの地点において,その右舷船首部に船首方から離桟したマリンスター(以下「マ」号という。)の右舷船首部が左舷前方から14度の角度をもって衝突した。
当時,天候は晴で,風力3の西風が吹き,潮候は下げ潮の末期であった。
また,マ号は,航行区域を平水区域とする,2機2軸2舵の軽合金製双胴型旅客船で,平成15年11月に交付された二級小型船舶操縦士(5トン限定)及び特殊小型船舶操縦士の各免許を所有するA受審人ほか1人が乗り組み,船首0.90メートル船尾1.80メートルの喫水をもって,同日09時52分ころ観光桟橋東側を離桟し,同桟橋南西方の水族館前の係留地に回航することになった。
ところで,観光桟橋東側の付け根付近には,橙色をした直径約40センチメートルの,荒天避泊する小型船用のアンカーブイがあり,以前他船がそのロープをプロペラに絡めたことがあった。
A受審人は,着桟中には係留索を前後に1本ずつとっており,出港する際には船尾の係留索を先に桟橋上の係員が解纜(かいらん)し,その後,船首部の係留索を自船の甲板員が解纜するようにしていたところ,09時52分半同甲板員が係留索を解纜するのを認めたので,船体中央よりやや右舷側に設備されたいすに腰を掛け,観光桟橋を離桟することにした。
09時52分半少し過ぎA受審人は,離桟する際,自船の船首位置が観光桟橋付け根から151.5度26メートルとなる地点で着桟しており,同桟橋の自船の前方至近に着桟中のやまびこを視認していたものの,左舷後方のアンカーブイのロープが気になり,機関を十分後進にかけられないまま,左舵を10度とってわずかな時間右舷機を後進にかけ,次いで同舵角のまま,同機を微速力前進にかけたが,観光案内用テープの収納に気をとられ,左回頭で十分安全に同船を替わして離桟できるよう,操舵舵角を十分とることなく,機関を前進にかけて進行した。
こうして,マ号は,桟橋との角度が十分に開かないまま,わずかな速力で前進し,09時53分わずか前A受審人が右舷船首至近に迫ったやまびこの船首を認め,急いで機関を中立としたが,及ばず,原速力のまま,前示のとおり衝突した。
衝突の結果,やまびこは,右舷船首部外板に凹損及び擦過傷を生じ,マ号は,右舷船首部外板を圧壊するなどの損傷を生じたが,のちいずれも修理された。
(海難の原因)
本件衝突は,宮城県宮城郡松島町の松島観光桟橋において,同桟橋のマリンスターの前方至近にやまびこが着桟している状況下,マリンスターが,離桟する際の操舵舵角が不十分であったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は,宮城県宮城郡松島町において,松島観光桟橋を離桟して係留地に回航する場合,同桟橋の自船の前方至近にやまびこが着桟していたのであるから,左回頭で十分安全に同船を替わして離桟できるよう,操舵舵角を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,左舷後方のアンカーブイのロープに気をとられて十分に後進せず,かつ,観光案内用テープの収納に気をとられ,操舵舵角を十分にとらなかった職務上の過失により,左舵を10度にとっただけで,わずかな速力で前進し,十分な左回頭が得られないまま進行してやまびことの衝突を招き,自船の右舷船首部外板に圧壊を,やまびこの右舷船首部外板に凹損及び擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
参考図
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